「あ〜あ。ステキな恋人が欲しいなぁ」

ある晴れた昼下がり、ナツミは会話中のフィズのそんな台詞を聞いて、また始まったよ、と思った。
場所は広間。
机の反対側にはキール。きっと居辛いんだろうな〜、と不自然なまでに本に集中している様に見える彼に、心の中でご愁傷様と手を合わせた。

「恋人が欲しいって、そんな誰でもイイみたいなの、あたしは嫌だなぁ」

元の世界にいた頃から、同じ様なことを聞く度に思っていたことを口に出す。

「そんな誰でもいいワケないじゃない。格好良くてステキな人じゃなきゃ」

と、フィズ。彼女らしいとも思うが、どうやってその格好良くてステキな、ロクにわかんない相手を好きになるのよ?とも思う。それもまた、いつものこと。

「同じことじゃん。あたしはそんなのやだよ。どうせなら恋人が欲しいっていうんじゃなくって、ちゃんと誰々が欲しいっていいたいなぁ」

ちょっと問題がある表現のような気がするが、こういう言い回しがちょっと気がきいてるかも?という気がしないでもない。

「それじゃあ、お姉ちゃんは誰か欲しい人いるの?」

「え?うーん……そうだねぇ」

一瞬言葉に詰まる。
しまった。聞かれないはず無いのに。
なんとなーく好きなんだと思う、うん多分好きなんだと思う、
いやそーゆー意味じゃなかったら間違いなく好きなんだけど、
最近とりあえず、好き?ひょっそして好き?うわ好きなのかな?みたいな、
とりあえずその好き?な当のお相手がそこにいる場合、こういう質問はとっても困る。
少し焦って、その好き?なお相手を見てみたところ、なんとなく目があったような気がして、顔が熱い気がして、
なぜだか、よし言っちゃえ!と度胸が据わった。

「キールかな」


慌てた様子で顔を上げたキールと目が合う。
顔が熱い。
何も言えなくて、そしてキールも何も言わなかった。

「それじゃ、邪魔者は退散するわね。ふたりともごゆっくり」

かたん、と椅子の音を残して、フィズが去る。
残されたのは、ふたりきり。


「……それで、キール。返事は?」
「へ…返事かい?」
「うん。これでも一世一代の大告白!のつもりだったんだけどなぁ」
「告白…?」

胸の鼓動が早い。頭がくらくらする。
また続く沈黙にどきどきする。
早まったかな。気まずいな。どうなんだろう。どうしよう。
どきどきして、目をぎゅっとつぶって、下を向いて…
上から降ってきた言葉に驚いて顔を上げる。

「うん、僕も…」

SS

...another