DNAが解き明かす日本人の系譜

崎谷 満 (勉誠出版、2005)

 

成人T細胞白血病ウイルスの分布に関する研究で有名な元京都大学教授の日沼頼夫氏の最後の弟子である著者が、DNA 分析による日本人系統論の最新の研究成果をまとめたもの。「DNA 分析」といえばミトコンドリアの DNA 分析による「イブ」とその7人の娘たちが有名ですが、最近では父系遺伝にかかわる Y 染色体多型の研究が急速に進歩しているとのこと。本書で紹介されているのも Y 染色体多型の分析です。

本文の大半は全世界に広がる染色体各亜型の、分布と相互関係、その移動経路の説明で、各論点に関する学界の定説や異説の羅列(ほぼすべて箇条書き)ですから、正直なところ退屈で読むのがしんどい。もう少しドキュメンタリー調に書いてもらえないものかと思いますが、律儀な学者さんだから仕方ないのでしょう。

結論だけ紹介すると、旧石器時代にシベリア経由で北海道にやってきた C3 系統、新石器時代(縄文時代)に華北−朝鮮半島経由で西九州にやってきた D2 系統、そして金属器時代(弥生時代)にほぼ同じルートをたどった O2b 系統と O3 系統が、今日の日本列島(沖縄も含む)のヒト集団を形成している。南方島嶼部から沖縄経由できた、狭い意味での「南方系」の痕跡は、ごくわずかである。

これは大筋で松本秀雄氏の血液型 Gm 遺伝子による分析(『日本人は何処から来たか』、下表参照)と同じ結果ですが、細部はいろいろと違うようです。また、埴原和郎氏の有名な「二重構造モデル」は日沼説の追認であり、どちらも本書に示された DNA 分析の結果によってさらに追認された、ということのようですが、ほんとかな。私にはこの辺の関係がよくわかりません。しかしともかく、アフリカをあとにして他の大陸に広がった人類は大きく3つのグループに分かれ、日本列島にはその3つのグループに属する系統がすべて集まっていて、これは全世界的にみて他に類のない特徴だそうです。

本書の最後には、詳細な言語学的検討による日本語の起源・系統論と DNA 分析によって得られた日本人起源論をすりあわせることによって、従来の日本語系統論の問題点を克服する試みが行われています。

 

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