自著・紹介

僕はプロの陶芸家ではない。ましてや巨匠でも大家でもない。
職業欄には「会社員」と記すしかない僕が、陶芸の本を書いてしまった。
歴30年、40年という練達の士がそびえ立つ世界で、大胆不敵な所業に及んだのは、
生来のオッチョコチョイの成せる業である。

しかし、趣味で陶芸を始める人がいだく、ときめきとおののきの感情を
これほど分かっている本というのは、ほかにはちょっとあるまいと自負している
(なんだか腰の引けた自負である)。

中年にさしかかるころ、僕は自分が趣味と呼べるものを何も持っていないことに気がついた。
意を決して陶芸教室の門をたたいたのは八年前。瞬く間に陶芸の面白さにとりつかれて深みにはまった。
ほかに仕事を持つ身としては、時間の捻出、ささやかな場所の確保など、
おそらくプロの陶芸家には想像のできない、アマチュアなりの工夫が必要だった。
また、アマチュアだからこそ味わうことができる喜びと充足感もあった。

この本は軽い気持ちで始めた陶芸が、僕の中でいつのまにか「趣味以上の趣味」に育っていった。
その楽しくも悪戦苦闘の日々を書き綴ったものである。
仕事以外の「もうひとつの世界」を持ちたい。本気で取り組める趣味を始めたい。
切実にそう感じている人々に、この数年間の僕の体験が何かの役に立つのなら本望である。

                                       「はじめに」・・・から。

装丁は、南伸坊さん。扉の陶枕の絵も伸坊さんが描いてくれました。いい本になりました。