Winged-White 【電源を、切ろう】 Notes
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 電車に乗る時、ケータイの電源は切るように努めている――努めているだけなのだ。
 実際は、切り忘れていることも多い。

 当然、ペースメーカーの使用者への迷惑のみを考えて、切ろうとしているのだが……。
■ 『慣れ』と『苦情』の違和感

 ――現在では通話の声など、大方の人はもう意に介さなくなったはずだ。それほど携帯電話は普及した。聞く側も耳慣れたし、話す側も小声で喋るのに慣れてきた。
 電鉄会社が受ける苦情の多くは、未だによほどの大声で電話する困った人か、それを聞いた少し神経過敏な人か、どちらかの問題に過ぎないだろう。

 だが、ケータイ苦情の何割かは、実際にペースメーカーを使用している人からのものだそうだ。
 たまに、『ペースメーカーをダシにして、ケータイの苦情を減らそうとしているのでは?』と、うがった見方をする人もいるが、これは違う。
 少なくとも両者を20cmは離す必要がある、とのこと。車内が混雑していなければ、それほど画一的に電源を消す必要は、ないのかもしれない。
 しかしながら、当然の優先順位から言えば、ケータイ使用者の連絡可能時間の拡大より、ペースメーカー使用者の健康、行動範囲の維持の方が、大事だ。

■ 現状と、僕自身の現状

 しかし、ペースメーカーの使用者は傍にいない、と判断してだろうか――ほとんどの人が電源を切っていないように見受ける。平気でメールを打ったりしている。

 確かに、ケータイ使用者が、ペースメーカー使用者の乗る電車に同乗する確率は、非常に小さいかもしれない。だが一方、ペースメーカー使用者が、ケータイ使用者の乗る電車に同乗する確率は、ほぼ100%だとしか思えない。

 極端な話、僕は殺人犯にはなりたくない。バリアフリーの阻害者にもなりたくない。心無い多数者に迎合し、付和雷同するつもりなど、毛頭ない。
 『マナー』というより、自分の理屈において明確なことなのだ。


 だが、それにしては……なんともよく忘れる。

 情けない話だが、有言無実だ。
 口ではイイ事を言っておきながら、その実、容易に加害者になっている。
 言い訳だが……、労力と効果の結びつきが曖昧な善意は、脆い。

■ 危険な器具が売れつづける。

 NHKの「ためしてガッテン」で試していたが、病院の人工呼吸器も、受信しているケータイが近くにあると、止まってしまう。完全犯罪さえ企めそうなヤバさだ。

 人命を直接左右する医療器具とバッティングする、危険な器具が巷に出回っていて、予備知識もなしに僕等は平気で持っている。
 電源OFFを忘れる人のために、電車内や病院内では勝手に電源が切れる、というような、フェイル・セーフの概念も欠落している。
 反対に、ケータイの影響を受けないように、ペースメーカーをチューンナップする、というような試みも聞かない。

 やや現実的に、電車の車両をペースメーカー優先orケータイ優先車両に分けてみる、といった技術外のフォローも、少ない。
(――東急は、<ケータイの電源OFF/マナーモードで使用可>が、車両によって選べる。また、京王線は『シルバーシート付近でのケータイ使用不可』という、やや現実的なアナウンスをしている。このような取り組みは、他の電鉄会社も是非検討を願いたい。――2001/10/09)

 うやむやにしたまま、携帯電話は売れ続ける。通話やメール送受信、ウェブアクセスも、増え続ける。

■ 技術に比肩する、哲学を。

 こういう矛盾は、キライだ。
 多数者の暴力じゃないか。
 利便性・経済的利益を最優先した結果、一部の人々は危険な状態に晒されている。

 ケータイに対するメーカー・販売店・電話会社のモラルの低劣さは、危険なレーザー・ポインタを作って売りさばく行為と、さして変らない。
 どうにも、責任感が無さすぎると思う。

 そりゃ電話会社にとっては、電車の中だろうが何だろうが、使ってくれた方が儲かるに決まっている。ユーザー(←僕含む)の態度も、『売れれば良し』という風潮では、一向に好転しない。

 そして守られぬ非現実的マナーが、今日も脳天気にアナウンスされる。
「携帯電話は電源をお切りください……」
 ……本当に各人の良識に、依存し得る状況なのだろうか??
 このアナウンスは僕には役立っているが、電源を切るつもりのない人々にとっては、
『我々は一応注意しておきましたよ。後はあなたの責任で好き勝手にしてくださいね』
 という、社会的協調性の崩壊の暗示にしか、聞こえないんじゃないだろうか。何か違う部分の『電源』が、切れているようだ。


 ――携帯電話は非常に便利なシロモノだ。
 これなしでは次世代の経済社会も語れないだろう。
 だからこそ、メーカーには今一度商道徳と、優秀なテクノロジーに比肩するフィロソフィーを、再構築してほしい。
 そしてユーザーも、自制と他者へのいたわりをもって、楽しいケータイ文化……微笑ましい社会の発展に、寄与すべきだろう。
 もちろん僕も、より注意が必要だ。


 さもなくば――それまでの間、しばらく電源を切ろう。人間は技術ほどに高度化され得るとは、限らない。

(2001/09/26)

雑感2001/09/26

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