Winged-White 【インド連発】 その1〜5 インドX連発
◆インドとほほな旅話。 byA.Matsu!
  デリー〜カジュラホ
  (データは20世紀のものです。)
Taj でゴザイマ〜ス♪
連発index
その1.【靴磨き、走る】
その2.【バナナさえ……】
その3.【嘔吐的オートリクシャー】
その4.【戦慄のシャー=ジャハーン】
その5.【どーしてウルサイ?】
→その6〜10

その1.【靴磨き、走る】 1996/08・デリー

「旦那、何か靴についてやすぜ」
 足元を見ると牛のフンのようなモノが、横から投げつけられたようにベットリと付いていた。
「うわ、何だよコレ……」インドに来て初日の、出来事。

「ノォープロブレム!」
 ニカッと笑った彼は、マイ=テクニックを見ろと言って、脇に抱えた箱から自分の道具をいそいそと取り出して靴磨きの準備を始めた。おそるおそる値段を聞くと、
公衆トイレ「ベリーチーパル、50ルピー!

 ……多分、高いんだよなァ。値切ってみよ。
「マハンガハイ、マハンガハイ」
「……オッケーミスタル。2ルピー!

 あまりの落差についカッとなった。
「何やねんそれ、なめんのもエエカゲンにせえコラぁ!」
 踵を返し、足早にその場を去る。

 ぷんすかぴーと怒りながら歩いていて、ふと忌々しげに彼を振り返ると、彼は荷物を手早く片付け、オレめがけて駆け出そうとしていた―― うわ、やべぇ。オレも走って逃げる〜。
 その後……、道に迷った。


その2.【バナナさえ……】 1996/08・デリー

 靴磨きの大道商人から逃げて迷子になったものの、なんとか宿に戻ることができた。
 今度はメインバザールを探そうと出かけたのだが、なかなか辿り着けなかった。

 途中道売りのライム水を飲んだが、とてもマズイ。ヤムナー川の水でも汲んできたのかと思うほどマズかった。

 で、口直しにバナナを買った。はァ〜、バナナなら安心できるねェ。

これは髭剃り屋 「うぐぐっ」

 このバナナ、味がヘンだ!――売っていたおばちゃんは、ナイフでバナナに香辛料をすり込んでいた――。

……バナナまでマサラ味かいっっ!

(でもこれ、後で考えると、ちょっと珍しかったかも。)

その3.【嘔吐的オートリクシャー】 1996/08・デリー

 まだメインバザールは見つからない。しょうがない、リクシャーに頼るか……しかし、出くわしたオートリクシャーのドライバーは、とんでもないヤツだった。
 まず昨日メインバザールは爆弾テロで街中が火の海になったと言って(ウソ)、オススメのホテルに泊まれと勧める。言うとおりにしたら、オレは自分がデリーのどこにいるのかサッパリ分からなくなった。

 彼とは次第に仲良く(?)はなったものの、これがカネの上に成り立っているのは間違いない。彼は安食堂の支払いを全部持ったが、オレは高級レストランの支払いを全て任されることになってしまっていた。

 2日目、アグラ行きのバスも彼のオススメの旅行代理店で予約したが、あくる朝彼は送ってくれず、予約はフイになってしまった。
 3日3晩オートリクシャーに乗り続けていた。いい加減激しい排ガスと振動に気分が悪くなり、オマケに吐いて捨てるべきパーンを丸ごと飲み込んでしまったりもして、頭がヘロヘロになってしまっていた。


 その夜、ホテルに帰ってから、猛烈に嘔吐しつづけた。
 そして一つの木箱になって、オレは家に帰った。
 家族の誰かが持つその木箱の中で――

「ただいま」

 動かない白い骸骨のオレは、安らかにそうつぶやいた。


 ――そんな夢から醒めて、また吐いた。
 吐きながら考えた……アグラ行きのバスの予約変更にかかった料金(ドル払い)は――元々の予約料金(ルピー払い)の2倍以上じゃないか!!

 しかし、もうどうでもよかった。これで彼と縁を切れる。
 明朝、フラフラのまま、どうにかデリーを後にした。
 結局、メインバザールがどこにあるか、サッパリ分からなかった。


その4.【戦慄のシャー=ジャハーン】 1996/08・アグラ

 アグラに着き、とりあえず『地球の歩き方』イチオシっぽい宿に泊ることにした。

 しかし、なぜイチオシなのに、宿屋の主人は、宝石を新宿の兄に届けてくれと言うのだろう?
 だいたい、こんなスクラッチの多いストーンなんぞ(彼は『ジュエル』と言っていたが)、新宿で売れるかっつーんだ(研磨代だけでアカだ)。フッ、そんなの引っかかんないよ〜っと。

 ま、同じ宿にいた日本人と、久々に日本語で喋ることができ、ホッとした。が……。

 その一人が腹痛を訴えだした。

 宿の主人も「それは大変」とオートリクシャーを呼んで来た。
「君たちも行った方がいい。友達が心配だろう?」

 4人で押しかけた病院は、どうみてもホテルだった。病室となった部屋には、A/C(クーラー)も大画面カラーテレビもついている。浴室にソニーの湯沸し器まで(??でもホントにSONYって書いてた)ついている。

「ここに泊りたかったら泊ってもいい、タダで。ここにはA/Cもある。テレビもある。病院だから、マラリアの薬もタダで手に入る。それに……友達が心配だろう?

なんだか話がウマすぎる。一人が「そんなの絶対こっちの方がトクだよ!」と言い出す。残ったオレともう一人(マラリア君)は「どうしよう?」と決めかねたまま、ずるずるとついて行ってしまった。

「旅行保険証とパスポートを出してください」
 シク教徒の医者は、そう言ってきたが、なぜだか分からない。
君はマラリアの薬がいらないのかい?
 ……しぶしぶ出す。

点滴を受ける彼だが……  確かにいい部屋だった。横のベッドでは腹痛の彼に点滴が施されている。
 旅先での病気は心細いものだ。今日会ったばかりとはいえ、仲間がいることで少しでも彼が安心できるなら、やっぱりついて来て正解だったかもな。などと、彼の青ざめた顔を見て、自分自身を納得させていた。

 しかし――彼の病気は治らなかった。いや、違う。強引に治療は続けられた。 彼は点滴を5〜6本連続で受け、みるみる紅顔の美少年に変ってきている。
 4人全員の旅行保険もパスポートも返してくれないまま、夜が明け、昼になり――。

「アイッヴィーン・キュアァード!!!」
 とうとう彼は点滴の針を抜いて暴れだした。そりゃそうだ。点滴は全部デキストロース(ブドウ糖)、まさに文字通り、必要以上に血気盛んな状態になっている。
「あなたは病気よ、安静にしてください」
 南インド出身の出稼ぎ看護婦達が、どう見ても嘘っぱちの言葉で彼をなだめていた。

 しつこくフロントに電話し続け、何とか次の行動に入ることができた。

一人ずつ医務室に入れ、と言う。
 入ると、何人か腕組みして傍らに控えていた。デスクの向かい側にいるターバン姿の医者は、白紙にサインをしろ、と言う。

「いくらなんでもそれはできない、何か書いてくれ」と言うと、
「その分遅くなるが、いいのかね」と、また暴れだしたくなるような皮肉を返す。で、出てきた文面。

【私はこの人の治療にこれだけの額を使いました
 症状:下痢・腹痛・嘔吐・発熱・咳……7,xxxルピー】

 な、7000――!!!

「ノォープロブレム。旅行保険だ。君には請求されないよ」
「……てゆーか、サインしなけりゃ、それ返してくれないの?」
 周りはニヤニヤ笑っている。返して……くれそうにない。

 我々が解放されたのは、彼が腹痛を訴え始めてから、ちょうど24時間ほどたった後だった。
 腹痛の彼は、点滴を全部で10本ほど受けた。
 明くる朝、せめて爽やかな空気でも吸おうと思い、病院ホテルの屋上に昇ると、数百本のデキストロースの空き瓶が、所狭しと並んでいた。


 ――1995年に発刊された(僕が持っていった)『地球の歩き方』には、最初の宿「シャー=ジャハーン」は、アグラの宿のトップか2つ目に掲載されていた。1996年夏発刊の本(当時の最新刊)では削除されている。
 さらに1998年発刊分では、コラム『シャー=ジャハーンでの出来事』として、極悪ホテルの代表格になってしまった。

 念のため言っておくと、『地球の歩き方』の情報がいい加減だというわけではなく、それだけ現地の事情は変りやすいということだ。

その5.【どーしてウルサイ?】 1996/08・カジュラホ

 アグラで一緒にエライ目に合った一人、マラリア君と、カジュラホに行くことにした。
 カジュラホに着いたのは夜も更けた頃だったが、何十人という子どもが寄って来て、口々に宿への客引きを繰り返す。
 二人ともトラブルや喧騒にウンザリし、この地を選んで来たのに……。

「うるせぇ!!」
 ついにマラリア君が叫ぶと、

「なーんでウルサイ、どーしてウルサイ!?」
カジュラホの道  と返してきた。日本語で。
 思わず二人、顔を見合わせた。

「うるせぇからうるせぇんだ!!」
 と言いつつも、二人とも声は上づっていた。
「(……なんでそんな日本語を知ってるんだ……?)」
「(……さぁ、なんでだろ……)」
 一層イライラを募らせたのは言うまでもない。

 しかし、カジュラホは本当に穏やかなイイ所だった。オレは旅に出て初めて、安らいだ気持ちになれた――。
 宿泊客の我々を相手に、宿屋の兄弟がみやげ物の売り込みを始めるまでは。

  連発index   →その6〜10

Novelsへ インドX連発へ お遊びへ 数々のギモンへ Notesへ ゴッドリンクへ
© A.Matsu! 2001 Winged-Whiteのトップへ