日本人は何処から来たか

―血液型遺伝子から解く―

松本秀雄 (NHKブックス、1992)

 

日本人の起源をめぐっては昔から多くの議論があり、形質人類学や文化人類学、民俗学、言語学などのアプローチにより、さまざまな学説が唱えられていますが、1990年に埴原和郎(はにはら・かずろう)氏がまとめた「二重構造モデル」が有名で、諸学会諸分野から最も広く支持されているようです。

  • 旧石器時代の縄文人は古く東南アジアに住んでいた原アジア人の系統に属し、ほぼ均質の集団だった。
  • 渡来系弥生人は寒冷適応を遂げた北アジア人の系統に属し、日本列島で縄文系集団と共存・混血するようになった。
  • アイヌと沖縄(琉球)の集団は渡来系集団の影響を受けることがきわめて少なく、縄文系集団がそのまま小進化した。

簡単にいうと、縄文人=南方系、弥生人=北方系。つまり、大陸からまず南方系のモンゴロイドがやって来て、その次に北方系のモンゴロイドが来た、というものです。沖縄と北海道の出身者には、いかにも「南方系」と思える風貌の人が確かに多いという、一般的な印象に良く合致していますね。

本書はこの定説を覆す衝撃的な内容。

血液型には有名なABO式の他にも多くの型がありますが、ほとんどがメンデルの法則に従って親から子へと単純かつ規則的に遺伝します。しかし、人種・民族の系統の研究にこれを用いるためには、変異(アロタイプ)の数が多く、しかも突然変異が一定の速さで緩やかに起こるものを選ぶ必要があります。白血球の一種であるリンパ球が作る抗体(IgG)のタイプであるGm型はこの条件にぴったりで、そのアミノ酸変異の分布は人種・民族の系統関係をよく反映すると考えられています。そこで、Gm型のパターンの世界的な分布を調査し、その結果から日本人の起源を推測したのが本書。

それによると、蒙古系民族は大きく北方型と南方型に分かれ、その境界は中国の長江(揚子江)流域地帯。北方型は現在シベリア、モンゴル、朝鮮半島、日本列島、中国北部に分布。そして、原日本人は朝鮮民族成立以前に日本列島部に到来し定住した(1万数千年以上前)。このときすでにアイヌと沖縄の集団は本州・九州に定住した集団とは若干異なっていて、おそらく先に到来していた。その後、南方型蒙古系民族が朝鮮半島経由で渡来し、アイヌと沖縄の集団を除く日本人との混血が起こったが、その混血率は7〜8%。このように、定説とは全く異なります。日本人は基本的に北方型蒙古系民族で、そこにわずかばかり南方型蒙古系の血が加わっただけなのです。

今後はアミノ酸変異よりも分子時計としてより正確と考えられる遺伝子の変異から、人種・民族間の遺伝的距離を明らかにする研究が行われるでしょう。それによって本書の結論がどのような評価を受けるか、楽しみです。

著者によると、北方型蒙古系人種の源流はバイカル湖畔のブリアートと呼ばれる人々で、彼らの顔つきは全く日本人にそっくりだそうです。私もバイカル湖に行ってみたくなりました。

 

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