日本史再発見

―理系の視点から―

板倉聖宣 (朝日選書、1993)

 

日本の古代から近・現代に至る乗り物の歴史から、どんなことがわかるか。ここでの乗り物は、人間だけでなく荷物を乗せるものも含めています。一人または少人数の人間を乗せる乗り物は時代とともに、牛車(「ぎっしゃ」と読む)→馬→駕籠(かご)→人力車→自動車と変化しました。一般的な文明史観からすると、人間の労働を動物や機械に肩代わりさせるという流れが自然で、そうすると駕籠→馬→人力車→牛車→自動車というようになる。なぜそうならなかったのか。

一方、荷物を乗せる乗り物といえば、牛車(こちらは「ぎゅうしゃ」と読む)と、いわゆる「大八車」。牛車の歴史は古く、大八車は江戸時代初期に発明されましたが、これら荷車の使われ方は江戸、大坂、京都で大きく異なっていました。

本書の前半は、このような乗り物の変遷から見た日本の社会の特質と、その歴史的変化についての考察。後半は江戸時代に焦点を当て、人口の増減と年貢収納量の関係、明治維新を導いた諸藩の人口と経済の動向など、統計数字から近代社会の姿を浮かび上がらせます。こちらの方がさらに面白い。

著者は「仮説実験授業」で1960年代から有名な、科学史・理科教育の専門家。その後、歴史を中心に社会科の仮説実験授業の研究もしていて、その成果の一部を「科学朝日」に連載したのが、本書の元になっています。副題の「理系の視点から」というのは、歴史資料から統計的数値を取り出し、その変化の理由や背景を考える、といったような意味でしょうか。