自著・紹介


 何かを始めるとき、できない理由は山のようにあるものだ。
できる理由はただひとつ、「それでもやりたいから」。僕のマンション陶芸がそれである。
あたりまえのことだが、マンションは陶芸向きにできてはいない。
それでも陶芸がやりたい、その一念で、これまで試行錯誤を繰り返してきた。

 ベランダにロクロを持ち込んだ「ベランダ陶芸」の時代が四年。
マンションの部屋を工房化してから五年。計九年のマンション陶芸歴である。
マンションならではの工夫を重ねるうちに、しだいに本物の工房らしくなってきた。
地べたよりも、むしろマンションのほうが陶芸がやりやすいのではないか。
今では本気でそう思うことすらある。

 僕はプロの陶芸家ではない。
仕事はCMの企画を考えるCMプランナー、広告会社に勤務するビジネスマンである。
陶芸との出会いは、今から九年前のこと。三十九歳の誕生日を間近かに控えていた。
仕事以外にこれといった趣味もなく、これでいいのかと自問したあげく
近所の陶芸教室の門を叩いた。そして陶芸の魅力にとりつかれてしまったのである。

 教室でロクロを体験してその面白さに引き込まれ、
もっと練習したいとロクロを購入して自宅のベランダに設置した。
日曜大工の店で材木と合板を買ってきて土練り台を作り、
クール便の発泡スチロールの箱を粘土の保管箱に転用した。
ロクロ、土練り台、保管箱。
この陶芸三点セットをベランダに並べて、僕の「ベランダ陶芸」がスタートした。
 
 転勤の辞令が出たのは、陶芸教室に通い始めて丸四年が経ったときだった。
栄転でも左遷でもないただのローテーション人事。任地は福岡。
諸般の事情を考えると、単身赴任しかない。
僕は、一計を案じた。職住接近で、しかも一人暮らしなら自分の時間がたっぷりできる。
その時間を徹底的に陶芸に使ってやろう。
考えようによっては、単身赴任は憧れの工房を手に入れるチャンスなのだ。

赴任先の自宅として選んだのは2LDKのマンション。
地方都市で物価が安いとはいえ、住宅手当ではまかないきれず
月々3万5千円の足が出る計算になる。単身赴任者には、たしかに贅沢な物件には違いない。
だが、ここは単なる住まいではない。憧れの工房が3万5千円で手に入るのだと考えよう。
そのかわり新聞は会社のを読もう。中州のネオンにも近づくまい。
いや、めったに近づくまい。とにかく、近づかないように心がけよう。

妻のかわりに電気窯を、子供のかわりにロクロを伴なっての赴任となった。
こうして僕の「マンション陶芸」が始まった。

「趣味」というのは本来とてもいい言葉なのだが、
なんだか「片手間」というような手垢が付いてしまった。
「ジンセイのオモムキやアジワイ」という思いを込めて、僕は「週末」を使いたいと思う。

 さあ、週末陶芸家になろう!
                    
               ・・・・・「週末陶芸家になろう!」、「はじめに」より。