「週末陶芸のすすめ」書評


共同通信  書評 1998年6月14日

「仕事と趣味を往還する豊かさ」谷川晃一・画家

「趣味」とは「職業」以外の好きなことを指すが、
ある会社で社員に「趣味はなにか」を尋ねるアンケートを募ったところ、
「特別なし」の答えが少なくなかったという。
これは好きなことが何もないのではなく、
趣味と呼べるほど、のめり込んでいるものがないということらしい。

実際、仕事の余暇に何かまとまったことをするには
情熱とエネルギーとプライベートな時間の確保が必要になるが、これが意外と難しい。
本書は広告代理店に勤める筆者が三十代の後半になって
、仕事以外に楽しみを持っていないことに気がつき、陶芸の道を歩み始める奮闘記である。

 陶芸をはじめるということは、何よりも土になじみ、土に対する基礎的な修練が必要で、
どのような表現をするかという創造の悩みはとりあえず後のことだ。
はじめは創意が希薄でも、ともかく手を動かし、作業の形を繰り返し続けているうちに、
次第に創造力に目覚めてくるということが手仕事にはよくある。
それゆえ陶芸は、やりだすと夢中になる人が多い。

 この本には、ある日、陶芸教室の門をたたき、修行の道を歩みはじめた筆者が
ついに「日本伝統工芸展」に入選するようになるまでがドキュメントされている。
そこにはサラリーマンの悲喜劇と苦労がにじんでいる。

 特に空いたスペースなどどこにもない3LDKのマンションで、
妻と娘に気兼ねしながらロクロや土練り台を運び込み、
次第にエスカレートしていく様子などは家庭の崩壊を予測させる。
しかし転勤による単身赴任という運命が彼に味方した。
赴任先のマンションが全面的に工房となったのである。

 だが、陶芸がいくら発展しても仕事にはしない、
仕事と趣味の両方をやるから楽しいという筆者は「壺中の天地」という逸話を引いて、
一つの世界に生きるのではなく二つの世界を往還する豊かさを説いている。

 本書は陶芸のすすめであるが、同時に楽しき二重人生のすすめでもある。


サライ 「読む」 1999年第1号

陶芸歴6年の会社員の体験記。近所の陶芸教室の体験を、
自分なりにいかに発展させるかのノウハウが書き込まれている。
最後にひっそりと掲載された作品の出来栄えはみごと。


日経アート 1998年11月号

仕事に追われてきた会社員が、三十代後半になり趣味をもっていないことにがく然とする。
絵画、ゴルフ、釣りと首を突っ込んだ果てに、陶芸という無二の趣味に出会う。
たちまちのめり込み、日本伝統工芸展に入選する程に腕を上げる。
途中で生じた単身赴任では、赴任先に電気窯を購入して一人暮らしをプラスに変えてしまう。
陶芸のイロハと趣味の効用を記した一冊。


男の隠れ家  1998年11月号

サラリーマンにして、陶芸家としても活躍中の筆者。
陶芸教室の門をたたいて、その奥深さを知り、のめり込み、
日本伝統工芸展に入選するまでの、楽しいながらも厳しい、仕事と陶芸を両立する日々を綴る。
「サラリーマンのもう一つの人生」に踏み出す勇気を与えてくれる一冊だ。


西日本新聞  読書 1998年7月26日

「仕事と両立また楽し」(見出し)


日刊現代  インタビュー 1998年7月17日

「寝食忘れるほど熱中できた趣味は陶芸が初めて、こんな楽しみを独り占めはないですよ」(見出し)


日本経済新聞  BOOK 1998年6月17日

著者は広告代理店に勤めるサラリーマン。
六年前に始めた陶芸にはまり、電気窯やロクロを買い込んで自宅マンションを工房にしてしまった。
窯の選定と設置から個々の技術を習得する道筋まで体験に則して語る。
同じ趣味を持つ人ならうなずくところが多いだろうし、
知らない人にはやってみようという気にさせる本だ。


産経新聞  書評 1998年5月31日

「仕事だけの人生では」(見出し)