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大意
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語彙
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BY GARRISON KEILLOR
| P29 |
老人は死の床につき、少女がその手にくちづけをする
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| 1 |
父ジョン、大工であり指物師であり鉄道の郵便局員であった彼が、私が18の
とき使っていた寝室で今、この世に最後を告げようとしている。彼が寝てい
る場所で私は寝ていたのだった。部屋の北東の隅のその場所で、夜、窓の外
を、遠くの給水塔の赤くちらつく光を見、ニューヨークに住むこととか何か
壮大な事などを想像していたのだが、今87歳になる父がそのベッドに横にな
り、復活したキリストが腕を広げて自分を迎えるのを想像している。朝の世
話をしてくれる看護婦ラモナが歌ってくれる賛美歌に歌われているのと同じ
ように。
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cabinetmaker : 家具師,指物師
mail clerk : 郵便局員
water tower :給水塔
blink : ちらつく,点滅する
hymn : 賛美歌,聖歌
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| 2 |
彼女はとてもエネルギッシュで思いやりのある女性だ。ギターを持ってきて
"When I Survey the Wondrous Cross"や"Abide with Me"など昔から人気のあ
る歌を歌う。この前の朝などは、"When Johnny Comes Marching Home"を歌っ
て彼を笑わせたほどだ。ラモナはまさに天使である。
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compassion : 同情
old favorite : 昔から人気のあるもの
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| 3 |
父の病気は慢性肺炎で、なんど抗生物質を投与しても治りきることはなかっ
た。去年は二度、救急車で病院に運ばれ吸引処置を受けたが、これは恐ろし
く嫌なものだったようで、母とそのことについて話した後、二度とそういう
処置は受けないと父は決めた。家に帰ってきてホスピスケアを受けることと
なり、抗生物質は止めることも決まった。これまで効果はなかったからだ。
抗生物質投与中止の決断までにはなんどもEメールでやりとりがあったが、
この決断は極めて深刻な意味をもつ。母と妹は葬儀社に通知、弟は葬儀の準
備を始めた。抗生物質を止めた父は少しばかり元気になった。それが数週間
前のこと。
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chronic pneumonia : 慢性肺炎
round of : 回目の
antibiotic : 抗生物質
clear up : 直す
haul : 車で運ぶ
suction : 吸引
procedures : 手順
hospice care : ホスピス・ケア
e-mail : 電子メール,Eメール
funeral home : 葬儀社
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| 4 |
父が、今居る家を建てた。コンクリートを流し込み、基礎を作り梁を上げ、
屋根をふき、羽目板や床、断熱材さらにドライ壁をくぎで固定した。6人の
子供に食べさすために、リンゴ園と半エーカーの菜園を作った。
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frame :の骨組みを作る
hoist : 持ち上げる,つり上げる
beam : けた,さお,梁
shingle : を屋根板でふく
nail : を釘付けにする,固定する
siding :側線,横羽目
flooring : フローリング
insulation : 断熱材
drywall :《セメント・モルタルを用いず,通例 自然石で造った》石壁,ドライ壁
apple orchard : リンゴ園
vegetable garden : 菜園
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| 5 |
味気ない病院ではなく、自宅で死にたいのなら子供は6人ほどは必要かもし
れない。夜は弟たちと妹、それに姪が交代で面倒をみているし、当然ながら
母もいて、流動食やタイレノールがチューブを問題なく伝っていくようにと
か、酸素の調整とか、すべてに気配りしている。体調は良くなったり悪くなっ
たり。何度も死の淵まで行き遠くにいる家族が最後の別れをするために飛行
機で飛んできたが、この間の夜は、私の小さな娘がベッド際に立って父を突っ
つくと、今にもベッドを片付けて歩き出しそうだった。「私のすることといっ
たら一日中うとうとしているだけだ」と父は私に話す。「最近忙しいかい」
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die at home : 自宅で死ぬ
warehouse : 倉庫
take turns : 交替でする
see to : 〜に配慮する
liquid : 液体の
nutrient : 食物,栄養素
Tylenol :【商標】タイレノール《米国 McNeil Consumer Products 社製のアセト
アミノフェン製剤; 非ピリン系鎮痛解熱剤; 1955 年より市販, 76 年よりテレビ
CM や新聞広告で一挙に知名度を上げ同種商品でシェア 1 位となった; 1982 年
6 月同製品に何者かが青酸カリを混入するという無差別殺人事件が起き, 以後
三重安全包装で売られている》
feed tube : フィードチューブ
adjust : 調節する
up-and-down : 上下する
nap : うたた寝する
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| 6 |
ホスピスから渡された死についての手引書には、死の床についている人には
恨みを抱かず、愛情や感謝を言葉で表し、別れを告げるようにと書いてある。
耳がほとんど聞こえない人にはどうするか、たとえ聞こえたとしてもそうし
たことが嫌いな人にはどうしたらいいかという説明は手引書には載っていな
い。許すべきかどうか、感謝すべきかどうかが自分でも確信が持てない事柄
はどうすればいいのだろう。
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gratitude : 感謝
hard of hearing : 耳の不自由な
go in for :を好む
feel grateful : 感謝する
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| 7 |
18の時だった。私が大学へ行くのに1ペニィも出さないと父が言ったのは。
そして私は自分の力で大学へ行き自立という何物にも代え難い贈り物をもらっ
た。だが戸口に立ち父を見ると、眠っているのだが彼が怖いのだ。彼は依然
として私の父であり、ニューヨークタイムズよりもはるかに影響力を持って
いる。
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college education : 大学教育
one's way through : 押し分けて進む
inestimable : 非常に貴重な
stand in : 代役を務める
New York Times : ニューヨーク・タイムズ紙
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祖母キーラーが娘たちに見守られ、オナミアの小さな病院で死を迎えようと
しているとき、そして父と叔父たちが最後の別れをしにやってきたときのこ
とを覚えている。意識もなく横たわる祖母のベッドに椅子を引寄せ、しばら
くは厳かにじっと座っていたが、やがて彼らは車について話し始めた。当時
は──私は20歳の詩人であった──自分の母親の死を見取りながら、アノー
カの中古車センターでみた燃費の悪いフォードのステーションワゴンを事細
かに話すなんて薄情なものだと思ったのだが、今ではどこにでもあるごく普
通のことだと思えるようになった。人生は続く。母親が死の床にあるにして
も、男には車が必要なのだ。
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tend : の面倒を見る
farewell : 別れ
unconscious : 意識を失った
solemn : 真面目くさった,厳粛な
in due course : 適当なときに
callous :無神経な
low mileage :(車が)高燃費,燃費の悪い
station wagon : ステーションワゴン
used-car lot : 中古車置き場
Anoka : アノーカ
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父親のために私ができることといったら、私の娘を合わせるのが一番だろう。
娘が父の足に触れると、父はつま先をくねらせる。娘がボールを投げる;父
が投げ返す。娘は幸せ一杯に笑う。父の手に、頬にキスをする。別れ際には
手を振る。この間、娘はしゃべらない。まさに純粋の愛だ。
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wriggle : くねらせる
beatific smile : 幸福に輝いた微笑,幻に見る神のお姿
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娘は3歳。私がその年のときに、父は私たち兄弟にニューヨークから手紙を
書いた。1945年のことだ。手紙には、軍隊にいる父がブロードウエイ29番街
のホテルを宿舎として割り当てられていること、どれほど私たちに会えなく
て寂しいかが書いてあった。私たちのことを毎日思っているし、一緒に居る
ことができればと思いつつも、子供が人がたくさんいる都会で育つのはよく
ないと思うとも書いてあった。手紙の最後には、「愛する子供たちへ、父」
とあった。その手紙を私は1週間前まで見なかった。私を愛しているなんて
考えてもみなかったのだ。だがもちろん父は私を愛していた。そして最後なっ
てその言葉を聞くのは素晴らしい。
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billet : 宿舎を割り当てる
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