|
| |
| P52 | 文筆家の間のいがみ合いほどひどいものはないがいがみ合いからは何も生まれ ない | match : 匹敵する、 catfight : いがみ合い |
| 1 | 先週、レナタ・アドラーの新しい回顧録は、ちっぽけで取るに足りないおしゃ べり好きな業界をばたつかせた。アドラーの回顧録はニューヨーカー誌に激しい 火炎放射を浴びせたのだ。アドラーは徹底的かつ有効に動揺させる評論家で、あ りきたりのこき下ろし屋とは一味違う。やられた相手が、骨なしでも居られるほ ど、見事に骨抜きにする。だが彼女の本とその熱烈な歓迎は、復讐心に燃え毒気 のある、結局は無益な攻撃のための文芸というほれぼれする完成されたジャンル を生みだす。 | insignificant : 取るに足りない,無意味な、 chitchat : 雑談,世間話、 flutter : はためく,パタパタする、 memoir : 回顧録、 flamethrower : 火炎放射器,毒舌家、 New Yorker :『ニューヨーカー』《都会的に洗練された米国の週刊誌; Harold Ross により 1925 年に創刊された; New York 市内の各種イベント案内もあるが小説・エッ セー・詩・漫画に定評があって, 情報誌としてよりも文芸誌としての評価が高い; 多く の作家やジャーナリストがこの雑誌から世に出ている; 発行元 The New Yorker Magazine》、 scrupulous : 良心的な,几帳面な、 unsettling :《形》かき乱す,落ち着きを失わせる、 yoke :つなぎ合わせる,束縛する,連れになる、 eviscerate : (動物の内臓を)取り出す、 corpse : 死体,死骸、 reception : 評判,反響、 invoke : 呼び出す,思い起こさせる、 vengeful : 執念深い,復讐に燃える、 venomous : 悪意に満ちた、 literary : 文学の,文芸の、 assault : 襲撃 |
| 2 | 最近ジョン・アービングはトム・ウルフを読めたものではないと攻撃した。ウ ルフはそれに応じて、アービングは小説家としては終わっている、ノーマン・メ ーラーやジョン・アップダイクと同じだ、とやり返した。ウルフは以前ノーマン・ メーラーとジョン・アップダイクに攻撃されたこともあったのだ。いがみ合いは いつもこんな調子だ。トルーマン・カポーティはジャック・ケルアックを「あれ は文筆ではなくタイピングだ」と攻撃した。ゴア・ビダルはカポーティを攻撃し た、「カポーティは虚偽を芸術にした。くだらない芸術だ。」グールド・カズン ズは言った、「私は吐き気をもよおさずにスタインベックを10ページと読むこ となどできません。」さしづめ怒りの'酸っぱい葡萄の論理'を表明したのだろう。 | unreadable : 読んで面白くない、 wash up : すべてし尽くす、 sour : 酸っぱい、 wrath : 憤怒,復讐、 throw up : 吐く,嘔吐する |
| 3 | ジャズミュージシャンは最高のほめ言葉でお互いをたたえ合う。俳優の場合も 大体そうだ。作家だけが爪をたて攻撃し唾をはきかける。だがそんなことを意に 介するのは他の作家たちくらいなもので、攻撃された者をみる世間の目には何の 影響もない。 | adoring : 愛情を込めた、 claw : を爪で引っかく,侮辱する、 spit : (唾を)吐く、 public opinion : 世論,世間の思惑 |
| 4 | さて、H.L.メンケンのヘンリージェームズに対する雅量のある評価をみてみ よう。曰く、「白痴、おまけにボストンの白痴この世界で最低最悪」そしてウィ リアム・アレン・ホワイトの華麗なメンケン評は、「彼の目は豚の目のように上 を向くことはなくいつも低俗なものをみ、鼻は豚の鼻で汚いものを掘り起こすの が大好きで、脳味噌は豚小屋しか知らない豚の脳みそだ。自分が痛い時だけは豚 のようにきーきー叫ぶ。時々牙があり醜い口を開くと、そこからは神の声が発せ られ、自分の回りの汚いものをかくしてしまうものをののしる。」小者が大者を 攻撃し、大者が小者を攻撃する。何がこの中傷合戦を起こすのか? | generous assessment : 寛大な評価、 idiot : まぬけ,大ばか者、 to boot : おまけに,その上、 gracious : 優しい、 description : 記述,描写、 snout : 鼻、 muck : 汚物,糞、 sty : 豚小屋、 squeal : 悲鳴、 tusk : 牙で突く、 rail at : 痛罵する、 whitewash : ごまかし,取り繕い、 manure : 肥やし,肥料、 habitat : 生息地,生息環境、 pointless : 無意味な、 snipe :狙撃 |
| 5 | しばしばその理由は職業的立身出世に関係する。他に名前を知ってもらう方法 のない無名の作家は、有名になるために大者を攻撃するだろう。少し前、ある男 がウォールストリートジャーナルの(社説欄の向かい側の)特集ページに私を史 上最悪の作家と攻撃する野心に満ちた記事を書いた。(もちろん私はもっとうま く書けるよう努力するつもりだが。)だが大者でさえ成功のためには攻撃するの だ。ジェームズ・ボールドウィンはエッセーの中で、リチャード・ライトにとっ てかわるためには彼を「やっつける」しかないと感じた、と認めて書いている。 | advancement : 出世,昇進、 op ed :《社説欄の向かい側の》 特集ページ(opposite editorial)、 Wall Street Journal : ウォールストリートジャーナル、 in history : 古今を通じて、 supplant : に取って代わる,〜を追い越す |
| 6 | この手のジャンルの問題は荒廃をもたらすような横道に作家を連れていくこと にある。中傷文芸は本物の真に価値ある文芸とは全く正反対のものだ。本物の文 芸は人生をより豊かなものに、より敏感なものにし、うまくすれば人生をより幸 福なものにする。中傷文芸は、個人的なもので個人的に人を傷つけようとする。 それは触れるもの全てを駄目にする。 | genre : 分野、 make for : に寄与する,〜を助長する、 digression : 脱線、 antithesis : 正反対、 alert : 注意怠りない,用心深い、 with luck : うまく行けば,運がよければ、 shrivel : だめにする |
| 7 | 中傷文芸はまた本来的にかつ意図的に不公正であり不完全であり、しばしば道 理に合わないことさえある。マコーレーはソクラテスについて語った、「ソクラ テスを読めば読むほど彼らが彼を毒殺したのは不思議ではなくなります。」まあこ れももしソクラテスが一編の著作でも残していれば意味をなしたかも知れないが、 (我々はプラトンの著述からしかソクラテスを知り得ないのだ)。チャールズ・キ ングズリーはシェリーを「みだらなホモ」と呼んだ。確かにこれは興味をそそる 考えだが、ちょっと想像しにくいのである。 | by nature : 本質的に、 intention : 意図、 incomplete : 不完全な、 irrational : 不合理な、 lewd : 猥褻な,みだらな、 intrigue : 興味をそそる |
| 8 | そしてそれは偽りの成就感を生み出す。攻撃者の友達はいつも急いでその攻 撃の苛烈さを祝う。というのも彼らは両得をしたからなのだ。一人の作家がけな され、またけなした方はその行為によりうすのろに見えるのだ。 | false : 誤った、 rush to : 殺到する、 meanness : 卑劣な言行、 twofer : 1個の価格で2個買えるクーポン券、 belittle : けなす,価値を下げる、 jackass : まぬけ,ばか |
| 9 | そうはいうものの、手の込んだ威嚇は続く。理由は様々だ。理解できたり、許 せるのもあるが、とんでもなくて許し難いものもある。作家は自己叱責のじめじ めむっとする独房で暮らしがちなのだ。それは尋常なものではなく、まったく恐 ろしいことも時としてある。自分のしたことに気づき自己嫌悪に襲われ、しばし ば卓越した判断力をみせ自殺の変わりに謀殺を行う。 | dainty : 優美な、 somewhat : 幾分か、 understandable : 理解できる、 forgivable : 許してよい、 dank : 湿っぽくて薄ら寒い、 airless : 風通しの悪い、 self-recrimination : 自己叱責,自己批判、 awful : 恐ろしい、 excellent judgment : 卓越した判断力、 commit murder : 人殺しをする |
| 10 | どんなに激しい孤独な焦燥感からヘミングウェイがウィンダム・ルイスのこと を、「彼の目は未遂に終わった強姦魔の目だ」と評したのかは誰にも知る術はな い。 | solitary : 孤独な、 stew : とろ火で煮る、 rapist : レイプ犯 |
| 11 | 一人ぽつんとしている作家は人の間にいる作家と同じくらいぞっとする光景だ。 とりわけブックパーティではそうだ。彼の血流をパラノイアが走る。誰もが自分 に対して陰謀を企てていると確信する。誰も彼のことなど全く気にしていない というのに。(おとしめられる、あるいは、気にされない)そのどちらがより屈 辱的なことか決めかねた作家は、ペンという45口径ピストルに救いを求めるのだ。 | paranoia : パラノイア,妄想症、 bloodstream : 血流(量),大動脈、 whereas : 〜であるのに対して、 humiliate : に恥をかかせる、 verbal : 言葉の |
| 12 | だが真の理由は非常に多くの作家が高潔な美徳に欠けていることにあるのだと 私は思う。彼らの戦い方は奇襲攻撃で、彼らの狙撃は卑劣で安っぽい。2、3年 前、ある映画シナリオ作家がニューヨークシティのレストランで食事中のジャー ナリストに突然なぐりかかり床にたたきのめした。これには皆驚いた。というの もこのシナリオ作家が誹謗中傷の手を使うのではなく直接行動に出たからだ。 | noble : 高潔な、 virtue : 美徳、 mode : 形態,様式、 warfare : 争い,闘争、 sneak attack : 奇襲,闇討ち、 cowardly : 臆病な,卑劣な、 movie script : 映画の台本、 sucker punch :に不意にパンチをくらわす,いきなりなぐる |
| 13 | 実はそもそも作家が作家になる一つの理由には、文字の世界で、自分を実際よ りもまともでリッパにみせることができるというのがある。作家は概して人間の くずだ。取るにたりない、胸が悪くなるような、気むずかしい、ねたみに満ち、 恐怖にむしばまれた腐った卵のようなものだ。もちろん私は別だ。あのどじなシ ェークスピアも。 | enable : 可能にする、 decent : 上品な、 honorable : 高貴な,尊敬すべき、 in print : 活字になって,紙上に、 in person : 本人自身で,実物で、 bad lot :悪い奴,やくざな奴,人間の屑、 on the whole :概して,おしなべて、 petty :些細な,狭量な、 nasty : 意地の悪い、 bilious : 怒りっぽい,非常に不愉快な、 suffuse : 満たす、 be riddleed with :でいっぱいである、 exclude : 除く、 fathead : まぬけ |
感想などがありましたら、メールを下さいね!!