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大意
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語彙
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By ROBERT HORN Ratchaburi
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カレン族反政府勢力の十代のリーダーが、数年間のジャングルでの戦闘の末、
タイに保護を求める。
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カレン民族にとって二人は神だった。タイ国民にとっては悪魔だった。しかし
先週木曜日の夕暮れ時、ビルマ山中からヨロヨロと降りてきたジョニーとルー
トゥーのホト兄弟は、奇跡を起こすこともなく、M−16ライフルも携えず、
持ち物はリュックに入れた聖書だけだった。この小柄な十代の双子の兄弟は
「神の軍隊」として知られる謎めいた反政府勢力のリーダーだった。二人はタ
イ国軍中隊に近づき保護を求めた。近郊のスアン・プーン地区の警察署にすぐ
さま連行された二人は、ほどなくチュアン首相や十数人のタイ軍将校とお互い
当惑した面もちで対面することになった。チュアン首相は「獲物」を調べ、少
年たちのシラミだらけの髪を優しくなでた。「これで少年たちは神秘的な存在
でも何でもなくなった」と、人権団体フォーラム・アジアのビルマ専門家、
Sunai Phasuk 氏は言う。仏教国タイでは頭が身体で最も神聖な部分である。
首相のちょっとした動作で少年たちのオーラ――ジャングルでいくら失敗して
も戦闘でどんなに負けても消えることのなかったオーラ――は消え去ってし
まった。少年たちはいとも簡単に人間になったのである。神の頭をなでたりす
る人などいないのだから。
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Karen National Union {組織名} : ?カレン民族同盟◆【略】KNU
deity : 神(性)
stagger : よろよろあるく、よろめく、ふらつく
company of foot : 歩兵中隊
whisked to, be : 〜に連れて行かれる
bewildered, be : けむに巻かれる、目を白黒させる、途方に暮れる
lock : 巻毛、髪の房
demystify : 〜の神秘性を取り除く
blunder : ばかな間違い、へま、大失敗
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ビルマの少数民族カレン族の反政府武装勢力である「神の軍隊」は、一年前、
武力に訴えて自らの目的を達成しようとして、一躍国際的に名を馳せた。「神
の軍隊」の兵士十人がタイのラッチャンブリー県内の病院に突入、患者スタッ
フ合わせて五百人を人質にしたのである。しばらくにらみ合いが続いたが、反
政府勢力の兵士らは投降し、タイ人の目撃者によればその後処刑されたとい
う。至近距離からの銃殺だった。この流血事件をきっかけとしてしばらくの
間、ビルマのジャングルから漏れてくるある奇妙な物語に世界中の関心が集
まった。双子は神の山 Kersay Doh にある基地から数キロメートル以上は決し
て離れることはなかったが、ひっきりなしにタバコを吸いライフルをかかげた
大きな目の十二歳のリーダーたちの写真は、瞬く間に世界中に広まった。彼ら
はすぐさま崇拝と恐れの対象となった。カレン族が半世紀もの間独立を求めて
戦っているビルマの丘では、ジョニーとルートゥーは装備の整ったビルマ全軍
を撃退したことで有名で、すでに民族的伝説となっていた。二人を信奉する
人々は、アニミズム、仏教、キリスト教が混じり合ったカレン族宗教の信者で
あり、二人には奇跡の力があるので凶弾に倒れることはないのだと断言してい
た。
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insurgent : 反政府の、反乱を起こした
shoot one's way:戦争[武力]に訴えて目的を達する
venture : 思い切って進む、危険を冒して行く
tote : 運ぶ、背負う、携える
flash:(光のように)パッと伝える、(電信、無線電信などで)〈情報、信
号を〉急送する
renowned : 高名な、名高い、有名な
impervious : 通さない、傷つかない
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このカリスマ性のある双子は本当に命知らずの反政府勢力の救世主的リーダー
なのだろうか。それとも老練なカレン族の反政府活動家にお飾り的存在として
利用されているだけなのだろうか。「年上の兵士から最前線に押し出され利用
されていたのだろうと我々は考えている」とタイ軍最高司令官のスラユッド将
軍は少年たちを取り調べて言う。スラユッド将軍は、少年たちに投降を呼びか
ける戦略の立案者である。彼は「神の軍隊」相手に商売をしていたタイの村落
に住む三人のカレン族長老を雇って、反政府勢力との交渉の仲介役とした。三
人が双子と直接対話できるチャンスはほとんどなかったが、反政府勢力の基地
に足繁く通った。その中の一人、両切りの葉巻タバコをくゆらせしわがれた肌
の五十代の男性は、真のリーダーは Rambo、Samoo、Subiya という名前のカレ
ン族強硬派の三人ではないかと考えている。そうではあってもこの双子には間
違いなく強い印象を受けた。「二人は本当にほんの一握りの男たちを引き連れ
てビルマ軍を破ったのだ」とその男性は言う。「神の軍隊」としばしば接触の
あるカレン族のキリスト教司祭たちも双子の手柄を認めている。少年たちが生
まれついての戦士なら、組織のために彼らを神格化するのは当然の成り行き
だった。「暗い未来に向き合っている人々に、二人は軍事的な意味でも宗教的
な意味でも希望を与えたのだ」とビルマの問題に詳しい Sunai 氏は言う。
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messianic : 救世主的な
figurehead : 名目上の頭首[頭主]、表看板
commander in cheif:最高司令官/総司令官
debrief : 報告を受ける
architect : 事業計画立案者
induce : 勧誘する、人に勧めて〜させる
cheroot : 両切り葉巻タバコ
leathery : ガサガサの、ひどく硬い、革のような、革色の
exploit : 手柄、功績、功業
deify : 神格化する、神聖視する
bleak : 希望のない
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ジョニーとルートゥーの最後の闘いは大晦日に始まっていたのかもしれない。
その日 Rambo ら四人の反政府勢力の兵士は 国境近くの Ban Wan Noi Nai の
村で酔ったタイ人の村民たちと争いを起こして銃撃戦となり、六人のタイ人を
殺害した。タイ人兵士、国境警備隊および警察の連合軍は、タイから反政府勢
力への補給ルートを遮断した。孤立した神の軍隊はおもに鹿や猿を食べてなん
とか凌いだが、基地内の雰囲気は一変した。ビルマ軍が5キロと離れていない
ところに駐留しており、落ちぶれ果てたこの反政府勢力は敗北が迫っているこ
とを感じていた。こうした状況下、双子が自分を取り戻す出来事が起こる。カ
レン族長老がルートゥーに話しかけようとするのを年上の兵士が阻止しようと
したとき、少年は兵士を気絶するほど殴りつけ、兵士の鼻は血だらけになっ
た。「彼らは悪夢から目覚め始めていた」とこの長老は言う。兵士らはビルマ
兵に殺されたくなかったが、かといってタイ人を信頼していいものかわからな
かった。長老たちに説得され、少年たちはタイへの長い道のりをゆっくりと歩
いていく決心をした。
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hamlet : (小)村、小村落、部落◆【類語】village
subsist on : 〜を食べている
ragtag : 落ちぶれた、みすぼらしい
close in : 包囲する、包囲網をせばめる、近づく、迫ってくる
cold-cock : ぶちのめす、失神するほど殴る
coax : なだめる、説得する、うまく説きつけて〜させる
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しかしながら先週スアン・プーン地区の警察署で、カレン族の救世主であった
ルートゥーとジョニーのホト兄弟は、突然人間らしく、それどころかもろさの
中に子供らしい様子さえのぞかせた。武器を置き戦闘服を脱いだ二人は、痩せ
こけた発育不良の子供――タイ煙草を吸い、バタークッキーをかじっている子
供でしかなかった。ジョニーとルートゥーはおそらく難民キャンプで母親と生
活することになるだろう。「彼らはまだ子供なのだ」とスラユット将軍はぽつ
りと言った。
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savior : 救済者、救世主
frailty : 弱さ
shorn of:をはぎ取られて、を奪い取られて
scrawny : ガリガリにやせこけた、骨張った
munch : ムシャムシャ食べる
shortbread : ショートブレッド、バタークッキー
observe:何気なく口にする
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双子の運命が終わりを告げたことをまだ信じないカレン族もいる。そうした
人々は少年たちが一層たくましく成長して、敵を倒すために戻ってくると言
う。こうした考えを長老は笑い飛ばし、少年たちの闘いの日々は終わったのだ
と言う。しかしながらカレン族はまだ救世主を必要としている。だからこそタ
イ・ビルマ国境の霧に覆われた山々で、多くの人々が未だにルートゥーとジョ
ニーのホト兄弟の再来を祈っているのである。
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vanquish a foe : 敵を打ち負かす
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