すでに二回の放送が終わり、第三回目を迎えるに辺り、スタジオでまおは頬杖をついていた。
反対側の手で机の上でくりくりと人差し指を回す。
「ねーまじー」
無論彼女の真後ろには常に待機している姿がある。
長身痩躯の眼鏡男、マジェスト=スマート。
「なんでしょうか」
最近まじーなんて言われても訂正しようとしない程彼も諦めてしまっていた。
「私にCMの依頼ってないの?ぜんせかいのひとにあいされるそんざいなんでしょ?」
まだ前回のマジェスト=スマートの物言いを根に持っているのか、ジト目で睨み付けながら言う。
マジェストはすました顔で、眼鏡をきらりんと光らせる。
「ありません」
「え゛」
即答されてまおは目を丸くした。
驚きかも知れないし、そうでないかも知れない。
「あるわけないでしょう、魔王陛下。恐れながら、このラジオ番組がどれだけの人に偏愛されていると思っているのですか」
「偏愛はあまりにも酷くない?読者リスナーに失礼だよ」
うむ、とマジェストも頷く。
「その通りです、陛下。失礼いたしました」
だが彼の眼鏡は光ったままだ。
「ですが魔王陛下。既に二回目を過ぎているんですが、読者リスナーからのおたよりが来ないんです」
そう言って、スタジオの端に置いたおたよりばこを振り、逆さまにする。
埃すら出ない。新品そのもの。
「こんな状態で、CF出演の依頼なんか有る訳ないでしょう!」
がびーん
「……なんで小さいんですか」
「いめーじこわれるから」
既に棒読みもーどに入って、まおはテーブルの上でいじけ始める。
「第一陛下、人間の商品のテレビCFなんかに出演して、有名になってどうするんですか。魔王が知れ渡ってどうするつもりなんですか」
「でもまじー」
ぴょこん、と触覚が揺れた。
「このあいだのサッポロ温泉で、まおうって名前で予約してたのに誰も気づかなかったじゃん」
ぴしり、とマジェストの眼鏡に罅が入る。
「……まあ、陛下のお姿を見て魔王だと判る人間はいませんねぇ」
「でしょ」
何故そこで嬉しそうにする。
「判りました。……交渉してきましょう」
「え゛!本当?!」
そして、数日後。
「あなたの愛を、届けましょう」
バレンタインデーのチョコレート販促CFに彼女が出たらしい。
瞬間最大視聴率を叩き、彼女を捜して全世界中の人間が奔走したという。
でも、彼女の姿を見つけたモノはいなかった。
「まあ、当然ですね」
何故かマジェストは誇らしげだった。