Works on Themes of Paganini

作曲
演奏
 
ファリク、ショパン、リスト
ニコライ・ペトロフ(ピアノ)
 
  ロシアの重戦車ニコライ・ペトロフによるパガニーニを主題としたピアノ曲集。なんといってもこの盤の最大の魅力はリストの「パガニーニによる超絶技巧練習曲 1838年版」が収録されていることに尽きる。この恐るべき曲集をメインにファリク「Dedication to Paganini」とショパン「パガニーニの思い出」がいわば前奏曲のように弾かれている。

 リストが演奏家として活躍していた1830年代(リストがパガニーニを聴き熱狂したのは1831年)はピアノヴィルトーゾの時代でとにもかくにも超絶技巧を身につけたピアニストがしのぎを削っていた。ドレイショクがショパンの「革命」左手をインテンポでオクターヴで弾きその後リストがショパン練習曲25-2の右手をオクターヴで風のように弾ききったという有名なエピソードが物語るようにとんでもないピアニストがいた時代である(その点ショパンはそれらのヴィルトーゾとは微妙に距離を保っていたようである)。「パガニーニによる超絶技巧練習曲」はリストの演奏家としての絶頂期1838年に出版された。その後「万人向けにした」版が1851年に出版される。これが現在私たちが「パガニーニ練習曲」と呼んでいる曲集である。音の多さ、技巧の難しさは初版の方が圧倒的であり第4番のように非常識なほどの音の詰め込み方をしたような曲も含まれている。
 よく当時の演奏家は本当に楽譜通りの速さで弾いてなかったのではないという指摘がなされている。しかし私は楽譜通り、いやそれ以上の演奏を行っていた信じている。現在録音の残っているリストの弟子、モーリツ・ローゼンタール等の録音を聴くと恐るべき技巧を聴く事ができるが、それが彼等が70代、晩年の録音であるということに驚きを禁じえないであろう。その彼等がこぞってリストのことを褒めているのである。誰一人貶していないのである。このことはリストがその演奏家としての絶頂期に「パガニーニ初版」を(おそらくは楽譜以上に音を足して)見事に弾きこなしていたことの証ではなかろうか。

 この録音でのペトロフの気合の入れようと技巧は凄まじいものがある。なんといっても悪名高い「パガニーニ初版」であるから自ずと気合が入るのであろうが、録音のみならずコンサートでもペトロフは「パガニーニ初版」を演奏している。これは自らの技巧に相当の自信がなければ出来ることではあるまい。例えば6番「主題と変奏」の第8変奏。

 L1が初版でL2が現在流布している第2版であるが楽譜を比べると到底同じ曲であるとは思えない。このとんでもない跳躍をペトロフは恐るべき技巧で弾きあげる。10度が楽に届く手でも相当難しいことであろう。池尾拓氏は「クラシックB級グルメ読本」でこの曲集を「ピアノが本気」を出したらヴァイオリンなんか物とも言わせないという事を書いておられるが、まさにこの作品のインパクトは演奏家としてのリストの絶頂期、聴衆の熱狂振りを想像して難くない(なお「Virtuoso Piano Transcription」この曲集の詳細な名解説がある。是非一読されたい)。

 しかしペトロフ、よく録音してくれたものである。現在数種この曲集の録音があるがペトロフを超える技巧、パワーと迫力を兼ね備えた録音は存在していないようである。

 現在リストの「パガニーニによる超絶技巧練習曲」はショパン、シューマン「パガニーニ練習曲」とともにCD化された(MEZHDUNARODNAYA KNIGA (OLYMPIA RUSSIA) MKM 141)がファリクの作品は収録されていない。

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