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大意
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語彙
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BY MARYANN BIRD/LONDON
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まもなく誕生するクローンガウルは、新しい保護の方法を示唆する
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imminent : 目前に迫った
gaur : 《動物》ガウル
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ノアの箱舟が再び出航する。荒れ狂う科学という海をかきわけ、論争の風に
打ちのめされながら。しかし、旧約聖書に出てくる船とは異なり現代の比喩
的な意味での箱舟は、安全策として危機にさらされた動物を1対ずつ乗せる
わけではない。それどころか、うたい文句通りなら、絶滅に瀕した生物を無
限に生み出すことも可能かもしれない。
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set sail : 出帆する,出港する
buffet : 打ちのめす
controversy : 論争,物議
Old Testament : 旧約聖書
vessel : 船舶,大型船
metaphorical : 隠喩的な
live up to : (期待)にこたえる
bill : 勘定書,紙幣
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しかし現代版では、ノアは救出作戦の船長ではない。ガウルという、インド、
バングラデシュ、東南アジアにみられる絶滅に瀕した野生の雄牛のクローン
に前もって与えられた名である。新しいノアはベシーというアイオワ州スー
シティー近郊の農場にいる雌牛から今にも産まれる予定。雌牛がガウルを産
んだことはあるが、ある動物が他の種のクローン──全くの遺伝的複製──
の代理母になるのは今回が始めてである。「ガウルは順調に発育しています」
と、Advanced Cell Technologiesのスポークスマン、エミリー・ポーは話す。
マサチューセッツ州ウスターに本社のある小さなバイオ企業であるACTは、
斬新な異種間核移転技術を用いているのだが、これは保護に対して新しい時
代を告げるものとなるかもしれない。
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update : 最新情報
skipper : 船長,艇長
in advance : 前もって
Sioux City : スーシティー,米国
give birth to : 〜を出産する
species : 種
surrogate mother : 代理母,身代わり妊娠
different species : 異なった種類
spokeswoman : 女性のスポークスマン
biotechnology company : バイオ企業
usher in : 〜の到来を告げる
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ベシーの超音波検査は問題なさそうだが、考え方そのものは健全なのだろう
か?ACTの医療及び科学部門の副理事であるロバート・ランサは、この技術は
万能薬ではなく、危機に瀕した種を救うのに役立つかもしれないし、絶滅す
ら反転させるかもしれない「もの凄い可能性を提供しているのです」と言っ
ている。他の科学者はそれほど確信しているわけではない。彼らはこう言っ
ている。このような先端技術が脆弱な種の維持に力を発揮する見込みはない。
その種の生息地が破壊されているときには特に無理であると。
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ultrasound test : 超音波検査
concept : 考え方,概念
medical : 医学の,内科の
panacea : 万能薬,万能の方策,解決策,放逐,占有剥奪
reverse : 逆転させる
high-tech : 高度技術の,先端技術の
approaches : 《名》試み
vulnerable : 脆弱な
habitat : 生息場所,生息環境
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それでも、もしベシーのガウルが無事出産すれば、「介助出産」保護戦略に
携わる、アメリカとヨーロッパの多くの生物学者にとって、この出産は追い
風となろう。この中には、人工授精や体外受精も含まれている。しかし、特
にノアの出産はACTの科学者には励みとなる。彼らは、ピレネー山脈原産の
絶滅した野生羊ブカードのクローンを作るために、近頃スペイン当局と契約
したところである。最後のブカードが亡くなったのは1年前、最後の生息地で
ある北スペイン、オーデサ国立公園で倒れてくる木に当たったため。科学者
は既にかなりの量の細胞を保存しており、それを他の山羊の卵子に、恐らく
今年後半には、移転したいとACTは考えている。
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boost : 促進する
biologist : 生物学者
engage in :〜に従事する、
assisted reproduction : 介助出産
artificial insemination : 人工授精
in vitro fertilization : 体外受精
hearten : 勇気づける,励ます
mountain goat : 野生羊
native to : 〜原産の
Pyrenees : ピレネー(山脈)
falling tree : 倒れる木
quantity of : たくさんの
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ベシー──この実験では、妊娠後期まで胎児が無事だった唯一の牛──に用
いられたクローン技術は、世界初のクローン哺乳類である羊のドリーを産み
出した手順を少し変えたもの。卵子の保護膜を針で突き刺し、核を取り除く
が、細胞の遺伝物質の大部分はそのままにしておく。2番目の針によって、
卵子の外層内に全細胞を注入。数日内で胚芽は分裂し細胞が100ほどに増える
と、代理母の子宮に着床するには十分な大きさとなる。
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embryo : 胎児
Dolly : 霊長類初のクローン羊
mammal : 哺乳動物
jab :ジャブで突く
protective layer : 保護材,保護層
genetic material : 遺伝物質
inject : を注入する
outer layer : 外層
implant in : に植え付ける
uterus : 子宮,母胎
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ノアの創造は、オスのガウルの皮膚細胞と雌牛の卵子692個とを融合すること
から始まった。わずかに81個が胎盤胞(着床に適する細胞の集まり)に成長
し、そのうち42個が32頭の雌牛に挿入され、うち8頭が妊娠した。胎児のうち
2体は研究のためにあとで取り除かれ、また5頭の牛は自然流産した。ベシ
ーとノアだけが残ったのである。
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begin with : 〜から始める
fuse : 融合する
skin cells : 皮膚細胞
blastocyst : 《名》胚盤胞,尾胞
inserted : 着生した,付着した
fetuses : 胎児
spontaneous abortion : 自然流産
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ACT科学者がクローンの誕生を待っているとき、他の野生生物研究者はその
計画の保護の主張に疑問を呈し、誤った情報が流されていると考えている。
「私たちは、絶滅に瀕した種の管理と保護に対して、クローンが日常的に
使われるのが妥当だとは信じてません」と話すのは、バージニア州フロン
トロイヤルにあるスミソニアン研究所の保護研究センターの上級科学者、
デイビッド・ウィルト。それよりもウィルトが好むのは先端技術を使わな
い方法。危機に瀕したクロアシイタチの繁殖に使われた人工授精などだ。
このクロアシイタチは現在アメリカの西部で再び生息し始めている。「私
たちの研究室は、世界中の最も少ない種に取り組んでいます」と話す。「そ
して、実際の野生生物の管理者や科学者が、『ちくしょう、クローン技術
でこの種を助けなくては』と話すのを一度も聞いたことがありません。
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wildlife : 野生生物
relevance : 適切さ,妥当性
low-tech : 低い技術レベルの
artificial insemination :人工授精
breed : 繁殖させる
black-footed ferret : 《動物》クロアシイタチ
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ロンドンの動物学研究所の研究員、ウイリアム・ホルトにとって、最善の方
法は、種の生殖器官と、動物が自然に繁殖したくなる社会的条件を学ぶこと。
「こうしたことが分かれば、神経を逆立てるようなことをしなくても成功率
を上げることができます」「種の個体数が50以下となっている場合」はクロ
ーン技術が役立つかもしれない、とホルトは認めている。「その固体すべて
から細胞を抽出できますし、50体すべてを再創造することもできます。重要
な遺伝的変異性も得ることができるのです」それができなければ、その集団
は病気と戦い遺伝的多様性に欠けるため、その種を第二の絶滅に向かわせる
こととなる。適切な生息環境も必要だ。「こう尋ねなくてはなりません、私
たちはこの動物たちの将来を守るのだろうか?」
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research fellow : 大学の研究員
zoology : 動物学
reproductive system : 生殖器官
success rate : 成功率
invasive : 侵略的な,侵襲的な
down to : 〜に減って,下がって
re-create : 再創造する,作り直す
genetic variability : 遺伝的変異性
result in : 〜という結果になる
suitable : 適切な
habitat : 生育地,生息環境
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動物たちの将来を保証することは、毎年ますます多くの種が危機に瀕してい
る今、世界の野生生物研究者の最優先事項である。危機に瀕した種の繁殖の
ためのサンディエゴ動物センターの遺伝学者、オリバー・ライダーは、絶滅
危惧種からの一連の冷凍DNA、卵子、それに精子を集めるという25年に及ぶ
努力の立役者である。彼の指導の下で、この冷凍動物園には培養され液体窒
素の中凍結された種と亜種合わせて400以上の種類の動物から5,400頭の動物
の生きた細胞が保存されている。
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priority : 優先事項
imperil : 危険にさらす
geneticist : 遺伝学者
reproduction : 繁殖
driving force behind : の立役者
assemble : 集める
sperm : 精子
subspecies : 亜種
cultured : 養殖された
liquid nitrogen : 液体窒素
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絶滅した動物で、ライダーが気にかけているのがいる。「モローベイのカン
ガルーネズミの細胞を取り蘇らすことができたとして、それは本物だろうか
?」「大いに問題があるが、」1970年代にその齧歯動物に関しての研究が行
われていたときには、「誰もその細胞を保存してなかったので、そういう疑
問すら抱けない」「将来、これらの種に関して知りたくなるだろうし、また
生物学の共通な言語はますますゲノム情報になっていく。もしこれらの動物
のDNAを誰も保存してなければ、ゲノムの情報は極めて断片的なものとなるだ
ろう」さらに、今日的かつ実際的な面もある。遺伝データは、亜種がどのよう
に交わってきたか、またそれらがどういった環境を必要とするかという重要
な手がかりを提供できるので、絶滅危機動物を捕らえて管理している動物学
者には役立つだろう。
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on one's mind : 気にかかって
kangaroo rat :カンガルーネズミ
rodent : 齧歯動物,齧歯目
lingua franca : 共通語
fragmented : 壊れた,崩壊した
present-day : 現代の,今日の
practical : 実用的な
vital clue : 決め手となる手がかり
mingle : 入り交じる
zoologist : 動物学者
in captivity : とりこになって,捕らえられて
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科学を使って消えゆく種を救うことは地球規模になっている。フランスの自
然史国立博物館には4つの動物園があるが、その博物館のロバート・マウゲ
たちは最近人工授精では初となる鹿の胎児を産み出した。この技術──凍結
した精液を卵母細胞に組み込んだり卵細胞を育てたりする──は今年後半に、
普通の鹿を代理母として使って、珍しくかつ絶滅の危険のある鹿種に適用さ
れる予定だ。フランス人はまた、中央アジアのバクトリアン(Bukharian)
ディアの個体数を増やす方法について、ウズベキスタンとカザフスタンの同
僚と話しあっている。「基本としては、彼らに私たちのやり方を教えること
ができます」とマウゲは話す。
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National Museum : 国立博物館
incorporate :組み込む
semen :精液
oocyte : 卵母細胞
egg cell :卵細胞
common type : 普通形
surrogate mother : 代理母
recipe : 手段
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オーストリアのザルツグルク動物園では、人工授精によって初のシロサイ誕
生となる手法の開発を科学者が進めている。ウィーン大学獣医学のフランツ・
シュワルツェンバーガーは、この巧妙な技術を用いて成功すればさらに危機
に瀕した種、例えばノザンホワイト(?)のような種を救うことができるかもし
れないと考えている。「野生動物から精液を集めて、捕獲した動物を受精さ
せることが可能となるかもしれないのです」と彼は話す。「この手の介助出
産は、野生における個体数を損なうことなく捕獲した動物たちの遺伝子プー
ルを改善することになるでしょう」
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white rhinoceros :シロサイ、
artificial insemination : 人工授精
veterinary medicine :動物薬,獣医学、
tricky : 巧妙な
semen : 精液
inseminate : 受精させる
in captivity : 捕らえられて
assisted reproduction : 介助出産
gene pool : 遺伝子プール,遺伝子給源
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研究者は何年ものあいだ次々と種が絶滅していくのを見てきたのだが、今は
楽観的になっている。「手をこまねいていることなどできません」とマウゲ
は語る。彼は動物園間での、精子や卵母細胞それに胎児の交換が急速に増え
ると予想している。「動物園から動物園へと動物を輸送する代わりに、私た
ちは世界のあらゆる場所に精子を送ることになるのです」当面は、アイオワ
の片隅で、もう一つの出産が待っている。
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become extinct : 絶滅する
optimistic : 楽観的な
sperm : 精子
oocyte : 卵母細胞
embryo : 胎児
four corners : 全領域
delivery : 出産
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