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| P69 | 日本の村上と谷崎の両作家は西洋での評価を求めてきた。評価に値するのは 谷崎だけ | approval : 承認 |
| 1 | 茶道や華道と同じく日本人の外国嫌いは有名であるが、日本の作家は昔から より広い文学の活動の場を必死に海外に求めてきた。もっと収入が増えるか らとか名声が高まるからというだけではなく、海外で翻訳された作家は自国 で非常に有名になり、また高く評価されたからである。海外向けの文化的認 可証といったものを確保するのに熱心なあまり、彼らはときには登場人物の 特徴を西洋風に合わせようとすることもある。あるいは和服の下にフロイト 流の解釈やマルクス主義的解説、それに実存主義の探求を忍ばせている。し かし西洋の出版社自身が伝統的に外国人嫌いなので、それをおしてまで海外 にいこうという日本人作家はほとんどいない。いかなる分野で売れようとも ──羽が生えたように売れるベストセラーの仲間入り──それは日本を脱出 する確実なチケットとなる。しかしときには、長く作家生活を続け独特な作 品によって文壇で評価されたためにこのチケットを受け取るものがいる。 | xenophobia : 外国(人)嫌い traditionally : 伝統的に desperately : 必死に strive for : 〜のために懸命に努力する playing field : 活動の場 translation : 翻訳 inordinately : 異常に celebrated : 著名な esteem : 高く評価する secure : 確保する seal of approval :承認証,認可の印 mode : 様式 ensconce : 忍ばせる Freudian : フロイト(派)の Marxist : マルクス主義の,マルクス主義者 existential : 実存主義の quest : 探求,探索 crossover : 踏み切り coin of the realm :法貨 runaway bestseller :羽根が生えたように売れるベストセラー本 domestic : 自国の laurel : 栄誉 extended :伸ばされた |
| 2 | 谷崎潤一郎(1886-1965)は20世紀最大の作家の一人となるというただそのこ とだけで翻訳という船旅を成功させた。人を圧倒する物語作家である彼の作 品、「細雪」、「春琴抄」、「蓼喰ふ虫」、「鍵」はすべて傑作である。残 念なことに、「美食倶楽部」(講談社インターナショナル;201ページ)は、 谷崎というタンスの引き出しから抜粋され、短編と自ら称する6作品からなっ ているのものの、絶頂期における彼の才能を示してはいない。しかしそれぞ れの作品は彼の芸術にみられる特徴と奇想、あるいは才能と奇怪さといって もいいものを、すこしばかりフェティシズムなものから紛れもなく性的異常 なものに至るまで如実に示している。それゆえに谷崎文学への入門書として は相応しいものとなっている。 | dazzle : 眩惑させる storyteller : 物語作家 masterpiece : 傑作 miscellany : 雑録,文集 self-described : 自称の,自らが認める cull from : 〜から選び取る bottom drawer : 箪笥の引き出し characteristic mark : 特徴 quirk : 奇想,奇行 oeuvre : 一生の仕事,芸術作品,全作品 fetishistic :呪物(じゆぶつ)崇拝,フェティシズム downright : 紛れもない kinky : 性的異常の |
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「秘密」では、退屈した好色家が女装を試みてから、自分も秘密を持ってい
る元愛人にその秘密が発覚するまでが書かれている。本のタイトルにもなっ
ている「美食倶楽部」は美食家の隠れた安息所である。美食家は
「Phlegm-and-Spittle Liquid Jade」とか「Velvet Carpeting Soup」といっ
たメニューのために木の皮とか鳥の糞、それに人間の唾液といった素材を用
いて、一風変わった料理を考え出す。「青塚氏の話」は極度の映画女優崇拝
の典型的なものを表している:惚れ込んでしまったファンが、自分のエロテ
ィックな目的のために様々な体位のスターの実像を作るというもの。「過酸
化マンガン水の夢」では、語り手が自分の便をロールシャッハテストのイン
クのシミであるかのように嬉々として見るのである。しかし谷崎がどれほど
奇怪になろうともその筆力が衰えることは滅多になく、その巧みな表現や簡
潔な描写により常に読者を惹きつける、例えば:「ゴミ箱をひっくり返した
ようにスラム街が広がる」 "Phlegm-and-Spittle Liquid Jade" or "Velvet Carpeting Soup." は読んだことがないからわかりません。 |
sensualist : 好色家 embark on : 〜を始める cross-dress : 異性の服を身につける uncover : 暴露する haven : 安息所 gourmand : 食通,美食家 concoct : 作り上げる,でっち上げる tree bark : 樹皮 saliva : 唾,唾液 epitome : 抜粋,要約 smitten : すっかり惚れ込んだ,強く魅了されて replicate : 複製 erotic : エロチックな,好色な Manganese : マンガン dioxide : 二酸化物 stool : 踏み台,大便 specimen : 標本 ink blot : インクの汚れ Rorschach test : ロールシャッハ・テスト narrative power : 話術 diminish : 減少する felicitous phrase : うまい言い方 pithy : 簡潔な,きびきびした slum : スラム街 overturn : ひっくり返す trash bin : 屑入れ,ゴミ箱 |
| 4 | 村上春樹(1949年生まれ)は日本の魔術的リアリズムといったものを成し遂 げようとしているものの、はるかにおとなしくまた冒険を試みる作家でもな い。しかし「ダンス・ダンス・ダンス」と「ノルウェイの森」などの小説は 決定的なベストセラーになっており、ミリオンセラーを達成している。また、 彼の短編はニューヨーカーなどのアメリカの有名な雑誌に掲載された。しか し、「スプートニクの恋人」(講談社インターナショナル;210ページ)は 村上という大砲から打ち出された最新作であるが、悲しいかな期待が大きす ぎたためか失敗作であった。 | magic realism : マジック・リアリズム,魔術的リアリズム tame : 従順な,おとなしい venturesome : 冒険的な runaway best-seller :決定的なベストセラー rack up : 成し遂げる prestigious : 高名な New Yorker : ニューヨーカー,『ニューヨーカー』《都会的に洗練された 米国の週刊誌; Harold Ross により 1925 年に創刊された; New York 市 内の各種イベント案内もあるが小説・エッセー・詩・漫画に定評があって, 情報誌としてよりも文芸誌としての評価が高い; 多くの作家やジャーナリ ストがこの雑誌から世に出ている; 発行元 The New Yorker Magazine》 Sputnik : スプートニク(ソ連の人工衛星) sweetheart : 恋人 cannon : 大砲 dud :失敗作 |
| 5 | タイトルにあるスプートニクは、ジャック・ケルアック(ビードニク)とい う小説家とスプートニクと間違える登場人物、すなわちあとでは彼女自身現 実離れしていることがわかるのだがそのヒロインである彼女のヒーローから きている:ロシア語でスプートニクとは「旅の連れ」の意味がありここにも だじゃれが意図的に行なわれている。なんとしても作家になりたいすみれは 若い男性教師に愛されているが、彼女自身は年上の女性に報われない恋心を 抱いている。「女友達」と旅行したあるギリシャの島で、レズであるすみれ は「まるで煙のように」消息を絶つ。こうして、少年が少女をそしてその少 女がまた女性を愛する物語で始まったものが、ただの不明瞭なほら話に終わっ てしまう。すみれの失踪の説明はない。読者が、「こちら側は実はあちら側 である」そして「あらゆる事柄の裏側には、同量の未知のものが潜んでいる ことを私たちは完全に認めているのだと考えている。理解とは誤解が集まっ たものにすぎない」といった深い考えを受け入れればまた別であるけれど。 そうした気取った思索も、「カチ、パチパチ、ポン」から「名前はボンド。 ジェームズ・ボンド」さらにヒューイ・ルイス アンド ザ ニュースに至るま で西洋をほのめかすものを鼻につくほど散りばめているためになおさら退屈 なものとなっている。アンソニーHチャンバースとポール・マッカーシー (美食倶楽部)それにフィリップ・ガブリエル(スプートニクの恋人)は英 語への翻訳としては作者の意図を見事に反映しているが、国際的な文壇の地 位を占めるに相応しいのは谷崎のみであろう。 | derive from : 〜に由来する,〜から得る beatnik :ビートニク,ビート族の若者,服装や行動が突飛な人、 spacey : 現実離れした,奇妙な pun : ごろ合わせ,だじゃれ fellow traveler : 同調者,旅の連れ compulsive : 強迫観念に取り付かれた unrequited : 報いられていない crush : 夢中 Sapphic :《女性の》同性愛の,レズの wind up : 結局〜に行き着くはめになる shaggy :こんがらがった,不明瞭な musing : 沈思,黙想 other side : あちら側,向こう側,他の半面,あの世,死後の世界 flip side : (レコードの)B面,裏面 peg :認める,判定する lurk : 潜伏する,気づかれずに存在する equal amount : 等量 pretentious : 思い上がった,気取った meditation : 熟慮,瞑想 irksome : 退屈な,気骨が折れる cloying : 鼻についてくる interspersion : 散在 allusion : ほのめかし,隠喩 snap : パキッ・ビシッ・カチッ crackle : パチパチ音,カサコソ音を立てる Huey Lewis and the News :ヒューイ・ルイス アンド ザ ニュース《1979 年米国 San Francisco で結成されたロックグループ; リードヴォーカルの Huey Lewis (1951- ) (本名 Hugh Anthony Cregg III) を中心にリズムアンドブルースをベ ースにしたストレートなサウンドで人気を獲得; アルバム Sports (1984) は米国 内だけで 700 万枚以上売れ, 人気を決定づけた; 1985 年にはシングル `Power of Love' が映画 Back to the Future に使われ大ヒットした》,ヒューイルイス・アン ド・ザ・ニュース translator : 翻訳家 demonstrate that : (that以下)を(実際に示して)証明する global orbit : 地球の軌道 |