Holocaust ――The borders――
Chapter:5
菜都美――Natsumi―― 第2話
櫨倉統合文化学院は、歴史の深い大学である。
私立ながら明治初期に創立された、由緒有る学校だ。
この辺りではその歴史もさることながら、学院の教育方針である『一学徒の礼節』を重んじる気風から名門校とされている。
尤も入試自体は差ほども難しくないため、付属高校から以外の進学者の方が多い。
今時珍しいタイプの大学だろう。
厳しい校則をもってこれを体現する付属高校から進学した学生は、逆に自由と感じるのだが、別の高校から来た人間はそうではない。
「おはよう」
春の日差しから初夏に変わろうというこの季節、大学生の服装はかなりラフになる。
暑くもなく寒くもない中途半端な気温では、着るものをよく考えなければ日差しで暑い、影で寒い羽目になる。
まだ電車の中は冷房も暖房もない季節ではあるものの、日差しの御陰で結構車内は暖かい。
「きゃん…真桜さん!いきなり背後から声をかけないでって言ってるじゃないのっ」
菜都美はTシャツにジャケットという極々カジュアルな格好だ。
ジャケットも薄手の春物、暑ければ脱いでしまえばいい。
「あはは、ごめんごめん。でもこの暖かい中でコートはないんじゃない?」
でも声をかけた友人はジャケット、その上からコートを羽織っている。コートの襟の上に横たわったポニーテールがマフラーのようだ。
彼女はどうどこから見ても周囲からも浮いている位厚着だ。
菜都美の非難に少し顔を赤らめると、眉を寄せて上目遣いに睨み付ける。
「いいえ。真桜さんは冬の寒さを侮りすぎ」
「いや、そのね。…もう春だし」
彼女は東北の進学校からわざわざこの大学にやってきたという。
確かに東北は寒いが、今はもう初夏と呼んでもおかしくない気温だ。
彼女の名前は立花ひなと言う。櫨倉学院国文学部で、同じサークルに所属している。
ちなみにサークルは『文芸部』である。
この学校の文芸部は読書をするよりも創作する方が主体であり、基本的に『創作のやり方』を一から教えてくれたりする。
ただ不思議なことに、顧問の教授は専門は物理学で経済学修士を修めたという、謎の多い人間だった。
本当に教授なのかどうかまで疑われているというが。
「ともかくおはようっ」
くるっと表情を明るくして、袖から何とかはみ出した指先をくるっと回して菜都美の顎に突き立てる。
「うん。…ねえ、ひなちゃん、やっぱり暑くない?」
え?というような顔で彼女は首を捻ると、先刻菜都美をついた指を自分の頬に突き立てる。
「…コート、脱いだ方が良い?」
「うん絶対」
即答すると渋々彼女はコートを脱いで、右腕にかける。
そしてため息をつくと肩をすくめる。
「はぁー。だから私は…ねえ真桜さん、うちらの学校って変なところ厳しくない?」
「へんなとこ?…うー、そうかなぁ。あたしは進学組だから」
進学組というのはエスカレータで付属校から来た連中を指して言う俗語だ。
勿論言われるまでもなくひなもそのことは知らない訳ではない。
「うん。…あのね、学生の自動二輪・原動機付き自転車禁止に加えて自動車通学禁止じゃない」
「敷地の問題で、別に珍しくなかったりするけど」
「少なくとも私は『所持・使用禁止』まで謳ってる大学初めてみたわよ?!」
ああ、と菜都美は頷く。
東北の山の中に実家がある彼女にとって自動車は必須。
自動車で興味のわいた人間が、そのままバイクに手を出すのも致し方のない事かも知れない。
実際彼女はこの間免許を取ったばかりである――尤も、校則の事を知ったのはその後だったのだが。
おおっぴらに買えないと嘆いていた。
「車で通学できないなんて。あー、だからこんな目に遭うんだわ」
ひなが愕然と背中を丸めて頭を垂れる。
「大げさな」
菜都美はため息をついて肩をすくめた。
ひなはちら、と横目で彼女の顔を見て肩を抱き寄せ――体型のせいで、しがみついたようにみえるが――顔を近づける。
「ね、この間ね、嘉多蔵山に行って来たのよ♪」
「え?この間って」
嘉多蔵山というのは彼女の地元に程なく近く、ここから行こうと思えば半日の距離。
泊まりがけで行くのでなければ結構な手間だ。
ただし有名な観光地で、冬にはスキー客でにぎわい、夏には登山客の訪れるスポットだ。
「ホント、ついこないだ」
「……ここんとこ顔出してなかったのはそう言うこと…」
きゃん、と嬉しそうに声を上げて顔を赤くするひな。
そこですかさず右手の人差し指を立てて横にしゃかしゃかと振る。
「もう、何想像してるんだか知らないけど、ツーリングに行って来たんだよぉ」
「彼氏とでしょ、どーせ」
ひゃー、と両手を自分の頬に当てるひな。
菜都美は彼女のこういうあっけらかんと明るい仕草には好感が持てる。
大げさな身振り手振りも、わざとなのか癖なのか、明るい表情には非常に似合う。
ただ少し真面目さに欠けるところのある態度に呆れる事も多い。
「まだ学校始まったばかりだってのに」
「ふぅん。お堅いのねー。…それでね、真桜さん。実はお誘いなのよ」
ひなは菜都美を解放して、顎を引いて上目で菜都美を見つめる。
菜都美は概して彼女のこの仕草が苦手だ。
彼女の妹ははっきり言って一度も姉に甘えようとする態度を見せたことがない。
そして治樹は治樹で冬実にべったりで姉に対しては睨み付けてくるだけだったのだが。
「…何の」
思わず一歩引いてしまう菜都美に不思議そうに首を傾げて、天井を見るような仕草でふんふんと数回頷く。
「いや、真桜さんの彼氏を見てみたいなって」
「ばっ…」
菜都美の顔に一気に血が昇って、ぼんっと音を立てたみたいに赤くなる。
「二組で〜、どっかにだぶるでーとぉぉ…おお?」
ひなは話しながら途中いきなり素っ頓狂な声を上げる。
菜都美はまだ顔に赤いものを残しながら、唐突に表情を変えた彼女の貌を見つめる。
「……なに」
「んとあと、ううん。…真桜さんって、彼氏いるんでしょ?」
菜都美の押し殺したような声に驚いたのか、それとも別の意味があるのか妙に慌てる。
そして確認するように続けた疑問に、菜都美は口ごもってしまう。
しばらく観察するようにそれを眺めていたひなだが、やがて何かを納得したのか頷く。
「やっぱり。噂通りだったのねー。見田さんの言ったとおり」
見田。菜都美の頭の中に、ちょっとつり目の女の子が浮かび上がる。
そして思いっきりため息をついてうなだれる。
「レーコちゃん?はぁああぁぁ、情報源はそこだったのねー。どぉりで」
見田玲子、高校時代の最も仲の良かった友人。
ゴシップ好きで、そのくせ自分はゴシップと縁遠い訳ではなかった女の子だ。
「カレシカレシーって言ったら反応が面白いって言ってた」
「あんたもそこまで言うかな」
思わず目を疑い深く細めて流し目を飛ばす。
きゃい、と相変わらず明るくそれを受け止めると、一転して少し真面目な表情を浮かべる。
「…で」
「で?」
菜都美が何もなかったみたいに本気で首を傾げるのを、哀しそうにさらに首を傾げて見るひな。
「……行かない?」
それこそ目に涙をためそうな位哀しそうに。
――……そこだけは本気だったのね……
菜都美は、ここまで迫られて断る事が出来る程人の道を外れている訳ではない。
何度も書くが、親姉妹の中でも同じような目に遭ったことはない。
思いっきり困った貌をして、それでも何をいう事も出来ずに。
結局。
「判った。判ったからそんな貌しないでよ…ね」
彼女がふう、とため息をつくと、ひなはくるりと顔色を変えてにこっと笑みを浮かべる。
そんなひなが何かを言おうと口を開く前に、びしっと人差し指を彼女の鼻先に突きつける。
声なく引いて、菜都美の人差し指を見つめるひな。
「でも待ってよ、何度も言うけど彼氏じゃないの。一応都合聞いてみるから、それまで答えは待ってよ」
「うんうんわかったわかったよ」
きゃいきゃい喜ぶひなの前で、菜都美は実隆へどう言おうか、なんて言って呼ぼうかと悩む事になった。
目的地は嘉多蔵山、嘉多蔵高原。
移動手段は――これは、免許を持たない二人を連れて、それぞれ分乗して車で行くことになっている。
彼女も、彼氏も残念ながらツーシーターのクーペモデルしか持っていないのだという。
――あんたら、似たもの同士だろう
というのは菜都美の意見。ちなみにそのことを非難すると、
――ん?私のセブンに乗る?後ろワンマイルシートだから死んじゃうよ
RX-7は基本2シーターで、エマージェンシーシートとも呼ばれるぎりぎり人の座れるシートのある4人乗りである。
犬すら参る、と冗談で呼ばれるシートであり、とてもここから嘉多蔵まで行くシートじゃない。
ちなみに彼氏はロードスターらしい。
一瞬トランク詰めという言葉が頭を過ぎったが、さすがに菜都美もそれは口にするのをはばかられた。
――それに二人でトランクに入れられても、ね…
自分の想像で顔を赤くして、無言で彼女は後頭部をかいた。
「んじゃそれで決まり。説得できたら電話して。一応、予定、今度の連休で良いかしら?」
「どうせもう行くつもりで勘定してるのね。良いわよ」
そう言って別れると、とりあえず自分の取っている講座に向かう。
何か色々あったはずなのに、何が有ったのかは良く覚えていなられなかった。
――浮かれ過ぎかなぁ……
講義を終えて帰宅途中、菜都美は自分の頭を押さえるようにして俯いていた。
――ノートは取ってたけど…試験前にきちんと勉強しておかないと……
朝のひなの話が気になって、授業には一切集中できなかった。
よくよく彼女の誘いを考えてみれば、ひなの彼氏も来て、デートする事になっているのだ。
朝は会話の手前応えた事にして断ってしまおうかとも思ったが、それだけなら講義の内容がすっぽ抜ける程悩む理由がない。
――全く……情けないやら……
結局実隆になんて言おうかとばかり考えていた。
半ば自己嫌悪に陥りながら、自宅の扉をくぐる。
「ただいまぁ」
「あらーお帰りなっちゃん。今日は私のごちそうよぉ」
ぱちくり。
「…どうしたの?」
「あ、いや、うん。…明美姉、今日はうちじゃなくて」
北倉家で夫と一緒に居るはず、だ。
昨晩そう言う話をしていた。
彼女の姉北倉明美は、言うまでもないが既婚で週一から二回程夫と住む家に帰る。
これは道場の休みと重ねているとかいないとか。
ともかく朝練自体は休まないのだが、それではあまりに夫(明美曰くヒロくん)が可愛そうだから、である。
尤もその提案も夫からの物らしいのだが…詳しくは語られていない。
「や、久し振り、菜都美ちゃん」
「お義兄さん……って事は」
つい、と明美を見上げるといつもの明るい笑い声を上げる明美。
「そ。久々に道場でヒロくんと練習しようと思ってね」
対して乾いた笑いを上げる北倉博人。心なしか顔が青ざめている。
「ヒロくん明日からお休みなんだって」
菜都美は心の中で合掌してうなだれた。
――ご愁傷様です、お義兄さん……
彼女の視線の意味に気がついたのか、博人は小さく頷いてそそくさと奥に姿を消す。
明美は菜都美が靴を脱ぐ側に膝をついて顔を寄せてくる。
「折角ヒロくんが来たんだし、ヒイラギくんを紹介したら?」
「な、何であたしに言うの、明美姉。自分でやったら?」
むきになって振り返り、叫ぶ菜都美。
無論、そこにはにやにや笑う明美がいる。
予想していた答えが返ってきた、という『してやったり』な顔。
「……な、何よ」
「ううん、面白いなーって。もうすぐ夕食は出来るけど、ヒイラギくんはまだ帰ってきてないからね」
ぽんと彼女の肩を叩き、そそくさと立ち去っていく明美に、呆気にとられたように何も言えずただため息をついた。
とりあえず自分の荷物を置くと、ふと思いついて風呂に入る事にする。
居間に顔を出すと、テレビのバラエティ番組の作り物の笑いが鳴り響く中、母と明美と博人が談笑している。
「お風呂、先はいるよ」
ひらひらと手を振る明美を見て風呂場へと急ぐ。
着替えを棚の上に置いて制服をハンガーで脱衣所に掛けると、さっさと裸になって風呂場に入る。
タイル張りの洗い場にホーローの浴槽ではあるが、普通の家庭の倍のサイズの風呂だ。
家族風呂並のサイズ、と言うべきか。夫婦と小さな子供が入る位のスペースはある。
何故か二人分の蛇口のある流しに座ると、蛇口を捻ってお湯を溜める。
――ふう……馬鹿馬鹿しい
二杯かぶってシャンプーを掌に溶いて泡立て、手櫛ですくうようにして髪を洗い始める。
そんなに長くない髪の毛だが、それでも丁寧に洗ってやらないと痛んでくる。
丁寧に洗う。一本一本指を通すようにしてしっかりと。
――艶が出る方がいいし。出来れば――!
違和感を感じて彼女は口を結んだ。
いつもなら気にもならないのに、今日は髪を洗うことにすら集中できない。
苛々、する。
――なんで、こんなにミノルのことを考えなきゃ行けないの
苛立って、一旦洗うのを中断してすすぐことにする。
どうせ丁寧に洗えないならやり直した方が良い、と――彼女はとりあえずシャワーでシャンプーを洗い流した。
「おかえりー、色男」
玄関で実隆は非常に困った顔をしていた。
時刻は既に六時を過ぎていて、真っ暗である。
玄関は暗い目の白熱電球の明かりで照らされているが、それでも明美の顔は白く映えて見える。
「明美さん。その『色男』って何ですか」
憮然とした表情で応える実隆に、明美はくすくす笑いで応える。
「すぐご飯にするから、そのまま食卓にいらっしゃい」
誘われるまま、彼女の後について食卓に向かう。
「……あ」
声には出したが――それ以上、形にならない。
実隆の視界の中に見たことのない――でも大体想像のついている――男と、一人顔を真っ赤にした菜都美がいた。
「じゃあ紹介するね、ヒロくん。こちら、ヒイラギミノルくん。こないだから下宿してる子」
先に食卓の入り口をくぐった明美が言う。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「ヒイラギくん、あのヒトは私の大切なヒロくん」
何の躊躇いもなく言い切ると、紹介をそれでうち切ろうとする。
「おいおい…北倉博人だ。職業はアドミニストレイターって奴。判るかな」
「ええ、あの、企業のネットワークを管理してるとかいう、あれですね」
「さあさ、話してないでまず座って。食事するわよ」
母親に仕切られる形で実隆も席に着き、一人多いにぎやかな食事が始まった。
「…菜都美、お前、大丈夫?」
彼女は実隆の言葉に僅かに顔を引きつらせる。
よく見れば顔は赤いが、妙に不機嫌そうな顔つきをしている。
「なによ。…のぼせたのよ、風呂で。大丈夫よ」
不覚だった。
声をかけられただけでまず苛々を思い出して、刺々しく応えてしまう。
のぼせるまで入っていたのは、さんざん髪の毛を洗い直して湯船に浸かりなおしたからだ。
その理由は、しつこく思考を妨害する実隆のせいだ。
――そうだ、ミノルが悪い…ん、だ
何故実隆が思考を妨害していたのか。
彼女は苛々した表情から、ふと険がなくなるとついっと視線を実隆に向けた。
実隆は黙々と食事を続けている。いつもと変わらない。
――?
ふと視線をそのまま横に向ける。
義兄さんの博人の向かいに座った明美――彼女がにやにやを通り越したにたにたという下卑た笑みを浮かべている。
――楽しんでる…明美姉……
左隣に座る冬実は相変わらずただ黙々と食事をし、その向かいの実隆は菜都美を挟んで右隣に座る義兄と話をしている。
真正面の母親が、気づくはずもなく。
にたにたが菜都美を見つめている。
『どぉしたのぉ〜?』
いつもよりも少しエコーがかかって、邪悪な響きでそう聞いてきているような気がする。
勿論気がするだけで、本当はそんな事はないのに。
がたん!
一瞬その場が凍り付く。
「ごちそうさま」
「あ、菜都美…」
母親の言葉も聞かず、彼女は食卓を背にどかどかと歩み去っていった。
「なんだ、あいつ。調子悪そうだな」
もくもくと気にせず夕食を続ける実隆に、一瞬冷ややかに視線を突き刺して再び自分の残りに箸を付ける冬実。
「……明美姉さん、残酷です」
とりあえず滞りなく夕食は終わった。
「あとで、謝っておきなさいね」
ぽんぽんと肩を叩かれて、目を丸くする実隆。
「え?」
何が、どうして俺が。
実隆の顔に書かれている文字を無視して、そのまま明美は博人に笑いかける。
何が起こっているのかなど、実隆に理解できるはずもなかった。
客人が一人増えようと二人増えようとさしたる差のない真桜の屋敷。
『私の部屋で一緒にって訳にもいかないかな?』
と言いながら、奥の客間にあてがった博人の部屋に明美は一緒に歩いていった。
食卓を離れる時、一瞬冬実と視線が合ったが、彼女も無言で視線を逸らせて自分の食事に取りかかった。
今日はやけに時間がかかっている。どうやら何か苦手な料理なのかも知れない。
――しかし、謝れっつーたって、なぁ……
明美が彼に、『なっちゃんに謝っておいて』というのはいつものこと。
酷い時には全く関係ない時にまで言うこともある。
なので、あまり気にしないことにした。
とりあえず菜都美の部屋に向かう。
あまり踏み込まない――それはそうだ、二階の部屋の全てが彼女たちの部屋だから――階段を登り、すぐの部屋。
少し傾いた『NATSUMI』の看板を避けて、ノックする。
「はい?」
くぐもった声が聞こえて、扉が開く。
「…何」
顔が見えた瞬間扉を開けるのを止めて、静かに睨み付けてくる。
「あ、いや。何か気分悪そうだっ」
がたん
全て言い終える前に扉が閉まる。
「もう大丈夫、ちょっと忙しいから」
有無を言わせず返答が帰ってきて、そのまま扉から離れていく気配。
――……俺、何しに来たんだろう
後頭部をかいて、複雑な表情を浮かべると彼は再び階段を下りていった。
部屋から遠ざかっていく足音を聞いて、安堵のため息をついて机に突っ伏す菜都美。
――はあぁ…なんて答えよう。ひな、がっかりするだろうし……
草臥れたみたいに思いっきりため息をついて脱力する。
また甘えられるような声で泣かれても困る。
――いっその事ひなに直接…
まて。何を考えているんだ。そもそも明美が余計な事をしたから。
いやいや、他人のせいにしたって仕方がないだろう。
果てしない自己嫌悪と思考の泥沼に陥りながら、その夜は更けていった。
◇次回予告
帰りの遅い実隆に、とうとう腹を立てる菜都美。
「冬実が帰ってこないの。電話してみたんだけど学校はもうとっくに出たって」
明美と一緒に冬実を捜しに出る最中、初めて言葉にする素直な気持ち。
「そう?彼…必死だと思うわよ。自分の居場所を探して居るんだから」
Holocaust Chapter 6: 菜都美 第3話
今は何を行っても無駄。実隆は、あたしのことを何も見ていない
転落――覚醒
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