Gene Piracy

Gene Piracy
(11.9.P36.1998)

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今回は SCIENCE から
  Webではアジア版のカバーストーリーになってますね。比較的読みやすい記事ではないかと 思います。ちょっと長いけど。木の名前とか川の名前、それに製薬会社などの名前はいい加減 ですので、ご注意下さい。

遺伝子略奪


語彙は主に『英辞郎』Ver.10から抜粋

 

大意

語彙

P36 地球上最悪の病気を治すことのできる有機物を見つけようと−−あるいはそ れから利益を得ようとして−−プロスペクターが世界を捜し歩くとき、 倫理上の問題が湧き起こる gene : 遺伝子、 piracy : 海賊行為,著作権侵害、 ethical : 倫理の、 rage : 猛威を振るう、 prospector : 試掘者,探鉱者,投機者、 scour : 探し回る、 organism :生物,有機的組織体
1 インド東海岸沖にあるアンダマン諸島の原始部族はマラリアに効く薬を見つ けていたのかもしれないが、この生命を救うこととなるかもしれない薬を科 学者は当面テストできないだろう。部族の「秘密」を発見したインドの微生 物学者デバパラサド・チョトパッダーエが、その製法を公表することを拒否 しているのだ−−彼が言うには、この部族を保護するためと、この薬で利益 を得ようとしている上司に対抗するためだ。というわけで、彼は生物探索と いう物議をかもしている分野でいつのまにか活動家になっていた。生物探索 というのは、人里離れた地域で、医学的かつ科学的に有用で特許のとれる 物質を見つけ出す探索のことである。それは「遺伝子略奪」の探索だと非難 する人もいる。 primitive tribe : 原始的部族、 Andaman : アンダマン島人、 malaria : マラリア、 Chattopadhyay : チョトパッダーエ、 microbiologist : 微生物学者、 formula :式,公式,製法、 foil : くじく,裏をかく、 controversial : 物議をかもす,問題になる、 prospecting :探鉱,探査、 quest : 探求,探索、 track down : 見つけ出す,追跡して捕らえる、 medically : 医学上、 scientifically : 科学的に、 patentable :特許できる,特許を受けられる
2 チョトパッダーエの場合は1993年の探検で始まる。アンダマンの熱帯雨林の 奥深くにオンゲ族を訪れたときのこと。この生物学者は、オンゲの人達の周 りには蚊がいっぱいいるのに誰もマラリアにかかってないことに気づいたの である。部族民と親しくなって、チョトパッダーエはオンゲの煤けた蜂の巣 のような小屋に連れて行かれ、苦く薬効性のある飲み物を見せられた。彼は 薬になる植物をいくつかもらった。ポート・ブレアのアンダマンの町にある 自分の実験室に戻ってみて、それが素晴らしい発見だったとわかった:植物 のうちの2つには抗熱成分が含まれ、3つ目の植物は病気になった人の血液 中からマラリア原虫の数を減らすものだった。チョトパッダーエはまもなく オンゲの薬を試す機会を得た。ジャングルを何度か訪れるうちに彼はマラリ アに罹ったのだ。彼はその抽出物でできたジュースを飲み3日で回復;彼の熱 は再発しなかった。また、地元の医者にマラリアでも別の菌によるもの、例 えば致命的な熱帯性マラリアに罹っている患者に試してみるよう頼んだ。こ の飲み物はこの治療を受けた7人全員に効果があることが判明した。 expedition : 探検、 rain forest : (熱帯)雨林、 biologist : 生物学者、 mosquito : 蚊、 malaria : マラリア、 befriend :友人になる、 Chattopadhyay : チョトパッダーエ、 smoky : 煤けた、 medicinal : 薬効のある、 brew : 醸造物,醸造酒,ビール、 potion : 薬、 properties : 特性、 malarial parasite : マラリア原虫、 infected : 感染した,伝染した、 human blood : 人の血液、 come down with :(病気に)かかる、 malarial fever : マラリア熱、 extract : 抽出物、 strain : 菌株、 falciparum malaria :熱帯性マラリア,熱帯熱マラリア
3 無論、テストされた人数が少ないので結論を出すことはできないが、この結果 は有望だった。製薬会社にとりマラリアの治療薬は何億ドルもの価値がある。 主にうだるような暑さに位置するアフリカ、アジア及び中南米の国々で、この 病気により毎年200万人以上の人が亡くなっている。彼は有名になり金持ちに なることを夢見た;また、利益のいくらかはオンゲ族保護のために使われると 考えたと彼は言っている。部族の人数は100人足らずで、居住地は今にもなく なりそうだ。オンゲというのは部族の言葉で「完全な男達」を意味し、自分達 の独自性に対するこうした信仰は恐らく1,000年間揺らぐことはなかった。彼 はオンゲの製法による利益でこの部族が自分達の原始的なパラダイスを守る役 に立てば、と願った。社会活動家で彼の友人であるサミール・アカリャはこう 語る:「種の多様性を保護するものとして、オンゲ族は利益を受けるに値する と彼は感じたのです。」 test group : 実験群、 conclusive : 決定的な,最終的な、 findings : 研究結果、 encouraging : 有望な、 remedy : 治療薬、 pharmaceutical company : 製薬会社、 sweltering : うだるように暑い、 Latin America : 中南米、 biologist : 生物学者、 envision : 想像する、 royalty :印税,管轄権,採掘権、 habitat : 居住地,生育地,生息地、 unshakable : 不動の,揺るぎのない、 safeguard : 守る,保護する、 protector : 保護者,後援者、 biodiversity : 種の多様性,生物学的多様性
4 そうはいかなかった。チョトパッダーエがいる政府の研究センターの上司が 自分の名前でそのマラリア治療薬の特許出願を申請しようとしていることが わかったのだ。上司が植物の名前を明かすように彼に迫ったとき、彼は拒否 した。ポート・ブレアに戻ってみるとそこの上司サブハッシュ・K・サイガル はこの生物学者の要求を退けた。この研究はまだ予備的で実験室段階のもの だと主張するのだ。「あの若い科学者は興奮し過ぎていた」とサイガル。 チョトパッダーエ自身も、アフリカのある部族同様にオンゲ族もマラリアか ら守る突然変異した鎌形遺伝子を彼らが持っている可能性があると認めてい る。だが、当局は、彼がオンゲに戻って更なる実験をすることを許可しよう とはしない。 Chattopadhyay : チョトパッダーエ、 research center : 研究センター、 file a patent :特許を申請する、 patent application : 特許出願、 Port Blair : ポートブライア,インド、 dismiss :退ける、 contend : 強く主張する、 preliminary : 予備的な、 laboratory stage : 実験室段階、 concede : 真実と認める、 mutant : 突然変異による、 sickle-shaped : 鎌形の、 gene : 遺伝子、 immunity from : 免疫の
5 オンゲの薬における戦いは珍しいものではない。コンピュータ技術や遺伝子 工学、それに生物学のいくつかの分野における画期的な進展により、熱帯雨林 や熱帯地方の山岳地帯への正真正銘のゴールドラッシュが始まった。世界の 動植物の多くが見つかるのはこの地域なのである。アメリカで売られている 処方箋薬の4分の1は、わずか40種の植物から得られる薬品が基礎となっている と信じられている。現在のところ、世界の265,000の顕花植物のうちその薬効 がテストされたのは1%に満たない。 potion : (妙)薬、 isolated case : 極端な例,孤立した、 breakthrough :躍進、 computer technology : コンピュータ技術、 genetic engineering : 遺伝工学、 realm : 領域,分野、 veritable : 本当の,真の、 rain forest : (熱帯)雨林、 mountain range : 山岳地帯、 prescription drug : 処方箋が必要な薬、 chemicals : 薬品、 derive from :得る,〜に由来する、 flowering plant : 顕花植物、 curative : 治癒的な,病気に効く
6 だからこそ生物探偵はいたるところにいるのである。こうした大胆な探求者 達はラップトップとサンプル採集の道具を入れたバックパックを持って、メ キシコの吸血蝙蝠の唾液を抽出し、人間の血栓の溶解の物質かどうかを臨床 的にテストするのに忙しい;彼らはアマゾンの神聖な陶酔を催す飲み物の特 許をとり;パナマの土から目に見えないほどのキノコをすくいとる。南イン ドでは、植物学者がイルラ部族と過ごしている。その土地の呪術医がコブラ に噛まれた傷を治すのに使っているのはどの実とどの植物かを確かめようと してのことだ。熱帯雨林で見つかった樹皮から得た薬品タクソルは既に実験 され数種類の癌に対して予防効果があることがわかっている。生物学的及び 文化の多様性を促進するという、ロンドンにあるガイアファンデーションの ヘレナ・ポールは、「まさに探検熱です−−金を選り分けるためにユ−コン 川に人々が向かったようなものです」と語る。今、これらプロスペクターは 土地を要求するのではなく物質を要求しています。その物質はバクテリアの たった一つの遺伝子ということもあるのです。実際、科学者は人間の80,000 の遺伝子の地図を作成し調べ、DNAの鎖をチョコンと切り取って特許局に行こ うとして忙しいのです−−ときには、これらの配列がどういう効果をもつか ということに対して、ほんのちょっとしたヒントにすぎないこともあります。 結果的にはそれが治療につながり富と名声をもたらすことを期待してのこと なのです。「偶然に創造物におけるもっとも価値あるものを特許にとるかも しれないのです」とポール。 and so : そこで,それだから、 sleuth :刑事,探偵、 hardy : 大胆な,勇敢な、 laptop : ラップトップコンピューター、 backpack : バックパック《野外生活用具を背負って運ぶための(フレーム付きの) リュックサック》、 extract : 絞り取る,抽出する、 saliva : つば,唾液、 vampire bat : 吸血蝙蝠,吸血コウモリ、 clinically : 臨床上、 dissolve : 溶かす,溶解する、 blood clot : 凝血,血餅,血栓、 patent :の特許権をとる、 sacred : 神聖な、 Amazonian : アマゾンの、 psychedelic : サイケデリック,陶酔の、 brew : 醸造物,醸造酒,ビール、 microscopic : 顕微鏡でやっと見えるほどの,微視的な、 fungus : 菌(類),キノコ、 botanist : 植物学者、 in hopes of : 希望して,期待して、 Yukon : ユーコン川 《Yukon 準州と米国 Alaska 州を流れて Bering 海に注ぐ川》、 pan :鍋で〈砂金を〉えり分ける、 prospector : 試掘者、 stake :の分け前を要求する、 claim on : 〜に損害賠償を要求する、 bacterium : 細菌,バクテリア、 mapping : 写象,地図作製,遺伝地図作製、 gene : 【変化】《複》genes,【大学入試】,遺伝子、 snip off :チョキンと切る、 DNA : デオキシリボ核酸、 strand : より糸,ひもに通したもの,(DNAの)ストランド、 rush to : 殺到する、 clue : 糸口,手がかり,端緒、 configuration : 構成,配置、 renown : 名声,声望、 creation : 創作物,創造,作成
7 当然のことだが、長生きができ健康な生活をおくれるような新薬の恩恵を誰 もが待ち望んでいる。だが問題を複雑にしているのは:誰がその利益を受け 取るか?誰もが遺伝子という金脈の分け前を望んでおり、世界を跨って複雑 な戦いが所有権をめぐって生じている。戦いは、先進国と発展途上国、多国 籍企業と生態学者や社会活動家、そして政府とその国の部族民とで起きてい る。これら遺伝子戦争は科学の発展に脅威となる−−インド、中国それにブ ラジルを含むいくつかの国では、略奪されるのを恐れて自国の豊かな生物圏 へ立ち入ることを制限しようとしている−−だけでなく、倫理上の矛盾も引 き起こしている:政府や企業それに科学者に、生物の最も根源的な仕組みに 対する所有権を要求する権利があるのだろうか? stand to : 待機する、 perplex : 複雑にする,混乱する、 genetic : 遺伝子の,遺伝学の、 mother lode :主脈、 shape up : ある傾向を示す,ある様相を呈する、 ownership : 所有,所有権、 pit against :取り組ませる,戦わせる、 industrialized nations : 工業国,先進国、 multinational : 他国籍の,多国籍企業、 ecologist : 生態学者、 tribal people : 部族民、 biosphere : バイオスフェア,生物圏、 plunder :略奪,略奪品、 ethical : 倫理の、 innermost : 最も深い部分,最も内側の部分、 workings : 仕組み、 living organism : 生体,生物
8 それは神の行為に値札をつけるようなものだ。「生命の特許権を取ると考え るのは恐ろしい」とイサベル・マイスター。グリーンピースの遺伝子工学問 題の運動員である。実際、企業というのは時に、複雑な自然の中で生じてい る不思議な工程で発見したもの−−実は垣間見ただけのもの−−を発明とご まかそうとすることがある。純粋な科学的研究が、DNAの二重らせんへの立ち 入り禁止を宣言した企業によって簡単に阻止されることがあるのだ。 price tag : 値札,価格,正札、 frightening prospect : 恐ろしい展望、 campaigner : 運動員、 pass off as : 〜として通す,ごまかす、 roil : 撹(コウ)乱,かき乱す、 crucible : 厳しい試練,るつぼ、 genuine : 純粋の、 biologist : 生物学者、 blocked : ふさがった,麻薬に酔った、 nail up : 釘付けにする,(高い所に)とり付ける、 no trespassing : 立入禁止、 DNA : デオキシリボ核酸、 double helix : (DNA分子の)二重らせん,二重螺旋
9 先進国と豊かな資源を持つ新興国家との対立が激しくなっている。製薬会社 は何十年にも渡って動物や薬草を系統的にテストしてきた。だが今や、遺伝 研究の躍進により、薬を求めて広範囲な地域−−熱帯雨林全域、つまり最大 の木であるベンガルボダイジュから最小のバクテリアまで−−をカバーする ことが可能になったのだ。「途方もない戦いが切って落とされようとしてい ます」と、ワシントンにある国際技術評価センター所長のアンドリュー・キ ンブレル。戦いの一つとして、世界の貿易に関する規則をどう変更するかと いうことがあります、と彼は言う。西側諸国の中には、動植物を国際的な所 有権から除外することを望む国もあります。「第三世界は無論これに反対で す」とキンブレル。1992年に起草された種の多様性に関する協定が、世界が この問題に取り組んできたものに一番近い。しかし合意には至っていない。 アメリカは、生物研究室が一番多いものの、その協定の批准を拒否している。 キンブレルが言うには議会がこれに反対しているという。というのも、「国 際的な環境問題に相反する要素がここにあり、この協定はアメリカの選択肢 を少なくすると議員は感じている」からだ。 confrontation : 対決、 heat up : いちだんと厳しくなる、 methodically : 系統的に,整然と、 medicinal plant : 薬用植物,薬草、 innovation : 革新,新機軸、 genetic research : 遺伝子研究、 banyan tree :ベンガルボダイジュ《枝から多数の気根が出る》、 shape up : ある様相を呈する、 revise : 改正する、 exempt : 免除する、 property right : 財産権,所有権、 Third world : 第三世界、 convention :協定、 biodiversity : 種の多様性,生物学的多様性、 draft :起草[立案]する、 world community : 国際社会、 tackle : 取り組む、 consensus : 合意、 ratify : 批准する
10 その意図するところはいいのだが、協定の条項を守らせることは不可能だ。 生物略奪者は捕獲し難いことがわかっている;彼らにしてみれば、ある国か ら薬草を多量に持ち出す必要はなく、ちょっとした見本をこっそり持ち出す だけでいいのだ。それからDNAの遺伝子情報が実験室で複製されるから。例え ば、ブラジルの科学者は、リオ・グレゴリオ川のほとりに住むヤワナワイン ディアンが腸疾患を治すのに使っているカエルを研究している。人類学者の 話では、その部族は、病人に無理矢理薬効のある飲み物を飲ませる。そして、 病人の腕と脚をつかみ断崖からぶら下げる。仕上げには、先の尖った棒にこ のカエルの唾液を塗り病人の腕をこの棒で突付き唾液を血液の中に注入する のである。患者は震えが起こり、断崖の上から腹の中のものをすべて吐き出 す−−そして回復する。もし薬が開発されれば、将来、医者は突ついたりさ かさにぶら下げたりする必要がなくなるだろう。 provisions : 条項,規定、 police :管理[支配]下に置く、 notoriously : 悪名高く、 smuggle : 密輸する,そっと持ち出す、 tons of : たくさんの、 genetic code : 遺伝子コード,遺伝情報、 replicate : 複製する、 intestinal disease : 腸疾患、 anthropologist : 人類学者、 potent : 効き目のある,良く効く、 dangle :ぶらさげる、 precipice : 絶壁,断崖、 saliva : つば,唾液、 pointed stick : 尖った棒、 jab : ジャブで突く、 heave :吐く,嘔吐する、 forgo : 〜なしで済ませる、 upside down : さかさまに
11 遺伝子泥棒の中には人間を格好の目標とみているものもいる。孤立している 部族はある病気に対して独特の抵抗−−または時として弱さ−−を持ってお りそれを求めるのである。フィリピンの大学の薬理学者イシドロ・シアによ れば、アメリカの科学者は人類学者と偽ってルソン地方の少数民族から細胞 のサンプルを集めている。この地方の民族は癌や糖尿病に対して免疫がある ことが知られているからだ。「搾取−−略奪さえも−−がますます起こるよ うになっている」とマニラの議員ジュアン・フラビエ博士は言う。アマゾン のあるインディアンの部族では、人の血を盗むことはその人の魂あるいは影 を盗むことと同じなのである。それにも関わらず、遺伝子略奪者はカイアポ インディアンから血液サンプルを採りその遺伝子特性の特許を取った、とブ ラジルに本拠を置く社会環境機関は主張。北京でも、デューク大学が行った 中国の老人10,000人に対する研究で同様の不満が湧き起こった。老化に関す る中国研究センターの元職員が、上司がアメリカ人と共謀して「長寿の秘密 が隠されている血液サンプルと中国人の遺伝子情報を輸出」したとして告発。 この告発をこの研究センターは否定。 rustler : 牛泥棒、 fair game : 格好の的,好目標,(攻撃の)かも、 vulnerability :脆弱性、 pharmacologist : 薬理学者、 pose as : 〜に見せかける,〜のポーズをとる、 anthropologist : 人類学者、 tissue : (細胞の)組織、 immunity : 免疫性,免疫、 diabetes : 糖尿病、 exploitation :搾取、 persistent : 永続的な、 characteristics : 特性,特徴、 allege : 強く主張する,申し立てる、 administer : 施行する、 collude with : 〜と共謀する、 secret of longevity : 長寿法
12 世界の遺伝情報の多くが生物銀行に保管されている。そこには各銀行に100,000 近くの遺伝子サンプルがある。何十年もの間、製薬会社や農業関連会社は、 その遺伝子が見つかった国には金を払わずこうした資源を利用してきた。将 来、遺伝子ハンターはジャングルをうろつく必要さえなくなるだろう。体の 仕組みがもっと分かってくると、製薬会社は個人個人に対して独自の処方箋 を提供できるようになる。特別にあつらえられた薬から、言ってみれば第三 世界の熱帯雨林で見つけられた最初の遺伝子情報に辿りつくことは、遠い道 のりであり事実上追跡不可能となろう。だからこそ、環境保護主義者が発展 途上国の生物的権利の保護を急ぐのである。 bounty :賜物、 apiece : ひとつにつき,おのおのにつき、 agribusiness firm : アグリビジネス企業,農業関連企業、 tap :求める,引き出す、 trudge : 重い足取りで歩く,苦しい歩行、 tailor : あつらえる、 customize :特別の注文に応じて作る,あつらえる、 circuitous : 遠回しの,回りくどい、 virtually : 事実上、 untraceable : 追跡できない、 environmentalist : 環境保護主義者、 developing nation : 後進国,低開発国
13 こうした製品の中には多くの人の命を激変させるものがあるのは言うまでも なく、それがまた地球の果てまで遺伝子ハンターを派遣させる価値ともなる のだ。南大西洋の風が吹き荒れる島トリスタンダクーニャの住人から採取さ れた血液サンプルが1997年の「喘息遺伝子」発見につながった。アメリカの セクアナ・セラプテイクスとの共同で、ドイツの製薬会社ボーリンガー・イ ンゲルハイムに勤める科学者によるもの。この遺伝子は、喘息に苦しむ何億 もの人々の呼吸を楽にする治療への道を開くかもしれない。 revolutionize : に革命を起こす,を激変させる、 worthwhile : する値打ちのある、 dispatch : 急派する、 desolate : 人里離れた,荒涼たる、 Tristan da Cunha :トリスタンダクーニャ《南大西洋にある英領の火山島群》、 scour :すりみがく,洗い流す、 asthma : ぜん息,喘息、 in collaboration with : と共同して、 therapeutics : 治療学
14 しかし、正しい遺伝子や正しい化学配列を見つけることは、エベレスト級の 干し草の山から1本の針を探すようなもの。研究者がますます当てにするよ うになっているのは、部族のシャーマンや呪術医の知識である。もはや科学 者は、祈祷師のコウモリの羽による治療を無視することはない。墓場から とってきたキノコや黒いオンドリの血を必要とする薬は、迷信ではなく実は いくらか科学的根拠があるのだ。熱帯雨林の植物のカタログを作っている科 学者は、気候、土それに場所すべてが植物によって産み出される細胞や酵素 に影響を与えることに気づいた。 sequence : 系列,順序、 haystack : 干し草の山、 rely on : 頼みにする、 shaman : シャーマン,巫女、 medicine man :祈祷師,呪術医、 dismiss :退ける、 witch doctor :まじない師,祈祷師、 toadstool : キノコ,毒たけ、 pluck :を摘む、 graveyard : 墓地、 rooster : おんどり、 enzyme : 酵素、 flora : 植物,植物相
15 オンゲの苦い飲み物と同じく、こうした昔からの調合薬は、薬を開発する長 い過程のなかの最初の大きな一歩となり得る。その地域の動植物に対する部 族の知恵を借りたり「盗んだり」することにより、製薬会社は何年もかかる 試行錯誤の期間と何百万ドルもの研究費用を節約できる。「インドには5,000 を越える部族がいます」とデリーにあるジャワハラル・ネール大学の生態系 教授P.S.ラマクリシュナンは言う。「どこの部族も使ってないような植物を 見つけることは不可能です。」 concoction : 調合物,調合薬、 lore : 知識,知恵,民間伝承、 indigenous : 原住民の、 pharmaceutical company : 製薬会社、 hit-and-miss : でたらめの,行き当たりばったりの、 ecology : 生態学,生態系
16 生態系活動家ヴァンダナ・シヴァによれば、インドだけで、高血圧からリウマ チ熱に至る病気を治すのに伝統的に用いられて来た少なくとも22種類の植物の 医療特性に対し、インド及び外国の科学者や製薬会社に国際的特許が与えられ ている。利益は莫大なものとなろう。あるフランス人は、アフリカのPygeumの 木の樹皮からの抽出物の特許を取った。これは土着の治療師が「老人の病気」 −−前立腺肥大、つまり高年齢の男性によくある病気−−を治すのに用いてき たもの。アフリカ全土で、何百トンもの樹皮が採取されており、そのほとんど は違法に採取され、その木は絶滅寸前かもしれない。Pygeumの木から選られる 製品の売り上げは年間2億2千万ドルにものぼる。 medicinal : 薬効のある、 properties : 特性、 high blood pressure : 高血圧(症)、 rheumatic fever : リウマチ熱、 extract : 抽出物、 healer : 治療する人,神霊治療家、 prostate : 前立腺(の)、 ailment : (軽い)病気、 on the verge of :〜に瀕して,の瀬戸際にある、 extinction : 消滅,死滅,絶滅、 amount to : 達する,合計〜になる
17 活動家にとっては、これは「遺伝子帝国主義」である。つまり、昔、鉱床を 搾取し土地の所有者にはわずかな金しか与えなかったことに似ているのだ。 生物多様性条約は次のような認識を持っている。もし製薬会社や農業関連企 業が伝統的な資源や知恵に基づいた製品を開発するのであれば、原住民はそ の生物圏を守ってきたのだから何らかの恩恵を受けるに値するというもの。 だが、ミューニッヒに本部のあるNo Patent to Lifeのクリストフ・センに よれば、製薬会社は、遺伝子情報を提供する国に自分達の利益から相応の分 け前を渡すなどということはめったにないという。部族民の多くは外部のも のと知識を分かち合うのはいやがるのだが、わずかな金で秘密を喜んで渡す ものもいる。クンジラ・ムーリャ(66)は土地を持たない労働者で、南インド の霧のかかった山をさすらっている。彼は呪術師でもあり、無料で熱帯雨林 のハーブや植物を利用してヘビの噛み傷や喘息それに癲癇の治療をしている。 この人里離れた部族においても、関心を持つドイツの製薬会社からの研究者 が彼を探し出している。インドの生態学者によると、この研究者はハーブ治 療の処方に対して5ドル相当の金額を彼に与えたらしい。「ある場合には、政 府が製薬会社から金を受け取るが、その金は決して部族にいくことはない」 と、スイスの大きな製薬会社ノヴァティス・インターナショナルのスポーク スマン、マーク・ヒルは語っている。製薬会社にとってもこれは危険を伴う 事業である。たとえ地元の経験者の助けを借りても、新しい化学成分から利 益を産む薬を開発する見込みというのは恐ろしいく少ないのだ。ノヴァリス の見積もりによると、開発可能な成分10,000のうち実際に薬局の店頭に並ぶ のはわずかに1つだという。新薬の研究と販売には8年から12年の歳月と3億 5千万ドルの費用がかかる、ヒルは言う。だが、その利益は開発費を軽く越え る。ノヴァアリスで一番売れている薬、Sandeimmun/Neoral (Cyclosporin)は 新しい器官を移植した際の拒否反応を抑えるものだが、これは去年9,700万ド ルの売り上げを記録した。 imperialism : 帝国主義、 akin : 似通って,類似して、 bygone : 過去の、 exploitation : 搾取、 mineral deposit : 鉱床、 scant : 乏しい、 original inhabitant : 元から住んでいる人,原住民、 biodiversity treaty : 生物多様性[保護]条約、 custodian : 管理人,守衛、 biosphere : バイオスフェア,生物圏,生活圏、 indigenous people : 先住民、 drug company : 製薬会社、 agribusiness firm : アグリビジネス企業,農業関連企業、 pass on : 譲る、 fair share : 公正な取り分,正当な分け前、 genetic material : 遺伝形質,遺伝物質、 pittance : わずかな手当[収入]、 landless : 土地を持たない、 misty : 霧の、 medicine man : 祈祷師,呪術医、 for free : 無償で,ただで,無料で、 herb : ハーブ,草本、 snake bite : ヘビ咬傷,蛇咬症,舌咬症、 asthma : ぜん息,喘息、 epilepsy : 癲癇、 hamlet : 小村落,部落、 ecologist : 生態学者、 equivalent of : 〜相当、 medicinal : 薬効のある、 recipe : 製法,処方箋、 herbal : (薬)草の,草本の、 risky business : 冒険的な仕事、 odds : 確率,見込み,公算、 chemical compound : 化合物、 daunting : おじけづく,ひるませる、 viable : 発展しうる,実行できる、 make it : 成功する,出世する、 launch :売り出す、 payoff : 利益,収益、 development cost : 開発費、 rejection : 拒絶反応、 organ : 器官、 transplant : 移植、 rack up :獲得する
18 巨大な会社のみが新薬の開発にそうした莫大な時間と費用をかけることがで きる。コスタリカは、世界の生物多様性のおよそ5%を占める小さな国であ るが、その豊かな資源を保護するために外部の人間を迎え入れることを決定 した。500,000種の動植物があると推定される膨大な種を資金的に管理するた めに、コスタリカの国営生物多様性機関は、発見に対しての利益分配を期待 して10以上の民間企業と提携した。だが環境保護主義者の中には、熱帯雨林 という錯綜した迷宮の中から正しい遺伝子へと分類学者を導いた地元民に、 将来の利益の一部を与えるべきだと主張するものもいる。インドの環境保護 主義者アシシ・コタリはこう述べる:一旦伝統的知恵を手に入れれば、有用 な遺伝子源を見つける可能性は飛躍的に増大する。」インドとか中国といっ た、何千年にも渡って自然の医薬品を体系化してきている国では、そこの官 僚は自分達の遺伝子特性に関して保守的である。生態学者は、先進国と新興 国との来るべき「遺伝子戦争」について悲観的に予想している。 that much : それだけ,そんなにたくさん、 inventory : 物品明細表,財産目録、 cut a deal :取引をまとめる,取引を成立させる、 share in : 分配にあずかる、 findings : 研究結果,調査結果、 taxonomist : 分類学者、 tangled : 極めて複雑に入り組んだ、 labyrinth : 迷宮,迷路、 environmentalist : 環境保護主義者、 protective : 保護した,被覆薬,保護するもの,保護用、 ecologist : 生態学者
19 これは感情が絡んだ問題であり、生態学者達は西側企業を欲に目が眩んで自 然に手を付けていると非難する。インドではこの夏、外国企業がウコンとか インドセンダンといった自然な治癒力を持つ有効成分を特許化しようとした のに対して何千人もの抗議集会を開いた。中国では去年、国際企業が中国の 生物資源を搾取しないよう科学者が政府に要請。北京の遺伝子研究所副所長 ザウ・リファンは反対している。「西側科学者はここでの遺伝子戦争を心配 し、また中国が門戸を閉ざすことを心配している。だが門戸を開放すること で我々はもっと利益を受けるのだ」と彼は言う。 emotive : 感情に訴える,感情表出の、 tamper with : 手を付ける,干渉する、 greed : 貪欲、 protester : 抗議する人,主張者、 rally :反撃する、 patent : の特許権をとる、 active ingredient : 有効成分、 turmeric : ウコン,ウコン根、 neem : インドセンダン
20 もしも資金面で乏しい国が遺伝子プールに囲いを巡らすと、誰もが困るだろ う。もちろん多国籍企業は利益を望んでいるが、癌の薬の開発とか多産の小 麦種を作るといったことに何億ドルもつぎ込むのは彼らしかいない。「私た ちがやり損うとすればみんなの責任なのです」とドイツのチュービンゲン大 学の神学倫理教授ディートマル・ミース。「新しい薬が必要なこと、また天 罰があることも否定できません」とも言う。しかし、同時にまた遺伝子前線 への新たな試みは、単に利益といったものよりもっと大きな目標をもつべき である。DNA構造への生物学的先取特権とか生物圏の富を奪うことは、善意よ りむしろ欲望をむき出しにし、科学の発展を損なうだけである。適切な保護 手段が講じられ施行されるまでは、オンゲや他の部族は秘密を守っておいた 方がいいかもしれない。 fence off : 柵[塀]を巡らす、 gene pool : 遺伝子プール,遺伝子給源、 multinational : 他国籍の,多国籍企業、 cancer drug : 制癌剤、 high-yield : 多産の,多収の、 wheat : 小麦、 hybrid : 混成物,雑種、 responsible for : 責任がある、 fail to do : 〜し損なう、 theological : 神学の、 ethics : 倫理学、 scourge of God : 神の罰,天罰、 foray : 進出、 genetics : 遺伝子(学)、 claim jumper :先取特権横領者、 theft : 窃盗(罪),盗み、 hinder : を妨げる,妨害する、 safeguard : 安全装置,保護手段、 might as well : 〜したほうがよさそうだ


疑問

第16段落
Pygeum tree
日本名はなんと言うのでしょう?


間違ってるところがあるかもしれません。見つけたらメール下さい!

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