Bullwalker
〜 黎明期の記憶 〜

写真右:開発者たちの記念撮影。歩行実験成功直後に撮られた貴重な写真。当時の開発者が全員そろう事は非常に稀な事だった。 最前列右が、伝説の科学者ハジン氏。

 先の2度の大戦で過去の記録が大量に失われてしまったが、このたび弊社地下倉庫の片隅でロボット製作黎明期の写真と資料が発見された。 当時の様子を伝える貴重な記録であると共に、伝説の科学者、ハジン・ハージンの写真と記録も発見できた事は正に奇跡的と言って良いだろう。 改めてアナログ記録の重要性を再認識させる出来事であった。

記念写真
 天才科学者ハジン・ハージンの名は様々な記録に見られるが、その実態は全く解らなかった。 実在の人物かどうかも怪しまれたぐらいだ。 今回の発見により、その実在が証明され、本人の手によるロボットの詳細も分析できた事はロボット史の空白を埋める画期的な出来事である。

ハジン・ハージンはMilennum-Boyの作者として知られるが、その実像は謎のままだった。 かろうじてその名前からMilennum-Boyは旧暦の2000年に製作されたであろう事が推測できた訳だが、その動作は記録による違いが多過ぎ、特定は困難だった。 世紀の大発明とした文献もあれば、今世紀最大の失敗作という文献もあるからだ。 但し、数々の戯曲や伝承の中に登場することからも、人々の関心は並々ならぬものがあったに違いない。 いずれにせよ、今回の発見から、当時のロボット技術全般が推測できよう。

 初期のロボットは、ほとんどが軍用として開発された為にその開発者やロボット自体の記録が極端に少ない。今回発見された写真のロボットは旧暦2011年、つまり連邦暦前510年の製作となっている。最も平和な時代だったお陰で、記念写真を撮る事が出来たのだろう。 開発者達の顔にも笑みが見て取れる。 しかし、そのロボットの大きさには目をみはるものがある。 なぜこの様にロボットが大型化しなければいけなかったのかは、軍用という事を考え合わせても謎である。 当時は高い攻撃力を持つためには大きな火力(注1)を大量に装備しなければいけなかったのだが、写真からはその装備状況も良くわからない。恐らく、攻撃装置は無装備状態の写真だと考えられる。 戦争にこのような物理的な攻撃が必要だった事は今の若い世代には想像もつかないに違いない。

ハジン・ハージン ハジン・ハージン(BF.560頃〜455頃) 日本生まれ。国籍は不明。 Milennum-Boyシリーズで一時代を築いたが、そのあまりにも突拍子もない発想に人々は離れ、晩年はさびしく過ごしたという。 サントスの名作「ハリムとハムニ」(注2)のハリムは彼がモデルだと言われる。 但し、彼がハリムの様に酒とドラッグにおぼれていたかは、はなはだ疑問である。 トルピリンなどの発想刺激剤(注3)のない当時、酩酊状態でアイディアが次々と浮かぶと言う事は絶対にあり得ないからである。 彼は自分の頭のみで考えた最後の世代の科学者なのかもしれない。

頭部  ここで、今回発見されたロボット、Bullwalkerの特徴を見ていこう。 但し、資料が限られている為、多くの部分は編集部の推測である事を始めにお断りしておく。

 Bullwalkerは全体としては重心移動式歩行メカニズムの形態を取っているが、地上接地面の角度変化の最適化によってスムーズな歩行をすることが出来る。 上部ボディにはパワーユニット駆動用のディストリビューターユニットと制御装置、通信ユニットが装備される。 マニュピレーターも左右に実装され、上部全体はパンタグラフ式にフローティングマウントされている。ボディ

右の写真は組みあがったボディ中央部である。両足はシンプルな平行移動メカだが、接地面を変化させるためのリンクが写真右下に見える。 メインシャフトの結合はシャフトに対し抜き方向の大きな力が働くために、当時最新のT-ペーパー方式の結合補強がなされている。

 メインパワーユニットは本体中央部に一つあり、これ一つで両足の駆動と上部のスイングを行う。 当時はモーターのパワーと重量・速度のバランスをいかに取るかが重要な問題で、複数のパワーユニットを連結する試みもされた。 左下はハジン自らがメイン駆動シャフトの中央にある光学式センサーのターゲット調整を行っているところだ。 ここは組みたて後は封印されてしまうため、露出状態で見ることはめったにない貴重な一コマである。

  組みたて作業同時に発見された資料の中に、小さなシリコン系チップのメモリーが発見された。内部は実装度が少なく簡単に解析できたが、その中に興味深い動画が記録されていた。 当時のロボットの歩行を捕らえた動画は非常に珍しく、動きの稚拙さがノスタルジックでもある。 実際の大きさに比べて動作が速すぎるが、当時の動画フォーマットそのままでのフレームレートであるので、そのまま掲載した。 実際の動作は最盛時に五倍程のスローモーションをかけると適性になる。

 映像の最初の部分でマニュピレーターとレーダー(注4)が回転している。このBullwalkerには歩行用のパワーユニットとは別に、方向転換用と思われる振動子用高速型パワーユニットがボディ最下端に実装されている。 前述のマニュピレーターとレーダーの動きはこのユニットの振動によるものである。 歩行中にこの振動子を動作させることで方向転換をすることを目的にしたのだろうが、全体をブルブルと振るわせるだけで、方向転換には至らなかったようだ。 この振動子形回転装置は、古くはSCHUCO社のダンスロボットシリーズで応用されていた技術だが、このBullwalkerでそれが成功したか否かは今回の資料では記述がなかった。今後の研究に委ねたい。

Mpegムービー
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(Mpeg 232KB)

 さて、今回発見されたBullwalkerいかがでしたでしょうか? 編集部では、皆さんのご意見、ご感想など、随時募集しています。

 (週刊ロボット時代編集長:ヤーマ・ディーマハ

注1当時の攻撃法は火薬という爆発性物質を利用した武器が一般的であった。

注2作者のジョハリナ・サントスはハージンの研究に16年の歳月を費やしたと、彼自身の手記で告白しているが、その時の資料も散逸し詳細は不明である。

注3最近はタルハリスなど安全な発想刺激剤が開発されているが、初期のトルピリン等は副作用も強い危険な薬品だった。トルピリンの開発年月日は以外に新しく、AF.103年。

注4レーダー〔radio detecting and ranging〕電波を利用した探知装置。頭部の目の様に見える部分がそれにあたる。

 

 

編集部より

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