1998年11月25日のくりけんのはまり音楽
ショスタコービッチ、ピアノ3重奏曲第2番、(と弦楽四重奏曲第10番)
今週はショスタコービッチの室内楽の作品にはまりました。ええっと実はその前にはマーラーの復活と6番、
その前にはブルックナーの5番にはまっていたのですが、マーラーはセーゲルスタムを聞いてみたい、ってことで
今回はパスで、(テンシュテットの6番は見事な熱演でした。6番はまりになったらいずれ。)ブルックナーは
ヴァントの5番は良いぞ、と言うことで、今年出たNDRとの新録聞いてから書いてみたいと言うことで、
今回はショスタコービッチです。
この2曲、とてもリズミカルなまるでダンスナンバーのような爽快な楽章がありまして、でも単純なノリノリ音楽で
なくって、この作曲者でよく見られるクールな闇のニュアンスを漂わせています。弦楽四重奏曲第10番の方は
キチガイ踊りのような第2楽章がミニマルミュージックのように頭がグルグルになってご機嫌です。
ピアノ三重奏曲第2番(Op.67)は友人の死を悼んで書いたもので、クラシックの世界では死を悼むときには良く
三重奏曲が書かれるようです。で、これの演奏旅行中に作曲者は今までの作品の大批判にあって
命が危なくなる訳ですが、(なんせスターリンの時代ですから。)その意味では作曲者が自由に書いた最後の
曲と言えるかもしれません。
今回聞いたのはアイザック・スターン、ヨー・ヨー・マ、エマニュエル・アックスの3人組によるものです。
(Sony, 30DC5181)この曲でもっとも好きなのは第1楽章開始早々のセロによるハーモニックスの歌です。
この美しい旋律がハーモニックスで奏でられているために、苦しげな、息も絶え絶えの、どこかこの世離れした
印象を与えます。ヴァイオリン、ピアノの順に徐々に音が低くなって加わった後のもっともセロの音が高く
なるところのほのかなエロティシズム!苦しいのだけど気持ちいい感じです。まるでハスキーな女の子の
よがり声というか。しかし、このディスクではヨー・ヨー・マの技術がうますぎてカウンタテナーの朗々とした
歌になっちゃってます。その点では他のディスク聞く方が多かったのですが、音そのものに安心して
浸るならこのディスクです。
第2楽章の血飛沫が飛び散るような、剣豪の切り結ぶような見事な掛け合いはすばらしいです。
この躍動感、正に超ハイテクニックなこのメンツならではのドライブ感で、ここを聞くのはこの演奏が一番です。
演奏することで精一杯でない早弾きの気持ちよさって、ハードロックのギターソロにも通じる感じです。
(まぁ、この曲そんなには速くないですけど。ロックな感覚はかえってバッハの方が味わえること多いです。)
第3楽章でしみじみと親友を思いだした後は奇怪な舞曲風の第4楽章です。第2主題は弦楽四重奏曲第8番
第2楽章でも使われていますが、吹きすさぶ嵐のようなあちらに比べてこの曲ではとぼけた魔物の様な
感じ(オリエンタルな美女の幻想でも良いですけど)でじんわり味わえます。このすっとぼけた奇怪な感じは
このディスクではピアノのアックスが良く出していて、その後も含めて凄く楽しいです。そして一通り盛り上がった
後のスターンのヴァイオリンの奏でる第1楽章第1主題の懐かしく響きわたること!そのまま曲は徐々に足音を
遠ざけていき、再びハーモニックスのほのかな響きの中で、今度は老人がかすれた声で昔を語るように
して終わっていくのです。
音の響きの多様さを楽しむ人には凄くお薦めの曲です。難曲は苦しそうに演奏してくれた方が良いという人には
このディスクは薦められませんが、逆に滑らかに流れてくれた方が好きな人にはお勧めです。
しかしショスタコの虚無感って「虚無王」(勝手に命名)チェリビダッケが演奏したら凄まじいことになりそうです。
9番は見かけたのですが、ショスタコの9番って曲が軽く、明るいことが、ものすごいブラックユーモア&ニヒルに
なっているわけで、チェリって知的なニヒリズムよりももっと空間的な・・・色即是空な世界を表していると思うので、
他のが、・・・例えば10番なんかがあったら凄そうですね。
弦楽四重奏曲第13番なんて極め付きの深淵を見るような音楽ですけれど室内楽は録音してないと思いますから。
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