糸と一緒に川にスイカを取りに行った伸子が、凄い勢いで駆け込んできた。
与四郎が叫ぶ。
「三浦が川に流されたっ!?」
「早く来て!中央校の甲斐君が助けに飛び込んだんだけど、この先に滝があるらしいの!」
「何ィ!?」
「ロープ持ってけ!」
「先生は!?」
「いそげっ!!」
慌てふためく部員達。
(糸さんっ!?)
掃除をしていた真琴にも言い知れない不安がこみ上げる。
糸は暗闇の中で思い出していた。
承太郎にプールに沈められた幼稚園の頃を。
兄に守られていることを承太郎にののしられた時を。
長い髪を切った自分を転校してしまった承太郎に見せつけられなかった事を。
ふと、息苦しくなって糸は目を開けた。
目の前には夢の中より成長した承太郎の顔。
しかも自分の口は承太郎の口でふさがれていた。
「!?」
糸は、思わず承太郎を突き飛ばす。
「なっ、なにすんだっ!?」
やっとの思いで声を出す。
「ひでぇな、俺達あの滝から落ちたんだよ。糸、なかなか息しねーし、人口呼吸をって・・・」
どうやら、本当に心配してくれていたらしい承太郎に、糸の顔が恥ずかしさでみるみる赤くなる。
辺りを見回せば、どうやら落ちて流された川の下流岸らしい。
さっき承太郎を突き飛ばした時には気付かなかったが、流された時にぶつけたのか、身体のあちこちがきしむ。
「わっ、わりィ!」
やっと自分の手荒い行為を素直に詫びる糸。
「あ、承太、腕ケガしてんじゃん」
「あー、平気だよこんなもん」
「ケガしたら誰だって痛いんだよっ!」
そう言いつつ、糸は承太郎の傷にハンカチを巻き付ける。
「あのさ、糸?」
「ん?」
「俺、お前が好きでいじめてたんだ」
「実は今もそーかもしんない」
「??」
思いがけない告白に面食らったまま、承太郎をじっと見る糸。
その糸を同様にじっと見つめる承太郎。
川から上がったばかりで、びしょ濡れのTシャツからは下着がくっきり透けて、糸のしなやかな身体の線が垣間見える。
承太郎の知っている昔の幼い糸とは違う、女になりつつある糸がそこに居た。
傷を介抱してくれる糸の手をぎゅっと握り、思わず自分の方へ引き寄せる。
「!?」
何が起こったのか飲み込めない糸は、承太郎の胸に顔をぶつけてしまった。
そのまま、承太郎は糸を抱きしめる。
濡れたTシャツから糸の滑らかな肌の感触が伝わってくる。
その肌は、ほのかに温かみを取り戻そうとしていた。
「じ、承太っ!?」
顔を上げて、問い掛ける糸の息が顔にかかった瞬間、承太郎の理性が、飛んだ。
「・・・糸!」
糸の顔を両手で抑えて激しく口づける。
さっきと同じ場所に倒されながら、さっきの人工呼吸とは全く違う感情が、衝動が、そこには、あった。
「!!」
やっと自分に何が起こっているのか理解した糸は、必死に抵抗するが、
やはり男の力には敵わない。まして、打ち身のためか、体中が痛い。
糸の抵抗も敵わず、承太郎の唇は糸の唇に吸い付いたように離れない。
そして、承太郎の右手がTシャツの上から、糸の身体をなぞり、とうとうTシャツの中に忍び込んで来た。
(やだっ!)
糸の目にうっすらと涙が浮かぶ。
そんな糸に気付かずに、承太郎の手は下着をよけて、糸の胸を直にまさぐっていた。
そして、糸の乳首の位置をその指でじっくり確認すると、今度はズボンに手をかけた。
(ああっ!!)
糸が思った瞬間、
「大丈夫!?ふたりとも!?」
真琴の声だ!
慌てて承太郎が糸から離れる。
何もなかったかのように、ぐったりした糸を抱きかかえて、承太郎は答える。
「ああ、ふたりとも無事だから」
「糸さん?大丈夫??歩ける??」
「うん、まこ・・・・・・・」
涙の跡を見られないようにうつむいたまま、糸は真琴に支えられてゆっくりと合宿所に戻った。
自分に与えられた部屋でシャワーを浴びる糸。
身体のあちこちに、薄くアザが浮かんでいる。
だがそんなことよりも、今日自分に起こった出来事を整理することで精一杯だった。
(・・・・・承太郎があたしを?)
もう何もかもよくわからなくなって、熱いシャワーを浴び続けていると、
静かにシャワー室のドアが開いた。
(・・・・・鍵、かけ忘れた?)
驚いて振り向くと、真琴が立っていた。いや、ウイッグを外しているし、胸も無い。
「真琴?」
「糸さん、本当に大丈夫?」
さっきとは違う、ちょっと低い男の声。真の声だ。
真は自分のTシャツが濡れるのも気にせずに、糸を抱きしめる。
もちろん、糸は何も身に付けていない。
Tシャツ1枚を隔てただけで、真の体温を感じた瞬間、糸の目から涙が溢れた。
(-----見られてた-----?)
「・・・・・まこ、ごめん・・・・・」
おそるそる、真の背中に手を回す。
今にも壊れてしまいそうに微かに震える糸を、真は優しく強く抱きしめる。
「・・・・・守れなくてごめん・・・・・」
水音に消え入りそうな声。でも確かに聞こえた真の声に、糸の心は喜びで貫かれた。
幸せで糸の胸が痛くなる・・・・・。
狭いシャワー室の中で、ふたりはしばらくお互いを感じたまま抱き合っていた・・・・・。
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「糸さーん、真琴さーん、早く食べ行かないと自由時間終わっちゃうよー?」
ふたりと同室の美咲と伸子が夕食を終えて戻って来た。
・・・・・・さあ、シャワー室のふたり、これからどーする・・・・・・・??
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