ホワイト・ラヴ
いつのまにか、目に映る景色は白一色になっていた。
ふぅっっ、と白い息を吐いて、藤矢はいつのまにか自分を抜いて先を進むカシスを見た。 「カシス」 「なに??」 藤矢が掛けた声に、カシスはそのまま歩きながら振り返る。 「寒くないのかい?」 「そりゃ、寒いに決まってるじゃない。ずっと歩いてるから、大分暖かくなったけど」 「そうか」 藤矢はそう言うとカシスとの差を一気に縮めた。 ばさっ。 カシスの視界が一瞬暗くなる。 「うわっ!?な、何?」 「これなら寒くないだろ?」
すぐ側から聞こえて来た声に、カシスは自分の左隣を見た。 相合傘ならぬ相合マント状態だ。 が、当のカシスはそんなことに気付きもせず言葉を返す。 「ホントだ。あったかーい。あっ。でも、私が寒い中一生懸命歩いていたってのに、キミってばこんな暖かい思いしてたんだッ?」 「え?」 「……ずるい。ふくしうしてやる〜〜」 ぴと。 「わっ。ちょ、ちょっと、冷たいよ、カシスっ!」
いきなり良く冷えた手のひらを首筋に当てられた藤矢が抗議の声を上げた。 「ふふふ。問答無用〜♪」 と楽しそうに答えるカシスに藤矢は助けを求めようと、周囲を見渡した。
が。
こんな、如何見ても「ははは、こーいつぅvvv」(つん)並なバカップルに割って入ろうなどという気を爪の先ほども持たない仲間たちは誰も目を合わそうとしなかった。 藤矢はたった一人、目の合った仲間を呼ばわった。 「モナティ〜!!」 その声に応えて、ぽてぽてとレビットの少女が駆け寄ってくる。 「マスター、なんですの??」 たったそれだけの言葉の間にも、なんどもくしゃみをしている。 「うん、モナティ、寒いだろ?こっち入りなよ、あったかいから」
そう言って藤矢は、二人の間にモナティを招き入れた。 「あ、ほんとう〜。あったかいですの〜」 「暖かいよねぇ。藤矢ばっかりこんないい思いしてたのよぉ。ずるいよねえ?」
カシスは恨めしそうな声でモナティに声を掛ける。 「でも、マスターは優しいから入れてくれたですの〜」 嬉しそうに言うモナティが「はい」と両手を二人に向けた。 「「??」」 「手を繋ぐんですの〜。その方がもっと暖かくなるんですの〜」
にこにこと邪気のない顔で言われた二人は思わず出された手を握る。 そんな三人の姿は何処までも微笑ましい親子のようであった。
「おい」 「……何だ……?」 「カシスのあの格好が寒いって言うんなら俺たちはどうなんだよっ」
前方で繰り広げられるほのぼの親子なアットホーム風景を見ながら文句を言うガゼル。 「……そう、は言ってもなぁ……あのマン……トにワシらは入りきらな…………」 「うわぁぁっ、エドス、歩きながら寝るなぁッ!寝たら死ぬぞっ!!」
果たして彼らが、無事暖かいアジトへ辿り付いたのかどうかは……白一色に染まった雪山だけが知っている……。
<THE END> |