愛している・・・でも二人は同じ血が流れる兄と弟
第5話
「一鍬・・・・」
出て行ったはずの兄者の声がする。
「もう・・泣くな」
俺は泣くのを止めて、声のする方を見た。
確か出て行ったはずなのに。こんな俺に怒って。
でも、入り口には兄者が立っている。
俺は声を涙で上ずらせながら、兄者を呼ぶ。
「戻って来てくれたんだ・・・兄者」
残った涙が、一つ、二つ瞳からこぼれ落ちる。
「泣くな、一鍬・・・」
兄者は静かに俺に近づくと視線を俺の瞳に落とす。
こぼれた涙を優しく指でぬぐってくれた。
幼い時からいつも俺が泣くと、こうして涙をぬぐってくれた兄者。
優しい、優しい俺の兄者。俺だけの、兄者。
ぬぐった指で、俺の髪の毛をっと撫でてくれる。
優しい愛撫に俺はうっとりとなる。
兄者に嫌われてなくて良かった、本当に・・・。
「済まなかった、一鍬。お前に八つ当たりなんかして」
八つ当たり?どういう意味?
「頭を冷やすのは俺の方だ。こんな可愛い弟を悲しませるなんて」
か、可愛い??ほ、本当?嬉しいなぁ。
「正直言って、俺は怖かったのだ」
兄者は、真剣な瞳で俺を見る。
「お前が、あまりにも・・・その、その」
え??何??何?
「魅力的だからだ・・・」
み、魅力的!お、俺が?
兄者と比べたら、ぜんぜんダメダメ。
兄者の方がカッコイイって。そして、魅力的で・・・。
そう考えを巡らした俺に兄者は、いぶかしげに見る。
「一鍬?どうした?」
あらぬ妄想に落ちそうになった所で、
俺は兄者の言葉で現実に戻される。
恥ずかしくって、顔が赤くなり言葉もしどろもどろ。上手く呂律も回らない状態。
「い、いや、その・・・別に」
兄者が大きな両の手のひらで、赤くなった俺の頬を包み込む。
「一鍬は、美しいな」
「えっ?」
意外な言葉に驚く俺に、兄者は慌てて両手を頬から離した。
「許してくれ一鍬。お前の綺麗な肌に欲情し、
治療と嘘を言ってあんな事をしてしまった」
欲情?俺に?兄者が?
「お前が反応を現した時、俺の中でさらなる欲望が膨張してきたのだ。
それが怖かった。それに呑み込まれるのが怖かった。
それをお前に悟られるのが怖かった。
だから、わざとお前を怒ったのだ。
頭を冷やすのは、俺の方なのに・・・」
すまないと俺の目の前で、頭を深く下げる兄者。
なんで、なんで・・・あやまるの?
俺は兄者に顔を上げるように言う。
だけれど、兄者はスマナイ、スマナイと繰り返すだけで
一向に顔をあげようとしない。
これって、兄者も俺と同じ気持ちだったと言う事だよね?
「お前に嫌われたかも知れない」
「嫌いになんかならないよ」
本当だよ、俺はいつでも兄者が好きだよ。
兄として、ううん・・・それ以上として。
「本当か?こんな俺でも嫌いにならないのか?」
やっと兄者が顔をあげてくれた。
「こんな酷い事をしたのに」
いつでも優しい兄者。俺をこんなに心配してくれてるなんて。
「俺の方が嫌われちゃったかと思ったよ。だって、反応しちゃったし」
「あ、あれか・・・」
「うん。兄者がしてくれるんだもの感じちゃった・・」
「え?」
うーん、とうとう言っちゃった。
いいよね、もう・・言っても。大丈夫だよね。告白しても。
「大好きな兄者にあんな事されたら、なっちゃうて。期待もしちゃうよ」
「一鍬・・・お前」
「兄者が俺の側にいるだけでドキドキしちやうけれどね」
やっぱり、告白って恥ずかしいよぉ。
ねえねえ、俺にだけ言わせないで兄者も言ってよ・・何か。
「そうだったのか、お前も・・・だったのか」
兄者は嬉しそうに俺に微笑む。
「早く、言えば良かった」
そうだね。と俺は兄者に微笑み返す。
甘い時間が二人に流れていく。想いが重なっていく。
俺の望んでた事が今・・・叶おうとしている。
嬉しいな。
兄者は俺のアゴをそっと掴むと自分の方にと引き寄せた。
唇と唇が近くなる。
そんなシチュエーションに俺はまた期待からか、胸がドキドキしてくる。
「もう、戻れないぞ。それでもいいか?」
え?戻れない?何が?
「この一線を越えたら、俺とお前は兄と弟には戻れないのだぞ」
え?戻れない?どういう意味?
解らない、解らないけれど俺はそれでもいい。
兄者と一緒にいられれば・・・。
俺は、強く頷く。
それを合図にしていたかのように、兄者は俺に
熱く激しい深いキスをしてきた。
戻れない・・・そんな言葉が頭を横切っていく。
どういう事なんだろう。兄と弟に戻れないって・・・。
始めてのキスの刺激に、俺の頭は朦朧となる。
第6話に続く
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