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| P42 | 小さな錠剤が驚異の正確さでガン細胞を直撃。これが長い間待ち望んでいた 大発見だろうか。 | pill : 丸薬,錠剤 cancer cell : 癌細胞 uncanny : 超自然的な breakthrough : 躍進,大発見 |
| 1 | サンフランシスコ──去年の2月には、63歳になるビクトリア・ライターは数ヶ 月しか生きられないと思っていた。作家であり翻訳家でもありマンハッタンに 住んでいる彼女は、慢性骨髄性白血病という白血病の中でも特に悪性のガンに 苦しんでいた。有効な治療法はインターフェロンという免疫系を強化するもの しかなかったが、それも実際には効果がなくしかも気分は極度に悪くなった。 ライターは1999年のほとんどをベッドの中で過ごした。気分が悪くて読むこと も、歩くことも、ほとんどなにもできなかった──ただ、2人の娘に分け与え る自分の財産分与リストは作っていた。 | translator : 翻訳家 chronic : 慢性的な myeloid leukemia : 骨髄性白血病 interferon : インターフェロン immune system :免疫機構,免疫系、 manage to : 何とか〜する,どうにか(こうにか)〜する put together : まとめる |
| 2 | その後彼女はGlivecという実験薬を試し、数週間のうちにすべてが変わった。 「からだのエネルギーがすべて戻ってくるようなの」と彼女は話す。「突然、 読むことができるし、散歩ができたの」8月には、骨髄から白血病細胞が消 えていた;12月には、彼女はアルゼンチンタンゴを始めた。娘に与える財産 分与リストはまだ持っている。だけども、「あの娘たちはまだそれをもらえ ないのよ!」と彼女は喜んでいる。 | experimental drug : 実験的薬剤 bone marrow : 骨髄 leukemia : 白血病 exult : 小躍りして喜ぶ |
| 3 | 動物虐待を専門に扱うロサンジェルスの検察官ボブ・ファーバーの場合も、 Glivecの試用は同じような結果をもたらした。ほんの2年前には、病室に横 たわり、骨からくる痛みを逃げるべく自殺を考えていたのだ。「トイレに行 くのに四つん這いでのろのろと這っていたのだが、今じゃ仕事に戻っている」 と48歳のファーバー。「ジムに通っている。動物救済グループのボランティ アをしている。ガールフレンドもいる。こんなに効き目のある錠剤を飲むこ とができるなんて、世界中のガン患者の夢だよ。まさに奇跡だ」 | prosecutor : 検察官 specialize in : 〜を専門にする in hospital : 入院して,入院中で hospital room : 病室 suicide : 自殺 radiate from : 〜から放射する,放つ crawl :のろのろ進む on one's knees : ひざまずいて gym : スポーツクラブ cancer patient : 癌患者 miracle : 奇跡 |
| 4 | いずれにせよ、この薬を考える際それは魅惑的なことである。Glivecの効能 は十分なので、FDAは2週間前──この時点で、この薬は珍しいタイプの胃ガ ンにも効果があると発表された──記録的なスピードでこの薬を認可した。 誰にでも効くというわけではなく、吐き気、筋痙攣、皮膚発疹といった副作 用もある。さらには、この薬がガンを治すとは誰も言っていない。患者は、 恐らく一生の間この薬を飲み続けなくてはならない。また、Glivecを他の薬 と併用して服用しないと、ガンは再発する可能性もある。 | tempt : 誘惑する anyhow : いずれにせよ stomach cancer : 胃癌 have side effects : 副作用を起こす nausea : 吐き気 muscle cramp : 筋痙攣 skin rash : 吹き出物発疹,皮膚発疹 in combination with : と組み合わせて |
| 5 | こうした問題にも関わらず、Glivecは画期的な薬だ──その効果だけではな く、もっと重要なことはその革命的な方法である。リチャード・ニクソン大 統領がガン撲滅を宣言し、月面着陸や原子を分裂させる努力に匹敵するほど の国を挙げての取り組みを呼びかけてから丸30年が過ぎた。しかしこの30年 の間、研究者は次々と妙薬となり得る療法を見つけ出してきた──そしてそ れは相次ぐ失望となった。手術はほとんどの場合悪性細胞が残ってしまうも のだが、その手術をのぞけば、大部分のガンの一般的治療法は依然として放 射線治療か化学療法──病気に対する武器としてはかなり粗雑なもので、そ の効果も限定されているし、また患者は体力を奪われ吐き気を催す。 | caveat : 警告,注意 strategy : 戦術,方法 declare war on : 〜に対して宣戦布告する,〜に対して撲滅を宣言する split the atom : 原子を分裂させる come up with : 見つけ出す miracle cure : 妙薬 aside from : 〜を除いて invariably : いつも leave behind : 残す |
| 6 | しかしその戦いの中で、ガンが分子レベルでどのように働くかについての膨 大な知識を科学者は蓄えてきた。1つの細胞核の異常をきたしたDNA内でまず ガンが覚醒してから身体にその貪欲で全面的な攻撃をするまでの全知識を蓄 えてきたのである。その知識を基にして、この病気と戦い1歩前進する度に 彼らは膨大な武器を開発してきた。これらの治療法の多くはまだ臨床試験が 始まったばかりで、この先何年もの間生命を救う役には立たないだろう。も し現在ガンにかかれば、これらの治療法は遅きに失して役には立ちそうにな い。しかし、ニューヨーク市メモリアル・スローンケタリングガンセンター の医長ラリィ・ノートンは次のように語る:「ガンとの戦いに勝ち目がある のは間違いないと思います」 | along the way : その途中で amass wealth : 蓄財する wealth of information : 豊富な情報 molecular level : 分子レベル aberrant : 異常な nucleus : (細胞)核 rapacious : 強欲な all-out assault : 全力をあげての攻撃 armed with : 〜を武装して array of : たくさんの clinical trial : 臨床試験 medical director : 医長 |
| 7 | 先週そうした心情がサンフランシスコで開催された臨床腫瘍学会の年次総会 で吐露された。そこには世界中から26,000人という記録的な数のガン専門医 が集まり、自分たちの研究室から次々に出始めた朗報を互いに交換しあった。 じゅうたん爆撃のようにガン細胞も健康な細胞もどちらも殺してしまう化学 療法や放射線療法とは異なり、これらの新薬は狙撃兵部隊のようなものだ。 ガン細胞だけを狙い撃ちし、その一番弱い部分を攻撃する | sentiment : 感想,所感 annual meeting : 年に一度の会 American Society of Clinical Oncology :《米》臨床腫瘍学会 pour out : ドッと出て来る carpet-bomb :じゅうたん爆撃、 tactic : 戦法 sniper : 狙撃兵 |
| 8 | その薬のいくつかは、それを飲むことで成長因子と呼ばれている一群の化学 物質が腫瘍に到達しないようにする、すなわち細胞に指示を出して手におえ ないほど増殖させる信号をブロックする。またすべての細胞がもつ生と死の 微妙なバランスを崩すことで、ガン細胞を自滅に追い込むものもある。さら には、ガン細胞が正常組織に浸潤(?)し拡大していくのに利用する酵素をブロッ クする薬もある。もっとも有名なのが、血管形成阻害薬という一連の化合物 で、腫瘍が栄養分や酸素を取り込むための新しい血管形成を阻止するという もの。3年前、DNA構造の共同発見者であるノーベル賞受賞者のジェイムズ・ ワトソンの言葉が引用された、つまりハーバードの研究者ジュダ・フォーク マン博士はこれらの阻害薬を用いて「2年以内にガンを治療」するだろうと。 | chemical : 化学薬品 growth factor : 増殖因子,成長因子 tumor : 腫瘍 tip : 傾ける self-destruct : 自滅する enzyme : 酵素 normal tissue : 正常組織 angiogenesis inhibitor : 《医》血管形成阻害薬 blood vessel : 血管 oxygen : 酸素 Nobel laureate : ノーベル賞受賞者 quote : を引用する |
| 9 | あとになって、自分の言葉は間違って引用されたのだと彼は言った──無理 もない。ガンのことを少しでも知っている科学者であればCのつく語を使うと きはひどく用心深いのだ。ひとつにははかない希望を植えつけやすいこと、 またひとつには治療がガンと戦う唯一の方法ではないと医師たちが考え初め ているからだ。その代わりに専門家はこう信じている。ガン細胞の機構に次 々と阻止剤を投与するという新療法は、ガンを手におえない、時には死に至 らしめる病気から、糖尿病や高血圧といった慢性的ではあるが処置可能な病 気に変えることができるだろうと。メモリアル・スローン・ケタリングの結 腸ガンの専門医レオナード・サルツ博士は次のように言っている:「ホーム ランを打とうとは考えてません、でもライナー性のヒットを続けてたくさん 打つことができれば得点できるのです」 | no wonder : 無理もない false hope : 空頼み monkey wrench :邪魔だてするもの,モンキースパナ machinery : 機構 intractable : 処置しにくい chronic : 慢性的な manageable :扱いやすい akin : 類似して diabetes : 糖尿病 high blood pressure : 高血圧(症) colon cancer :結腸癌 but if : 〜でなければ series of : 一連の,重ね重ねの line drive :ライナー(性)の back to back : 連続して |
| 10 | 例えば4年前、カリフォルニア州サンディエゴのIDEC製薬の研究者はrituximab でこうしたヒットを放った。ガン細胞のたんぱく質を首尾よく攻撃する初め ての薬だった。長年の研究の結果、科学者はガン細胞は非常に多くのレセプ タクルを持っていることがわかった。このレセプタクルは成長因子を含む、 生存に不可欠な化合物と結合し、細胞が成長するときにその栄養分を供給す ることができる。rituximabはモノクローナル抗体で、非ホジキンスリンパ腫 細胞のレセプタクルに特に適合するように作られた分子である。この場合で 言えば、ガン細胞を特定し、免疫系で破壊するものである。1980年代初期の 頃を思い出すと、モノクローナル抗体は癌を撲滅する「特効薬」としてマス コミで騒がれていた。 | pharmaceuticals : 医薬品 protein : 蛋白(質) cancer cell : 癌細胞 studded : ちりばめられた,点在した unusually large : 並外れて大きな receptacle : 貯蔵所,レセプタクル fuel : に燃料を供給する monoclonal antibody : モノクローナル抗体,単一クローンのハイブリドーマ 細胞から,in vitroまたは同系マウスの腹水として産生される免疫グロブリン. 目的の抗原の単一の抗原決定基に対してのみ,特異的に反応する抗体で, 力7価も高い216. fit into : 適合する lymphoma : リンパ腫 single out : 選び出す,特定する immune system : 免疫機構,免疫系 hype : あおりたてる magic bullet : 特効薬 |
| 11 | それほど効き目がないことは判明したものの、最終的にはモノクローナル抗 体はそれなりの期待に応え始めた。rituximabは、丁度1年後には同じ手法に よりtrastuzumabという薬ができたのだが、それは成長因子がある種の乳ガン に栄養分を与えないようにする初の薬だった。このように目標を設定した治 療は、適切な目標が存在するときにのみ効果がある。trastuzumabはher2とし て知られているレセプターと結合するが、そのher2は乳ガンの中のわずか30% のガンに限って異常に多くみられる。生体組織検査によって、患者に trastuzumabが効き目がありそうかどうかを医者は知ることができるが、もっ と広範囲のガン細胞にみられる成長因子と結合する分子を見つけることが望 まれている。 | live up to : (期待)に添う latch onto : 〜にまつわりつく receptor : レセプター,受容体 abundant : 豊富な biopsy : 生検,生体組織検査(法) prevalent : 優勢な,蔓延する |
| 12 | はたしてそれが見つかった。当時サンディエゴのカリフォルニア大学にいて、 現在はヒューストンのM.D.アンダーソンガンセンター所長であるジョン・メ ンデルゾーンは、1981年からegfrというレセプターに的を絞ってきた。egfr というのは上皮成長因子(egf)と呼ばれるたんぱく質のレセプターである。 それはher2と近い系統のものであり、広範囲の腫瘍にそれが存在することが メンデルゾーンの研究チームにはわかっている;事実、すべてのガンの種類 の3分の2はegfレセプターで覆われている。1984年、偽の成長因子でegfレ セプターを封じ込めば、細胞が成長したり分裂したりするのを防ぐことがで きることをメンデルゾーンチームはマウスの実験で明らかにした。 | sure enough : 案の定 host :(遺伝子操作の)宿主,ホスト protein : 蛋白(質) epidermal growth factor : 上皮成長因子 tumor : 腫瘍 blanket with : 一面〜で覆う decoy : おとり |
| 13 | her2のようなレセプターは健康な細胞にも見られるので、そうした偽物を利 用した薬を作るのは大変だ。しかし今、egfrが封じ込められたとき頼みとす る他の成長因子を見つけるのは、健康な細胞がガン細胞より得意なことが研 究者にはわかってきた。しかしメンデルゾーンが1983年に国立ガン研究所へ 第1回の助成金に応募したときは却下された。「それが効果があるとは誰も 考えてなかったのです」と彼は話す。翌年彼は研究費を慈善団体に求めた。 去年、彼はimc-c225と呼ばれる化合物で同僚をアッと言わせた。この化合物 は、小数の患者の結腸ガンの治療に有効なことがわかったのである。 | tricky : 扱いにくい,巧妙な adept : 巧みな grant :補助金 National Cancer Institute : 国立がん研究所 following year : 翌年 turn to : 〜に頼る philanthropic : 博愛の wow :アッと言わせる,大向うをうならせる、 colleague : 仲間,同僚 prove effective : 実効を現す,功を奏する colon : 結腸 small number of : わずかな〜,少数の〜 |
| 14 | そして今年、スローン・ケタリングの研究者は、この薬が一般的な結腸直腸 ガンの化学療法の効果を著しく高めることを示した。この薬を使用しないと 手のほどこしようがない腫瘍が5分の1以下に縮小するというのである。スロ ーン・ケタリングのソルツはこう言っている:「20%もの割合で効果があった というのは驚きです」何が起こっているかというと、成長因子抑制剤が腫瘍 を十分弱らせて、化学療法がとどめをさすのだろう、と彼は推測している。 | boost : 高める effectiveness : 効果 colorectal cancer :結腸直腸癌 chemotherapy : 化学療法 hopeless case : 回復の見込みのない症状 staggering :驚くべき surmise : 推測する inhibitor : 抑制剤 |
| 15 | こうした結果に勇気付けられて、ソルツは今年の夏それほどガンが進行して いない患者にimc-c255を試してみるつもりだ。また、治療を組み合わせると 非常にうまくいくようなので、egfr抑制剤を、1つではなく2つの化学療法 薬と組み合わせてトリプルパンチを作ろうとしている。 | buoy :元気づける agents : 医薬品 |
| 16 | egfの働きを阻止する薬は2つ。Glivecというライターとファーバー白血病の 症状を劇的に改善した薬が1つ;もう1つがTarcevaという、ニューヨーク州 ユニオンデールOSI製薬が出した薬で、頭部ガンや頚部ガンだけではなく肺腫 瘍にも効果がありそうだ。この2つの薬はいずれもegfが細胞と結合するのを 防ぐのではない;細胞内でゆっくりと働く薬で、そこで細胞外から入り込ん でくる増殖メッセージを遮断するのだ。ロンドンに本社のあるアストラゼネ カ社は、肺ガン、胃ガン、前立腺ガンなどに効果のあるIressaという同様の 化合物をテストしている。 | drugs : 医薬品 leukemia : 白血病 Uniondale : ユニオンデール lung tumor : 肺腫瘍 head cancer :頭部癌 neck cancer : 頚部癌 dock with : ドッキングする worm one's way : ジリジリと進む percolate : に浸透する prostate : 前立腺 |
| 17 | こうした薬はほんの手始めにすぎない。GlivecやTarceva、それにIressaはす べて、チロシン・キナーゼとして知られる酵素をブロックすることで、もっ とも一般的なシグナル経路を遮断する。だが、ガンの増殖を促すメッセージ には何百もの生化学的なシグナルがあり、その経路も何百も異なるものがあ る。シグナル経路のひとつひとつが目標となる、つまりそれに合わせて作ら れた薬で遮断すべき経路ということだ。 | signaling pathway : シグナル経路 enzyme : 酵素 tyrosine kinase : チロシン・キナーゼ cancer cell : 癌細胞 biochemical : 生化学的な |
| 18 | ガンが容赦なく成長するもうひとつの理由は、ある決まった回数だけ分裂す れば自然死を迎える正常細胞と異なり、ガン細胞は永遠に生き続けるという ことである。自然死の時期を知るようにガン細胞の配線を組み直す化合物を 科学者は探している。この研究はまだ始まったばかりだが、いくつかの研究 室ではcaspacesと呼ばれる一群の酵素の研究を始めた:この酵素を抑制する と、細胞分裂の際に行われるDNA修復が中断する。 | inexorably : 容赦なく natural death : 自然死 division :分裂 rewire : 配線し直す |
| 19 | マサチューセッツ州ケンブリッジのミレニアム製薬は、プロテアソームとい う、ガン細胞が異常に長く生きることに関与しているらしいたんぱく質に焦 点を当てている。この会社は今ldp341の第2段階のテストをしている。ldp341 というのは、多発性骨髄腫と慢性リンパ球性白血病に効果が期待される、プ ロテアソーム抑制剤だ。上位5種の固形ガン(乳ガン、すい臓ガン、前立腺 ガン、肺ガン、それに結腸ガン)に対する第1段階の研究が進行中で、現段 階でこの抑制剤は効果があるようだ──少なくともマウスの実験では効果が ある。 | pharmaceuticals : 医薬品 protein : 蛋白(質) proteasome : プロテアソーム multiple myeloma : 多発性骨髄腫 chronic lymphocytic leukemia : 慢性リンパ球性白血病 solid tumor : 固形癌 pancreatic : 膵臓の prostate : 前立腺(の) under way : 進行中で |
| 20 | ガンの新薬でもっとも成果をあげているのは、antiangiogenesis薬である。 これ以前のモノクローナル抗体と同じく、この化合物は、腫瘍が自分で血液 の供給を増やすことができないようにするものであり、一時は1回でガンを 治す魔法の薬ともてはやされた──もっとも1970年代にこの方面の先駆者で あったフォークマンはもてはやすには時期尚早であると常に慎重な態度であっ た。「antiangiogenesisの分野は不当にも評判が悪くなったと思います」と ソルツ。「期待が強すぎたのです。しかしそのうしろには素晴らしい科学が たくさんあります」 | antiangiogenesis : the prevention of new blood-vessel growth monoclonal antibody :モノクローナル抗体 tout : 大いに宣伝する circumspect : 慎重な premature : 時期尚早の negative publicity : マイナスの評判 |
| 21 | 実際のところ、この薬の開発は難しいもののその考え方は単純だ。腫瘍は他 の細胞同様に、生きていくには酸素と栄養が必要。初めは健全な組織を食べ て成長し、必要な栄養物を得るために血管を探す。だが最後には独自の毛細 血管と血管を作り出すのである。石油会社が安定した原油が流れるべく保証 を求めるようなものだ。 | execution :実行,制作 execution : 処刑 oxygen : 酸素 nutrient : 栄養物 healthy tissue : 健全な組織 blood vessel : 血管 tap for : 〜を求める capillary :毛細管 crude :原油 |
| 22 | フォークマンの洞察は、腫瘍がこうした栄養供給ルートを作るのを防止する 物質を探すことにあった。この手法はマウスの場合は見事にうまくいった。 現在では50種以上の血管形成阻害薬が広範囲のガンについて人間で研究さ れている;10種ほどが最終テストの段階にある。これまでのところ、この薬 による治療で腫瘍が縮小したり消滅した患者は極めて小数だ。それでも医者 は勢いづいた;血管形成阻害薬はガンを完治しないまでも進行を遅らせるか らだ。つまりは、他の新しい治療といくつか組み合わし、同時に色んな方法 でガンを退治するのには最適だということ。 | insight : 見識 pipeline : 流通ルート angiogenesis inhibitor : 《医》血管形成阻害薬 clinician : 臨床医 tumor growth : 腫瘍成長,腫瘍増殖 in conjunction with : と併せて |
| 23 | 「まだほとんどの患者に結果は出ていません」とフォークマン。「しかし患 者の中には症状が安定している人もいます。腫瘍の成長が止まった患者がい るのです。またゆっくりとですが腫瘍が小さくなっている患者もいます。こ の手法はまだわからないところはありますが、将来性があると思います」 | stable : 安定した regress : 逆行 |
| 24 | 多くの科学者がガン細胞の潜在的弱点に的を絞っているが、その逆の面── 逸脱した組織を探し出し破壊させるために免疫系を強化する──に焦点を当 てている人たちもいる。これまではこの方法はうまくいかなかった。それは 主として、ガン細胞がどれほど増殖しようともそれは完全に自分の組織なの で免疫系にとっては無害だからだ。ようやく何かおかしいとわかったときに は既に手遅れである。 | concentrate on : 〜に集中する flip side :裏面,反対の面 recruit :強化する immune system : 免疫機構,免疫系 renegade : 変節者 largely because : 主に〜の理由で misbehave : 無作法な行いをする presumed : 当然のことと思われている catch on : 理解する |
| 25 | この問題は、先週の臨床腫瘍学会で明らかにされたように、克服できないこと もないかもしれない。うまくいくとしたら、免疫系の99%は相手にせず、樹状細胞 に焦点を当てることかもしれない。樹状細胞というのは、あらゆる種類の侵 入物に対して警告を発する歩哨のような役割を果す、白血球内にある小さい が非常に感度のいい物質である。例えば、カリフォルニアに本社のある Cell Genesysは、多数のガンから腫瘍細胞を取り出し、多くの免疫細胞の生産 を活性化するホルモンを供給するようにその腫瘍細胞を遺伝的に組み替えて、 それを末期肺がん患者にワクチンとして与え、樹状細胞が腫瘍の警告を発する 機会を増やそうとしている。最新の研究では、22人の患者のうち3人の腫瘍が 完全に消滅し、4人の腫瘍の進行が止まった。 | insurmountable : 克服できない put aside : 脇へやる dendritic cell : 樹状細胞 sensitive : 感度がいい white blood cell :白血球 sentry :衛兵,歩哨 tumor cell : 腫瘍細胞 genetically engineered : 遺伝子組み換えの pump out : 排水する stimulate : 促す a host of: 多数の vaccinate : 予防接種をする boost : 高める dendritic cell : 樹状細胞 sound the alarm : 警笛を鳴らす |
| 26 | スタンフォード大学の研究者は、進行ガン患者から樹状細胞を取り出し、そ れを強力な成長因子で培養し、抗原に敏感になるように腫瘍特異蛋白を加え たものをワクチンとして患者の体内に戻した。進行性結腸直腸ガンと肺ガン の12人の患者のうち2人の腫瘍が縮小してなくなり、さらにもう1人はワク チンの治療を受けてから1年経っても腫瘍の再発はない。 | Stanford University : スタンフォード大学 harvest : 収穫する dendritic cell : 樹状細胞 potent : 良く効く,強力な growth factor : 増殖因子,成長因子 tumor specific antigen :がん特異抗原 sensitize : 抗原に敏感になる colorectal cancer :結腸直腸癌、 lung cancer : 肺癌 |
| 27 | 従来の治療にしろ、こうした将来性のある新しい治療法にせよ、ガンの発見 が早ければ早いほど治療はしやすいと専門家は認める。それに、ガン細胞の ライフサイクルの理解が深まってきたお陰で、医者は早期にこの病気を発見 する方法がわかってきた。そのよく知られた例が前立腺特異抗原(psa)テス トである。これは、なんらかの症状が現れる前に異常に増殖する前立腺細胞 が分泌するたんぱく質を識別するものである。(しかし、このテストは完全 だというのではない。というのは、たとえわずかにしろ問題を生じない程度 の前立腺細胞の成長でもpsaが分泌されるからだ) | conventional therapy : 伝統的療法 life cycle : ライフ・サイクル detect : 発見する prostate-specific antigen : 前立腺特異抗原 secrete : 〜を分泌する prostate : 前立腺(の) albeit : たとえ〜でも(even if) |
| 28 |
ジョーンズホプキンズ大学ガン専門医であるデビッド・シドランスキィのよ
うな研究者たちはガンの早期発見の診断法を探している。さらには、ガンの
発症の危険性を下げようとしてもっと早期の段階に的を絞っている研究者も
いる。そこでもっとも興味ある研究はcox-2と呼ばれるcycooxygenaseの抑制
剤に重点を置いたもの。この鎮痛剤は本来、アスピリン同様に炎症を抑える
がアスピリンとは違って胃にやさしいようにと開発された。 cycooxygenaseはcyclooxygenaseの間違いかも |
oncologist : 腫瘍学者,癌専門医 diagnostics : 診断学 develop cancer : 癌になる to begin with : まず第一に work center : ワークセンター center on : 〜に重点を置く inhibitor : 抑制剤,阻害剤 pain reliever : 鎮痛剤 clamp down on : 弾圧する inflammation : 炎症 lining :内面 |
| 29 | cox-2抑制剤もまた制ガン効果があることがわかった。遺伝性結腸ガンの患者 の前ガン状態のポリープの数を減らすことが制ガン効果となるのだが、おそ らくこれはantiangiogenesisによるのであろう。現在科学者たちは非遺伝性 結腸ガンへの効果を研究している。さらには、cox-2のレセプターは人の様々 なガンに広く現れるので、頭部ガン、頚部ガン、膀胱ガン、非小細胞肺ガン や乳ガンなど広範囲のガンの予防にcox-2抑制剤の効果が期待されている。 | anticancer : 制癌の reduce the number : 数を減らす precancerous : 前癌状態の polyp : ポリープ hereditary : 遺伝性の colon cancer : 結腸癌 antiangiogenesis : the prevention of new blood-vessel growth receptor : レセプター,受容体 human cancer : ヒト癌 bladder : 膀胱 non-small-cell lung cancer :非小細胞肺癌 |
| 30 | こうした治療法は期待されているが、多くの疑問がまだ謎のままである。な かでももっとも重要なもの:どの治療法をどの患者に施せばいいのか。シド ランスキィはこう言っている:「5年以内に、薬が適しているかどうかを医 者が判断できるようなテストがなければ、薬を処方することはほとんど不可 能になるかもしれない。 | treatment : 治療 almost impossible : ほとんど不可能で |
| 31 | 結局は、個々の患者のガン細胞の、分子レベルのどの過程がおかしくなった かを正確に見つけることが目標である。肺ガンとか乳ガン、あるいは腎臓ガ ンとして分類されるよりも、例えば腫瘍がegfr陽性とかcox-2陽性という風 に分類されることになるだろう。M.D.アンダーソンのメンデルーンは次のよ うに語る、「私の夢はこうなんです。もしスミス夫人が乳房生検を受ければ こう言うのです、『彼女の腫瘍には異常な遺伝子が4つあります』引き出し を開けて、抗体、つまりこの遺伝子が作り出す異常物質を抑制するように考 えられた微小な分子を取り出し、ガンを発現させる遺伝子を攻撃するカクテ ルを彼女に与えることなんです」 | molecular : 分子の lung cancer : 肺癌 kidney cancer : 腎臓癌 tag :〜に下げ札をつける biopsy : 生検,生体組織検査(法) gene : 遺伝子 abnormal : 異常な cocktail : カクテル |
| 32 | その夢は大金を払えば実現する。例えばGlivecの場合だと、ビクトリア・ラ イターのような患者は新たに人生を得たもののこれから先ずっと毎月2,400 ドル──年間30,000ドル近い──の費用がかかる。ガンの基礎研究に国立ガ ン研究所は資金を提供しているが、薬剤開発の大半は営利目的の製薬会社に よって行われている。これらの製薬会社によれば、新薬を1つ市場に出すま でに5億ドルから10億ドルの費用がかかるという──ひとつには、アメリカ の法律では徹底した動物実験と人体実験が必要とされ、これに15年かかるか らであり、またひとつには、すべての薬剤はFDAの認可が必要とされ、それま での過程で1つの薬に対して5000の薬が失敗に終わるからである。5,000の失 敗を1つの成功で元をとろうと製薬会社は考えている。一方、真偽のほどは わからないが安売りの競争相手を市場から締め出そうと共謀しているとか、 そもそも納税者が資金を出している基礎研究でかなりの利益をあげていると いった非難を製薬会社は浴びている。 | at a price :かなり高い値段で end up : 結局〜になる National Cancer Institute : 国立がん研究所 basic research : 基礎研究 bulk of : 〜の大部分,〜の大半 drug development : 薬剤開発 for-profit : 営利目的(型)の pharmaceutical firm : 製薬会社 exhaustive : 徹底的な count on : 〜に頼る conspire :陰謀を企てる,協力して行う cut-rate : 安売りの handsomely : 気前よく basic research : 基礎研究 |
| 33 | 今やGlivecはアメリカでの臨床試験を終えたので、おそらくは保険会社が費 用をもつだろう。しかしガンになる人の大半が老齢者であり、処方薬への支 払いにおけるメディケアの役割は以前未決定のまま。ブッシュ大統領の薬剤 計画では、2011年までメディケア薬剤給付として1530億ドル追加するという。 その額を民主党は「不充分」だといい、議会の共和党議員ですら十分ではな いと認める。最終的な数字は今年後半に打ち出されるだろう。 | experimental : 実験の pick up the tab :費用を出す prescription drug : 処方薬(品) Medicare : メディケア,医療健康保険制度 drug benefit : 薬剤給付 amount : (金)額,総額 congressional : 議会の final number : 末尾の番号 hammer out :(政策を)打ち出す |
| 34 | 少なくとも製薬会社と政治家には論議すべき点がある。効果的なガン治療法 について過去30年間の痛ましいほどの遅々たる開発を考えれば、先週の腫瘍 会議で発表された多数の明るい結果はまことに喜ぶべきものであった。「ガ ン治療は職業としてはいつでも充実したものでした」アリゾナ大学のガン専 門医マイケル・ゴードン博士。「しかし今は本当に素晴らしい時期です。20年 から25年経ったらどの辺に自分がいるだろうかと考えてきました。そして仕 事がなくなっているかもしれないと考えています。そうなれば素晴らしいこ とです」 | argue about : 〜について論じる flood of : 〜の殺到 oncology : 腫瘍学,癌の研究 gratify : 〜を喜ばせる,満足させる profession : 専門的職業 out of job : 失業して |