韓国のジュリア・ロバーツ、あるいはアンジェリーナ・ジョリーにとどまらず、20年近くにわたり、チェ・ジンシルは韓国の恋人的映画女優であり、「国民的」女優といってもよかった。しかし自殺と思われる彼女の遺体が発見されると、進んだ技術にもかかわらず極めて保守的なこの韓国で女性が直面するさまざまな困難の象徴になった。ネット上では絶え間なくゴシップが流れるが、その大半は彼女の死の原因を批判するものだ。だが、一人身で離婚した働く女性というのは今でも韓国では忌み嫌われる存在であり、チェが悩んでいた立場であったことは明らかだ。 |
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「国民的女優」と呼ばれたチェは、1990年代に16の映画とテレビでは10ほどのメロドラマに主演している。その人気が2002年以降急激に落ちたのは、日本のプロ野球にきてプレイしたチョ・ソンミンとの結婚生活がうまくいかず、結果的に離婚したことが人々に知られたからだった。2004年に離婚してからというもの、シングルマザーをスターとか主役とかにつけることには躊躇するプロデューサーや放送局に人たちに、2人の子持ちの母親は禁忌となったと業界通は説明する。4年間苦労し人気が上向き始めたとき、チェはソウル南部の浴室で遺体となって発見された。医療用の包帯でロープをつくり、それで首を吊ったらしい。(韓国では銃の所持が違法なので、自殺の手段としては首吊りがもっとも一般的である。)チェの自殺は国民の関心を呼び、新聞の見出しには、当局、身内、政府までが何が問題だったのか探ろうとしているといった言葉が占めていた。 |
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韓国のマスコミによると、先月韓国で非常にアクセスが多いオンラインコミュニティで、チェは高利貸しで同僚の俳優であるアン・ジェファンを借金の取立てによって死に追いやった、という噂が流れ始めた時から、チェは沈んでいたという。ネットでの噂では、アンに200万ドルほどの借金を返済するよう迫っていたらしい。そうした非難(彼女の死後、そうした事実はなかったと警察は発表した)の後、悪質な噂と長期に渡るストレスから、「衝動的に」自殺したものと、調査チームはみている。 |
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その後、ネット上の中傷を取り締まると韓国警察は発表したが、極めて保守的な社会におけるシングルマザーとしてのこの女優の問題についてはほとんど触れることはなかった。タブー視される話題を公共の場で語ることによって、チェは、韓国におけるシングルマザーに対する人々の批判的な考え方を変えようとした。「韓国人は、強い女性が嫌いなのです。シングルマザーは人間としておかしいと考えているのです」と芸能コラムニストであるパーク・ソ・ナは語っている。「非文字」のようなものです。シングルマザーは自分の両親に子どもを預けることが多いのです。そうすれば父親不在の生活という恥に耐える必要がありませんから、とパークは説明する。それに、金銭的な余裕がある映画女優を除けば、政府からの財政的な支援が限られている母親は、子どもたちを長い間孤児院に入れたりときには養子に出さなくてはならないこともあります。「シングルマザーには今でもマイナスのイメージがあります。シングルマザーは辛い思いをしています」韓国女性開発院の職員、リー・ミジョンは語っている。 |
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自殺の動機がなんであれ、チェの自殺による連鎖反応が心配されている。韓国の自殺率は過去5年間、先進国のなかで最も高いからだ。精神障害は、それが鬱のようなありふれた病気であっても公に話されることはめったにないと、政府も国民もためらうことなく認めている。「心の問題について韓国人は秘密主義なのです」と語るのは、ソウル・メトロポリタン・メンタルヘルスセンターの精神科医リー・ミョン・ソ。さらに、人々がそうしたことを話そうとしない理由には、職を失うことが心配ということも認めている。チェの自殺によって、今後はもう少し多くの人が治療を受けようとするでしょう、とリーは続ける。だが、有名人が亡くなったときに起きたように、自殺が増えるかもしれないと彼は心配している。 |
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