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●栗本薫の昔のヤオイ小説いろいろ

いわゆるJUNE世界では一応元祖みたいな物(ほんとの元祖は森茉莉かもしれませんが)らしいですが文章が苦手で読んでなかったです。そういう物が読みたかったら少女漫画の方でいい物がいくらでもありましたからね。が先日ブコフで105円で(ケチ)いろいろ出てて、ちょっと興味も湧いたところだったので読んでみました。

○「翼あるもの」上下
上下になってるけど下巻は上巻からだいぶん経ってから書かれた補完ストーリーみたいな位置づけらしいですが、こっちの方が抜群に良い。上巻はほんとにまだ若い時、それも今みたいにBLが氾濫してるというわけでもない時代にお手本は森茉莉くらいで、あとはTVドラマの「悪魔のようなあいつ」(主演ジュリー)にインスパイアされて最初は発表のあても無しに書かれた物ということですから、ほんとモデルが森茉莉のアランドロンからジュリーになって、舞台が芸能界になっただけの二次作品という感じです。

下巻の方は上巻で名前だけ何度か出てきた青年(主人公をライバル視している)が主役で、そのコンプレックスを持ってあがく姿がとても萌えですたw
ちゃんと最後は人間的にも成長するし、すごく丁寧で正直に書かれた同人誌って感じでした(この人の作品て何読んでも二次、同人誌って感じなんですよね。だから読み手としてはあまり買えないんですがこれは中身が良かった、というよりキャラが気に入ったのでそのキャラに萌えて、という正しい同人誌の読み方だw)。

○「真夜中の天使」
翼あるもの上巻と同じ名前の主人公(設定も大体同じで、作者はこの自キャラに萌えてるらしい)ですがちょっと舞台が違う話。
これは、まーどーでもいいねw
魔性の美青年が芸能界で回りの人間を操って(というより回りが勝手に)どーの。
この作者はほとんど「話を作る」ってことが出来ないようでひたすら美青年の魅力頼りで進めるだけ、そのカリスマらしい魅力も大抵の読者にはわからん代物です。本人は何もせずその賛美者達が延々彼は素晴らしい他にいないスペシャルだと言い続けるだけだからなあ(しかもおんなじようなことを何度も何度も書く)。ピカレスクにもなっとらんという。
美青年を争う二人の男の関係(片方はおぼっちゃんで理想家、片方は野心的で育ちも悪いけど立派な物に対する畏敬芯はあって、だから相手の男の事も好きで認めてはいる。おぼっちゃんの方はそういうことをわかってない)だけちょっと面白かったです。

○「朝日のあたる家」
翼あるもの下巻のその後ストーリー。
私の好きな下巻の主役がまた主役なのでこれは楽しく読みました。
話とかはなかなか少女マンガでもあり得ないですけどw
主役の、本人も力のない人間なのに、それ以上に何も出来ない恋人を抱えて守るために強くなろうとしていく姿や、あまりにも優しいので他人の優しさにばかり敏感で自分がいい人間なことに気付かないというキャラ(でもそれをわかっている周りがいるという救いもいい)などがいいです。
…33才の男なのに定職無いとか(元アイドルスターで落ちぶれてジゴロだったって設定だし)恋人も30過ぎの男だとか現実的に考えたら「そらあかんやろ」って話ですが、結局作者のファンタジーなんでそこらは突っ込んでもしゃーないねぇいうことで。
キャラのモノローグや対話を通して伝わってくる作者の「ほんとう」がある、それが読みどころですね。

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どうでもいい追記

なんで急に古い栗本本に興味湧いたかというと、最近某所でジュリーさん(栗本氏の萌えてる自キャラのモデル、もちろんルックスとスターっていうところだけ)が結構人気あって話題になってるからなんですね。
少し前の阿久悠氏のご不幸の時にテレビに映ったりなさったことから若い層に興味が持たれ、ニコ動などに昔の画像がアップされてますます…という流れのようです。よう知らんけどw
私はタイガース時代は「シーサイドバウンド」「シーシーシー」がコーラスが綺麗でちょっと好き、後は洋楽に向かってしまって、ジュリーのソロ時代は曲はまあいいけど衣装とか「何あれwww」くらいな感じでした(だってマークボランとかイギーとかボウイとかの「本物」を先に見てたらねえ)。
映画「ヒルコ」の稗田先生役はいい感じでしたけど。

でも今若い人たちが昔の画像を見て「サリー×ジュリー萌え!」とか「ジュリーとショーケンがヨーロッパ行った時夫婦って言われたって!」などと喜んでいるのを見ると、BeatlesのLJなどでやっぱり若い人たちが「Paul可愛い!女の子みたい!」とか「JohnとPaul二人でパリに行った時何があったの??」などと騒いでいるのと同じ感じで、現在のご本人達が50,60歳とかいうことはまた別、日本の腐社会もそういう成熟を見せて来たなあとしみじみするのでしたw

タイガース時代のアイドル映画も何枚かDVDで出ているようで、自分にもうちょっと萌えがあればBeatlesのアイドル映画と同じように楽しめる(ある意味でw)だろうになあとちょっと残念。
あと、栗本氏の小説の、私の好きなキャラのモデルはタイガースのトッポという人らしいんですけど、ようつべのビデオを見ても「ロシアとの混血かと思われるような色白の美貌」のモデルとは思えないので(あっ)それは設定とかシチュの話でルックス的には木原敏江先生の摩利あたりをイメージしておけばいいのかw
某所で「ショーケンも入ってる?」という声もありましたがショーケンさんに詳しくないのでようわからんです^^;
北コウジ(元フォーリーブスの人)の名前を見て、ちょっとこの人も入ってる?とか思いました。まあじゃにさんのどうのこうのでの連想ってだけですがw
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●お菓子とわたし by 森村桂
得意の手作りケーキ、ヨーロッパの有名なお店のケーキ、どの話も美味しそうで読むたびによだれが落ちそうだけれど、最後のお父さんの思い出のケーキの話が特に素敵。森村さんのケーキの話は他にも沢山あるけど、この話が一番好きだ。一度軽井沢のアリスの丘に行ってみたいと思いつつ十数年経ってしまったかなあ…。
 森村桂さんは09/27/04に永眠なさいました;_;(64才)

●折鶴の殺意 by 佐野洋
ミステリのマンネリ化を嫌う佐野洋はお決まりのシリーズ探偵を作らない。しかし連作で、単行本一冊分活躍してくれる探偵たちは大勢いる(「密会の宿」シリーズは例外的に5冊ほどある)。どの主人公も地に足がついた実際にいそうな人々で職業も様々。キャラクタも、ステレオタイプに上っ面だけをなぞっただけではなく、かといってその「探偵」のファンになってしまうようなマニアっぽさもなく、その絶妙な距離感が心地よい。
沢山あるシリーズ連作の中でこの「折鶴の殺意」が一番再読が多くなるのはその中の一編に出てくる「鶴のてんぷら」(出てくる料理屋の名物で海苔と湯葉を折鶴状に折って揚げたもの)が食欲をそそるせいかもしれない。

●悲しい色やねん by 小林信彦
小林信彦の作品は本や映画に関するコラムとか、唐獅子シリーズのようなギャグ小説とか喜劇人の研究などいろんなジャンルがあって、どれも好きだ。文章の息というか間というか、それが自分とよく合うので、あまり興味のない事柄でも読んでいて気持ちがよい。この作品はいわゆる「業界人」を主役にした半分私小説のような物、とでもいうのだろうか。「ビートルズの優しい夜」や「袋小路の休日」などが同じ系統に入るのだろう。以前はオヨヨ大統領や神野推理シリーズ(これも業界人物でもある)をよく読んでいたが年を経るとこういう少ししっとりとした物を再読することが多くなった。また、本人も書いておられたがこの人が食べ物や食べる場面を書くと本当に美味しそうなのだ。家に食べる物が無い時には絶対読んではいかん、と注意しています。

●アンの婚約 by モンゴメリー
赤毛のアンシリーズ。アンの大学生活と、やっとギルバートと結ばれるまで。
新しい友人フィリッパが魅力的。美人で、お金持ちで、頭がいい。自分が美人なことは自覚しているけどアンの綺麗なところ(鼻の形!)もちゃんと誉めて羨ましがる可愛い女の子。欠点は優柔不断でボーイフレンドを一人に絞れないこと(?)。
マリラがひきとった双子の、やんちゃな男の子デイビーが可愛い。

●アンの愛の手紙 by モンゴメリー
婚約したアンがギルバートと一時離れて学校教師の生活を送り、その間に起きた出来事をギルバートへの手紙という形で綴った物。
アンに対立する町の有力者一族との戦いをメインに、いろいろな人々の生活を女性作家ならではの細かい観察で描いてます。やっぱり女性のキャラクターの方がよく描かれてますね。アンの下宿の二人の未亡人や、年取って偏屈になって自分の未婚の娘を家にしばりつけてるおばあさんとか、自己中心的でいつも自分がヒロインのつもりの若い女の子とか。でも一番印象的なのは、孤独で人嫌いの教師キャサリン。彼女がクリスマスにアンに招待されてしぶしぶ同行し、グリーンゲーブルズの自然や人々の素直な心に触れて素直に泣いてしまうところは一緒に泣いてしまう。

●聖者に救いあれ by ドナルド・E・ウエストレーク
私は基本的に「小説」というのが苦手なので(というのが理由になるかどうかよくわからないが)、ミステリでも場所になじみがないとあまり読まない。最近はテリトリーが多少広がったが昔は舞台が東京かニューヨークでないと読めなかった(これは映画も同じ)。今でも、本を選ぶときチェックするのは粗筋よりも舞台で、それがどこだかわからないような町とかだと二の足を踏んでしまう。この作品はその頃読んだ「ニューヨーク物」の一つである。とにかくマンハッタンのど真ん中だから文句のつけようがない。そこになんと小さな修道院があって世間知らずのブラザー達が中世さながらの暮らしをしているのだ。
この話はミステリとしてはフェアでないと思う。でもお話としては説得力がある。そして、全体にユーモアをもって書かれているので楽しく読めてしまう。必要にせまられて10年ぶりくらいに地下鉄に乗る主人公の困惑ぶりがおかしい。

●茶色の服の男 by アガサ・クリスティ
クリスティにはまって読んでいた頃は、イギリスの料理の実態というものを知らず名前だけで「ヨークシャー・プディング」とか「トライフル」とかに憧れていた。そしてお茶とお茶請けのお菓子。グルメ好みとしてはポアロの方が上なのだろうが、私はミス・マープルの田舎の素朴な食卓の方が読んでいて楽しかった。この「茶色の服の男」は、どちらのシリーズでもない単発物で、ハーレクインの元祖のような作品だが、元気のいい夢見がちなお嬢さん(お嬢様ではなく)が活躍する話というのが好きなのだ。後、大金持ちで鷹揚なサー・ユースタスのとぼけた日記もいい。神経質で几帳面な彼の秘書との確執も笑える。

●黒後家蜘蛛の会1〜5 by アイザック・アシモフ
とにかく毎回の食べ物が〜。事件や推理なんかどうでもいいの〜。だってどれも文句なく面白いから。
舞台のレストランは一応イタリアンということだけど進取の気性に富んだシェフ(表には出て来ない)のおかげでいろんな料理が出てくる。料理に関しては保守的な作家のルービンの反応がおかしい。そして食べ物であれば何でもOKなホルステッドさん。給仕のヘンリーは他の人にわからないようにこっそりデザートのお代わりを置いてってあげたりするのよね。あー、ピーカン・パイ〜。

●「哀愁の町に霧が降るのだ」 by 椎名誠
椎名さんの説得に負けて何の意味もない(と思われる)男4人の下宿生活をする羽目になる司法試験を控えた木村晋介先生はいつのまにか疑似家族の「お母さん」に...苦労の末作ったカツ丼はホントに美味しそう〜。これを読むと絶対カツ丼を食べたくなる。

●「続あしながおじさん」 by ジーン・ウェブスター
活動的でポジティブ、しかもユーモアがあるお嬢様キャラというのは好みなのでこのヒロインのサリーも大好き。「最初の感激が薄れないうちに働かせると仕事が速いんだけど、中世の寺院をこつこつ作るような仕事には向かない」と言われるお兄さんの性格にはなんとなく親近感が^^;
孤児院の生活がだんだんと人間らしくなっていく過程がとっても素敵です。最初の「あしながおじさん」は本当の夢物語みたいな世界で、こっちも好きですが、続編の方は少々現実の苦みで味付けされていてそこが魅力。