ちょうどあのあと。
軍に戻ってから、パートナーの交代が正式に通達された。
「いや、今まで一緒だったから俺だってその方がいいけどさ」
互いに示し合わせたようにその後、食堂裏でばったりと顔をあわせて。
ナオは木に背を預け、キリエは彼の側で座り込んで。
「……なんだよ、ナオはそれで良いってみたいな感じかよ」
ぶすーとむくれて、そっぽを向いている。膝を抱えて、小さく丸まっている。
ナオはそれを見下ろしながら、どう言葉を継いでどう説得しようかと思案する。
「良い、というより仕方ないだろ。お前、ウィッシュの趣味で子供にされてるだろ」
ウィッシュの言葉では最低限度2歳、といった。彼らの歳では二つも下になれば体力が追いつかなくなる。
「俺につき合って訓練なんか無理だろ」
ナオはキリエの反応を窺っている。彼女は、何の反応もしない。
「……キリエ?」
反論するか激昂するか、どちらにしても落ち着くまでなだめれば終わると思ったんだが。
ゆっくり、彼女の背中に近づくように膝をついて。
「……キリエ」
膝に顔を埋めて、声なく泣いている事に気づいて、ナオはどうしていいか思いつかなくなった。予想外の展開だ。
「あ、あのさ」
「バカ」
涙混じりの声でいうキリエ。ナオはむ、と口をつぐんで、少しの間思案して、悩んで一呼吸おいてから彼女の背中に背をつけるような格好で腰を下ろす。
「バカはねーだろ」
「バカ」
右膝をたてて右腕を乗せ、左足はだらんと投げ出すような格好で座ったナオ。
ふっと背中の感覚が消えたと思った次の瞬間、どさっと体重が乗っかってくる感覚。
「バカ」
ぎゅっと首に巻き付いてくるキリエの腕。
「バカバカバカ」
「だから」
「一緒にいる時間が短くなっちまうだろーが」
頭の後ろから聞こえてくる声に、ナオは肩をすくめようとしてキリエの腕がじゃまな事に気づく。
「別にバラバラになる訳じゃないだろ」
「……今度、特務があったらどうするんだよ」
あー、うん、とナオはようやく少し飲み込める。
「俺、足引っ張ったってナオの側がいいんだ。絶対にイヤだっ、一緒がいいんだっ」
「何恥ずかしい事言ってるんだお前っ」
彼の腕を体重をかけて引っ張って、自分はそれを軸に身体を振って。
思いっきりナオの頭にフックをたたきつける。
「ふげぶっ!」
「ばかー♪くそ、何だよもうお前ー」
と、ものすごく上機嫌で半分気を失いかけているナオを引きずるように、お目当ての店へ向かう。
「こら、ちゃんと歩けよナオ、だらしないぞー♪」
がくがく。
完全に引きずられながら、ナオはそれでもたぶん後悔していなか……った、と思いたい。