|
| |
| 1 | 1973年8月8日、東京の下町にあるグランド・パレス・ホテルで、金大中は韓国人 野党党首と秘密の昼食を終えホールを出た時、ある一味に捕らえられ、韓国語でお となしくしろと命じられた。彼は殴られ、クロロホルムのついた布を押し付けられ た後、縛られて目隠しをしたまま待っていた車に乗せられた。翌日の夜には、韓国 の貨物船に移され、そこで再び縛られ、顔は鼻の周りに空気穴のついたテー プで覆われた。船が夜の闇を進んでいくと、今度は韓国の埋葬で使われる厚い板に ロープで縛られ、手首には重りがつけられた。敬謙なカトリック信者の金は死を予 感し、神に祈り始めた。 | Kim Dae Jung :金大中、 opposition leader : 野党党首、 smother : 息もつけなくする、 chloroform : クロロホルム、 rag : ぼろ切れ、 bind : 縛る、 blindfold : に目隠しをする、 dump : 投げおろす、 freighter : 貨物船、 captor : 逮捕者,捕らえる人、 funeral : 葬儀、 plank : 厚板、 burial : 埋葬、 devout Catholic : 敬虔なカトリック教徒 |
| 2 | その祈りに突然反応したかのように、飛行機のエンジンの唸る音が船上をかすめ た。船員が叫ぶ中、金は何か重い物体が海に落ちる音を聞いた。その時、船は激し く傾き彼はデッキに投げ出された。「金大中ですか」と尋ねる声が聞こえた。その 声の主は、金の補佐官が現在信じているところによると、その船のコックだった。 接近飛行による威嚇は金を捕らえた者達を脅すのに十分効果を発揮し、彼の命を救 うことができた。 | rumble : ガラガラ[ゴロゴロ]鳴る音、 |
| 3 | 現在になってようやく、誘拐の詳細が明らかになりつつある。先週、韓国人高官 は韓国中央情報局が金の誘拐を計画したことを発表したが、その飛行機の謎に満ちた出現 についての説明はなかった。タイムは金を救出したのは米国だったことは分かって いる。当時、ソウル支局CIA長官だったグレグによると、米国は金の誘拐のニュース に素早い行動を取った。フィリップ ハビブ大使はグレグを呼び「どのような事態 か分かっている。彼らは24時間待つつもりでいるが、我々が介入しなければ金は殺 されるだろう。」と言った。グレグは韓国中央情報局が誘拐を企てたことを立証するため にできるだけ多くの支援を韓国人の情報員の中から求めた。その翌日、ハビブは青 瓦台へ赴き、金の殺害は米韓関係の“大幅な後退”となりうると朴正き大統領に忠 告した。グレグによると、あの夜、船上すれすれに接近飛行した飛行機はアメリカ ではなく韓国あるいはむしろ日本のものである可能性が大きいと言っている。しか しいずれにせよ、その忠言によって、金は悲惨な結末から逃れることができた。 | kidnapping : 誘拐、 reveal that : 判明する,明らかになる、 abduction : 誘拐、 fail to : できない、 savior : 救世主、 call in : 求める、 counterpart : 対応するもの、 verify : 証明する、 Blue House :青瓦(せいが)台《韓国大統領官邸》、 Park Chung Hee : 朴正き、 setback : 後退,逆行 |
| 4 | 再び米国が金のために介入したことは、以前よりかなり複雑なことだった。1980 年後半、政府反対リーダーが大逆罪となり、その刑の執行を待っているときだった 。海外にいる韓国人や外国のリーダー、ならびに人権擁護者達が彼の釈放を求めた が無駄だった。ワシントンではジム・カーターが次期大統領に選ばれたロナルド・ レーガンと政権交代の最中であり、また米国外交官がイランで人質に捕らわれ、さ らにまだ健在だったソ連との交渉があったため、誰も遠く離れた韓国にいる政府反 対者に構う時間などなかった。 | intervention : 介入、 dissident leader : 反体制指導者、 convict : に有罪の判決を下す、 treason : 反逆罪、 execution : 死刑執行、 overseas : 海外の、 human rights : 人権、 to no avail : その甲斐もなく,無益に、 turn over :〜に譲る、 diplomat : 外交官、 hold hostage : 人質に取る,人質にする、 intact :無傷で、 far-off : はるか彼方の |
| 5 | しかし米国は何ヶ月にもわたって金の苦境を問題にしてきた。米国が公式に正(Chun)に 異議を唱えその執行を阻止するよう求めるべきだという者もいれば、それは逆効果 だと反対する者もいた。12月上旬、当時国家安全保障理事会のスタッフだったグレ グは、国防長官ハロルド・ブラウンと共にソウルへ向かい、成果があるとは思えな い正(Chun)との会談を行なった。彼らが驚いたことに、正(Chun)は直ちに核心に触れた。最初に 彼は「金大中には厄介な問題があり、あらゆる韓国軍事高官は彼の死刑を望んでい る。しかしそうすると、米国やヨーロッパとの問題が生じるため、どうすべきか分 からない。」と言った。彼はそう言ったものの、軍の高官たちに賛同しているよう だった。グレグは会談に失敗したと感じ、金は殺されるだろうと思いつつ席を後に した。 | plight : 窮地、 counterproductive : 逆効果の、 National Security Council : 国家安全保障会議、 Secretary of Defense :国防長官、 yield : 産する,生む、 to one's surprise : 意外なことに、 get to the point :ずばり核心に触れる、 incline :〜したいと思う |
| 6 | 一方国務省長官マイケル・アルマコストは政策立案者の中でもとりわけ金の行く 末が気がかりでならず、レーガンの外交問題助言者であるリチャード・アレンに連 絡を取った。アルマコストはアレンに、正は金を思うままに扱うべきだと、高い地 位にある共和党員が上級の韓国人高官に言っていたことを通告した。もしその言葉 がすぐに否認されないなら、正は金の刑を正式に実行することになる。アレンは、 レーガンの支援を求め、そして新行政が金の死刑には賛同しかねるというニュース を流した。韓国側はワシントンで正の特使との会合を手配し、ワシントンはこの件 について何の関係もないはずだと言い放った。アレンは、「もし金を殺せば天罰が 下されるだろう」と言い返したが、そのときワシントンの政策がどうなるかアレン にはまったく分からなかった。 | State Department : 国務省、 nervous : 神経質な、 foreign affairs : 外交問題、 high-ranking : 高位の、 see fit to do :することに決める,するのが良いと思う、 disavow : 否定する、 green light :正式許可、 leak : を漏らす、 emissary :特使,密使、 none of one's business :〜には関係のないこと、 concede : 真実と認める,与える、 clue : 手がかり,端緒 |
| 7 | その翌日、正の特使は取り引きを持ちかけた。それは韓国大統領をレーガン大統 領就任式に招待すれば金の刑を厳罰してもよいというものだった。アレンはきっぱ りと断った。外国の長は就任式に参加はしないからだ。彼らの無知による大きな過 ちからアレンは彼らに影響力を持つ事が分かった。彼は韓国側に同情心を持つよう 強要し非公式訪問の手配を密かに整えた。皮肉にもそれによってレーガンは独裁者 に甘すぎるとして、韓国内外の金の支持者達から怒りを買った。金でさえ、彼の命 は2度も助けられたにも関わらず、何年か後になってやっと彼を苦境から救ってくれ たのが共和党員だったということを知ったのだった。元議員ステファンは「金はア メリカに対し友好的である。彼はもし我々がいなかったら、間違いなく今生きてい ないということを知っているのだろう」と言っている。 | inauguration : 就任(式)、 penalty : 刑罰、 big mistake : 大きい間違い、 out of ignorance : 無知から、 leverage : 影響力,手段、 relent : ふびんに思う、 confidant : 親友(ここではconfidentの間違いと思われる)、 discreetly : 慎重に、 ironically : 皮肉にも、 ire : 怒り,憤り,憤怒、 coddle : やさしく扱う,甘やかす、 bail out :救う,助ける |
感想などがありましたら、メールを下さいね!!