Winged-White 【Silent Wishes】 Notes
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 鶴を折った。

 お詫びとか言う以前に、折らなければもう、自分の気持ちの整理がつかなかったのだ。 卒業校への帰属意識なんぞ、とっくの昔になくなってたハズだが……。

■ ……痛い

 で、今の率直な感想は――イタイ

 両手の人差し指と親指が今も真っ赤っかだ。 腫れの真ん中には、ご丁寧に水疱までできている。

 「アカン、僕も折らな……」
 夜中の0時に、ふと買い置きしてた300枚の折り紙を思い出した。

 ちょっと時間的なことを整理しておくと――
午前0時:  「(300羽なら……5時間か。フッ、軽いぜ)」
 しかし……それは小4の時の最高速度、〔1分ジャスト/1羽〕を基にした、甘すぎる予測だった。  実際は2倍以上の10時間半かかった。(老化か?)

午前11時:  『そーですね、糸は通していただいた方が……』
 大学に電話すると、こんなご希望が。
「(現場での手間は少ないほうがいいな。 ま、30分といったところか)」
 母と二人で綴り作業開始。 しかし、作業が終わったのは午後2時。 なんと3時間(=延べ6時間)かかっていた。

午後3時半頃: ようやく大学に着き、お渡しできた。


 別に指の腫れ具合やかかった時間を褒めてほしいワケじゃない。  それどころか、ことごとく作業時間の予想が甘かったということは、僕もそれだけ鶴を折るという作業を軽視していたということだ。  とにかく僕の場合は、300羽で延べ16時間半かかり、指はガタガタになった。

 そんな折鶴を――「14万羽も焼いた」というのは、素直に、呆れる。
 単に労力の面だけでも、途方もない時間や手間が注ぎ込まれているのだ。


■ 何を思ったか?

 さて、ちゃんと一羽一羽、僕なりの気持ちをきちんと込められたかどうかは、ハッキリ言って自信が無い。
「こんなに長い時間折り紙に没頭できるって、平和ってことだよな」
 とか考えてみたり、
 TVニュースをかけながら、
「あのぅ、最近のコレ、どー思います? 昔からは想像もできんスよねー」
 などと、およそ原爆には関係ないことを想像上の被爆者に質問してたり、
 果ては、
「うー指痛て。 いや、こんな痛さ、比じゃないっスよね!?」
 とか――
 まったく、不謹慎なほどイイカゲンだったかもしれない。


■ 気持ち、か

 でも、その10時間半――残りの折り紙が少なくなるにつれて確信したことは、これは全く数などではない、気持ちだ、ということ。  仮に僕が何万羽折ったところで――おばあちゃんが亡き人々を想いつつ、日々語りかけるように折った365日分の鶴や、原爆や戦争の酷さを教えるにはまだ忍びないような幼な子が、無垢な心でやっと一羽完成させた鶴の代わりには、決してならない。

 「何万羽焼かれた」「何羽折った」「何万羽集まった」
 こういう数字の次元を遙かに超越し、作った方一人一人の尊厳に関わる非常に崇高な次元のもので、文字通りかけがえの無いものなのだ。

 「お詫び」として見た時、自分の鶴はどこまでも無力だった。

 やっとこ折り終え、鶴を綴っていた正午頃―― 父が文房具屋で、老夫婦が相当数の折り紙を買うシーンに出くわしていたという。 聞いてみると、やはりあの放火事件に心を痛め、「千羽鶴を折る」とのことだったそうだ。 さすがにこの老夫婦の千羽鶴は、明日のその時には間に合わないだろう。 しかし、もはやそういう問題ではない。 彼らは数や時間ではなく、止むに止まれぬ痛切な心そのもので行動していたのだ。


■ ライター1つで

 犯人については、どうやって理解していいか今も分からない。
 友達と広島に遊びに行って?
 就職が決まらずムシャクシャして?
 で、なんでまた折鶴なん? ゴメン、全然わかんないぞ。
 政治的確信犯の方が、まだ同情の余地がある。
 (※ アレレ? 「留年が決まって」、か? 悪かったな、僕はそこで2留したんだが(笑)。 ところで……、友人二人は一体なんだったんだ?)


 ちぃとは考えてくれ。
 本当に、どれだけ多くの人々の心を踏みにじった行為だったか。

 そして半世紀前の広島でも――心どころか人の命、肉体、生活――人間の尊厳すべてが、どれだけ無残に踏みにじられたことか。 就職どころの話じゃないんだぞ? 鼻歌唄いながら洗い物してた母ちゃんが、一瞬後には幽鬼のようにただれた手を差し出して、頭から川に突っ込んで死ぬんだぞ?
 そんなことを全部、

 ライター1つで背負う自信があるのかよ!?

 いや……さっぱりワカランまま彼を責めてても仕方が無いな。
 ただ、本当に焼き捨てるべきは――自分自身の中にあったんじゃないかな。
 なんとなくだけど、そう思う。 きっちり反省してください。


 ともあれ、広島の願いがたった一人やそこらの狼藉で曇ることなど、今後ともありえない。
 永遠に、1945年8月6日の地獄絵を、折鶴へと昇華していく。
 一羽一羽折りこめられた願いが、黙して語らぬ亡き魂をやすらけく広島の地に還らせ、また遙かな天へと運んでゆく。
 決して言葉では語りきれない、人々の静かなる祈りを、抱きつつ。


 平和を。 平和を。




■ ……と、ここで終われば中途半端な偽善者だな

 大学の「宗教センター」では、今もまだ折鶴の綴り作業が続いているかもしれない。
 先に書いたとおり、これもかなり労を要する作業だ。
 今日の正午の時点で20万羽というから、そのうちどの程度が未綴のものか見当もつかないが、膨大な作業に違いない。
 (※ 最終的には120万羽が届いたという。 2003/09・母校通信112号より)

 「お詫び」とは言え……
 学生有志の皆さん、あまりご無理をしないようにね。
 少なくとも苦痛を感じない範囲で作業をしてほしい。 折鶴を託した人は、誰も「善意の押しつけ」をしようとは思っていないだろうから。

 来年に持ち越してもいいことだし、そのスペースも無けりゃ――
 少なくとも僕のは、処分してくれてもかまわない。
 (↑これで、完璧な偽善者か???)

 もっとゆっくり折りたいものだし……また折るよ。
 また折るよ。


※ 8/6の式典での平和宣言では、「時代はまさに、戦後から戦前へ大きく舵を切っている」という非常に厳しい指摘がなされていた。 僕もこのサイト内で、ややもすれば好戦的な態度を取っている箇所がある。 自分の常識内で書いているつもりだが、死神はそういう所にいそいそと近づいてくる。 反省しなくては。 心せねば。
 しかし……前にも言ったはずだが、(自衛隊派遣関連で)「それは見解の相違――」と言い捨てるのは、被爆国の元首に相応しい態度だとは思えない。


(2003/08/05-06) 戻る

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