漠然と姿を現しつつある世界的エネルギー危機は、世界の主要経済大国の指導者が集まり土曜日にワシントンで開催される20カ国首脳会議の議題にはのぼりそうにない。結局のところ、世界の金融制度を立て直すために緊急に集まって、減速する世界経済のソフトランディングを目指すのであり、エネルギーは金融恐慌ほど差し迫ってはいないように思われるのだ。事実、世界規模の金融危機での明るい話題のひとつが、エネルギー消費の減少とそれに伴う原油価格の低下であった。 |
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だが、IEA分析官によると、エネルギー消費減少は一時的なものに終わるかもしれないという。パリに本拠を置くIEAの年次世界エネルギー展望が水曜日発表された。そこでは、原油価格がまもなく急上昇を始め、2030年には1バレル120ドル前後に落ち着くだろうと予測されている。今週の価格の2倍以上である。ドリルや掘削機などの装置の価格が異常に高騰し、海の沖合いといった利用しにくい場所から原油を採取するため、原油生産の事業はますますコストがかかるからだ。さらに、世界の経済は穏やかなペースであっても成長をし続け、それは数年のうちに再び加速しそうである。そして今後20年のうちに、何十億もの人々が新たに車を運転し、家庭で電気を使うようになる。IEAのこのようなレポートは、先進国である石油消費国のことを思い描いているのだ。十分なエネルギー供給を確保し、炭素をあまり含まないエネルギーに切り替えるには、「政府の大胆な政策」が必要である。 |
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国政石油資本は巨額の利益を生み続け、よくある政治家の怒りの矛先となっているが、エネルギー資源に対するコントロールは縮小を続けている、とIEAレポートは述べている。この先20年間にオンライン化される新しい油田のおよそ80%が、国際石油資本の支配下から完全に外れるというのである。英国やノルウェーのような国が支配する大規模な油田が停滞したり縮小する一方で、ロシア、カザフスタン、そしてサウジアラビアといった国の巨大な新油田が、原油価格が記録的に高騰したときにオンライン化し、原油で豊になった国はその巨大な利益で旧態依然とした石油資本が持つ力に対抗している。民族主義の政治家が原油資源を国家の資産とみなすようになっているのだ。収入をもっと増やすために、石油資本との原油契約を見直し始めている国もいくつかある。 |
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原油価格の高騰が及ぼす長期間に渡る波及効果は、この夏アメリカ人が直面した1ガロン4ドルの比ではない。原油資源が政府の手に移行していくにつれて、さまざまな国の原油関係者が、何兆ドルも投資して新油田を探索開発して世界の原油の供給を維持するだろうという確信はもてなくなる。「供給不足に陥る危険は、世界の資源が不足するというのではなく、そのために必要な投資が減少することである」とIEAレポートに書かれている。今分かっている世界の原油埋蔵量のかなりの部分が、赤道ギニア、アンゴラといったアフリカ諸国をはじめとする、長引く貧困と根深い社会問題に苦しむ国々に存在する。たとえばアフリカでは、事実上産出するほとんどすべての原油と天然ガスを輸出しているが、家庭の4分の3には電気がきていない。そうした国には、「既存の生産設備を維持する以上の技術や人材がない」とIEAは警告する。 |
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原油資源における影響力の減少というのが、エクソンモービルやシェブロンなどの企業が代替エネルギーの開発に重点的に投資をしている理由のひとつであろう。このような投資は、エネルギー価格と気候変動が合わさって、しっかりとした代替エネルギー政策を政府がとらざるを得なくなると、巨額の利益となって返ってくる。IEA分析官は、今後20年間に渡って4兆1,000億ドルを代替エネルギー開発に費やす必要があると予測している。 |
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炭素放出を抑制するためには、中国、イランそしてインドなどで行われている消費者への燃料補助金制度で、年間に3,100億ドルほどを削減することをIEAは提案している。そうした国では、原油の価格が安いために、ドライバーが他の輸送手段に切り替えようとはしない。といって、アメリカとは異なり、ガソリンの店頭価格を上げるのは政治的に魅力はない。 |
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世界中で新たに放出される炭素の約97%がアメリカとヨーロッパ以外、主に中国、インドそして中東によるものだ。そこで消費されるエネルギーは2030年にはおよそ世界の半分になっているだろう。世界のエネルギー消費傾向が完全に変わり始めるまで、少なくとも2020年ごろまでは、温室効果ガスの放出は増加し続けるだろう。そのときには、2008年の金融危機は昔の事のように思われているかもしれない。 |
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