「あ〜あ。ステキな恋人が欲しいなぁ」

ある晴れた昼下がり、本を読んでいたキールは、フィズのそんな台詞を聞いて、居辛い話題だなと思った。
場所は広間。
ちらとそっちの方を見てみると、会話の相手はナツミである。更に居辛いがここで不自然に立ち去ると、あとでフィズにからかわれることが見えている。
少し悩んで、キールは本に夢中で聞こえていない、というポーズをとることにした。

「恋人が欲しいって、そんな誰でもイイみたいなの、あたしは嫌だなぁ」

とナツミ。
ついキールが聞き耳をたててしまうのは、彼がナツミのことが気になっている以上仕方がないことだろう。

「そんな誰でもいいワケないじゃない。格好良くてステキな人じゃなきゃ」

と、フィズ。実に彼女らしいととるべきか、彼女らしくない抽象的な話だと取るべきか。

「同じことじゃん。あたしはそんなのやだよ。どうせなら恋人が欲しいっていうんじゃなくって、ちゃんと誰々が欲しいっていいたいなぁ」

一瞬、凄まじく問題がある表現のような気がしたが、自分はその方面には疎いということで、キールは気のせいだと思うことにした。

「それじゃあ、お姉ちゃんは誰か欲しい人いるの?」

「え?うーん……そうだねぇ」

これまで聞いていないふりを通してきたキールだが、流石に気になって、本からちらりと顔を上げる。 何故かナツミと目があったような気がして、慌てて本へと視線を落とした。
顔が熱い…ような気がする。

「キールかな」


慌てて顔を上げるまで、すこし時間がかかった。
ナツミと目が合う。
顔が熱い。


「それじゃ、邪魔者は退散するわね。ふたりともごゆっくり」

かたん、と椅子の音を残して、フィズが去る。
残されたのは、ふたりきり。


「……それで、キール。返事は?」
「へ…返事かい?」
「うん。これでも一世一代の大告白!のつもりだったんだけどなぁ」
「告白…?」

胸の鼓動が早い。頭がくらくらする。
さっきの言葉に。どう返事を返せというのだろうと少し悩む。
目の前には少し不安そうなナツミの顔。
滅多に見ないその表情にすこしどきりとして、そして少しだけ考えてから、キールは口を開いた。

「うん、僕も…」


SS

...another