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大意
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語彙
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BY R.Z. SHEPPARD
| P68 |
「Half a Life」において、ノーベル賞受賞者V.S.ナイポールは敗北者の人物
像に少しばかり自分自身を折り込んでいる
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Nobel laureate : ノーベル賞受賞者
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「世界はまばゆいほどに豊かであり、小説が完全にそれに追いつくというこ
とはないと私は思う」と何年か前にV.S.ナイポールは語った。読者には分かっ
ているだろうが、その「それ」は主に植民地独立後の世界、ナイポールが作
家生活の大部分を費やして記録してきた、苦痛に満ちた過去と動乱の世界を
現す。それはまた、スウェーデンアカデミーの委員たちが彼に今年のノーベ
ル文学賞を授与する際に心に思い起こしたものでもある。ナイポールの小説
やルポルタージュは、内戦とか飢餓に見舞われたときだけ耳にする地域につ
いてどう捉えたらいいかという指針を与えてきた。無名からナイトの爵位を
受けるまでに至る彼の生涯についての尋常ならぬ物語は、植民地の人間を非
摘出の親戚のように扱う社会で自らを作りなおすことがどれほど困難だった
かを示している。
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dazzle : 眩惑させる
fiction : 創作,小説
postcolonial : 植民地独立後の
torment : 苦しめる
upheaval : 動乱
chronicle : 記録する
award : 授与する
literature : 文学
reportage : ルポルタージュ,報告文学
perception : 認識
civil war : 内戦
famine : 飢饉
oblique : 遠まわしの
obscurity :あいまい,名もない人
knighthood : 騎士道
colonial : 植民地の(住民)
illegitimate : 非嫡出の,私生の
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Sir Vidiadharはまた、散文における偉大な名文家であり改革者である。
The Enigma of ArrivalとA Way in the Worldで彼は、従来の小説の限界を試
す(今日の進歩的な定義においてすら)自伝と技巧とジャーナリズムを見事
に一体化させるということをやってのけた。Half A Life(Knopf;211ページ)
はこの渾然たる試みによる最新作であるが、植民地インドの滑稽な逸話から
始まる。バラモンの家庭に生まれた息子が下のカーストの女性と結婚し、自
分の社会的地位を失う。彼は王の税務書記だが、ガンジーの貧困に対する政
策に感化され、貧しい土地所有者への便宜を計って虚偽の帳簿記入をする。
故郷では受け入れられず、告発の危険にさらされたこの新参者は口のきけな
い乞食になって身を隠す。旅行中のW.サマセット・モームはこの虚偽に満ち
た神秘的な敬虔な行為に感名を受け、それに触発されてベストセラーとなる
The Razor's Edgeを書く。この詐欺師は有名になり息子にウイリィー・サマ
ーセット・チャンドランという名前をつける。
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prose : 散文
stylist : 名文家
innovator : 革新者
evolve : 発展させる
signature :りっぱな
blend of : ミックス〜
artifice : 技巧
liberal : 進歩的な
conventional : 慣習的な
hybrid : 混成物
droll : ひょうきんな,滑稽な
anecdote : 逸話
Brahmin :バラモン
forfeit : 権利を失う
social standing : 社会的地位
maharaja :マハーラージャ,大王
tax clerk : 税務書記,税務署員
false account : 誤った計算,間違った計算
account entry :帳簿記入
in favor of : 〜に味方して
in danger of : 〜の危険にさらされて
prosecution : 告発
upstart : 成り上がりの
take cover : 隠れる,身を隠す
mute : ものが言えない
bogus : 偽の
mystical : 神秘的な
piety : 敬虔(な行為)
inspire : ひらめかせる
faker : ペテン師,詐欺師
celebrity : 著名人
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話は1950年代のロンドンへと移り、そこで気の進まない学生であるウイリィ
は奨学金によって二流の大学へ行かされる。広い世界に彼はまごつく。この
都市は童話の本のように素晴らしいと期待していたのだ。代わりに見つけた
のはがっかりさせられたバッキンガム宮殿。「自分の土地の王の宮殿ははる
かに素晴らしいと彼は思った」とナイポールは書き、「心の片隅では、英国
の王と女王は詐欺師だと感じた」ロンドンの門戸は容易くは開かない。有名
人の名前をもらった彼がその有名人と連絡を何度とろうとしても同じ短い手
紙を受け取るだけだった:「親愛なるウイリィ・チャンドラン、お手紙あり
がとう。インドの思い出は素晴らしいし、インドの友人からの便りはいつも
嬉しく思います。敬具」
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cut to : 途中を飛ばして〜に行く
reluctant : しぶしぶの
second-rate : 二流の
scholarship : 奨学金
baffle : まごつかせる
wide world : この広大な世界
storybook : 童話の本
Buckingham Palace : バッキンガム宮殿
Queen of England : 英国女王
impostor : 詐欺師,かたり,替え玉
namesake : (ある人の)名をもらった人
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父親同様若いウイリィも明敏で、沈黙は金であることを十分に知っていた。
しかし彼には事態を進展させるほど自信たっぷりな自己認識は持っていない。
だから、チャンドランに文才があることがわかったときは驚きだったし不思
議でもあった。BBCの台本を書き、ついにはインドについての短編集を出版す
る。この点になると、ウイリィの人生の様相と若い頃の経歴はナイポールと
似ている。ナイポールはインド系のトリニダード人であり、オックスフォード
で学位をとり、BBCで働き小説を書いた。主人公とは違って、ナイポールはロ
ンドンとその慣習についてすべてを学んだ。
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shrewd :明敏な,狡猾な、
self-awareness : 自我の目覚め,自己認識
convincing : 説得力のある
script : 台本
career : 職業
Trinidadian :トリニダード《西インド諸島南東部の島で,トリニダードトバゴの主島》
protagonist : 主役,主人公
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物語における自伝的要素は、ウイリィが結婚し、プランテーション所有者の
夫としてポルトガル語を話すアフリカに移住するとき完全になくなってしま
う。この名もない国とは明らかにモザンビーク共和国と思われる。まさに自
立しようというそのとき、彼は他の者の所有物となる。文学のロンドン、そ
して作家生活は18年に渡る僻地の社会とサイザル麻の収穫に取って代わられ
る。その後ウイリィが41歳のとき妻のもとを去りヨーロッパに戻ってくる。
「私は自分自身から隠れていたんです」と彼は結論付ける。「何も危険を犯
すことはしなかった。そして今、人生の最良のときは過ぎてしまった」
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narrative : 物語
fall away : 少なくなる,滅る
plantation owner : プランテーション所有者
Mozambique : モザンビーク共和国
replace by : 〜と取り替える
backwater : 僻地
sisal : サイザル麻,サイザル繊維
harvest : 収穫
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ナイポールは以前にも挫折した男たちを書いたことがある。だがほとんどの
場合彼らは誤ったあるいは不運な激情に捕らわれていた。ウイリィ・チャン
ドランはただ流されるだけ、たいていは不完全な状態で女性から女性へとあ
てどもなく移ろっていく。幸運なことに彼の移動は大陸間に渡っており、そ
のためナイポールは見知った土地を再び訪れ、文学者としてまたジャーナリ
ストとしてのたぐい稀なる才能を発揮することができた。この2つの分野は
Half a Lifeでは見分けがつかない。だが明らかな影響がみられる。ナイポー
ルのインドはR.K.ナラヤンの物語での背景の可能性もある。彼のアフリカは
コンラッドのアフリカのように惨めで、ロンドンはWaughのスタイルだ。例え
ば、ディナーパーティを確実に成功させる方法を説明している通人がいる:
「詩人とその妻にはちょっとした花束のよう効果を期待しています。すべてを
輝かせるためのちょっとしたコントラストなんです」多くの要素をもつこの
本には、同様のことがウイリィ・チャンドランに言える場面がいくつもある。
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defeat : 挫折させる
go down with :(病気に)かかる
misguide : 間違った方へ導く
ill-fated : 不運な
drift : 漂流する
continental : 大陸の
bring to bear : 発揮する
formidable : 恐るべき
literary man : 文学者
indistinguishable : 見分けのつかない
baleful : 悲惨な,惨めな
man-about-town : プレーボーイ,遊び人
nosegay : 小さな花束
fern : シダ
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