ホワイト・ラヴ
〜「雪山にて」パロディ.楠旭くま子嬢作〜

 

いつのまにか、目に映る景色は白一色になっていた。
山に足を踏み入れてから、まだそれほど時間はたっていないのだが、皆の足取りは降り積もっている雪に足を取られてか、非常に重いものであった。
まさか、雪山を登ることになるとは誰も考えておらず、皆一様に普段の恰好のままで、服の合わせをかき寄せたりして、どうにか寒さをしのいでいた。

ふぅっっ、と白い息を吐いて、藤矢はいつのまにか自分を抜いて先を進むカシスを見た。
幸い藤矢は普段から厚着のため、寒さはしのげていたが、目の前を歩く少女は、非常に寒そうな恰好をしていて、時折、寒そうに両手に息を吹きかけていた。

「カシス」

「なに??」

藤矢が掛けた声に、カシスはそのまま歩きながら振り返る。

「寒くないのかい?」

「そりゃ、寒いに決まってるじゃない。ずっと歩いてるから、大分暖かくなったけど」

「そうか」

藤矢はそう言うとカシスとの差を一気に縮めた。

ばさっ。

カシスの視界が一瞬暗くなる。

「うわっ!?な、何?」

「これなら寒くないだろ?」

すぐ側から聞こえて来た声に、カシスは自分の左隣を見た。
結構な近さに藤矢の顔がある。
そして、自分の右肩には藤矢のマントが掛けられている。

相合傘ならぬ相合マント状態だ。

が、当のカシスはそんなことに気付きもせず言葉を返す。

「ホントだ。あったかーい。あっ。でも、私が寒い中一生懸命歩いていたってのに、キミってばこんな暖かい思いしてたんだッ?」

「え?」

「……ずるい。ふくしうしてやる〜〜」

ぴと。

「わっ。ちょ、ちょっと、冷たいよ、カシスっ!」

いきなり良く冷えた手のひらを首筋に当てられた藤矢が抗議の声を上げた。
出来れば身体を退いて逃げたいのだが、そうするとカシスがマントから出てしまうので動くに動けない。
カシスはと言えば、左手を藤矢の首筋に当て、右手でしっかりマントの端を持って追い出されるのを防いでいる。

「ふふふ。問答無用〜♪」

と楽しそうに答えるカシスに藤矢は助けを求めようと、周囲を見渡した。

 

が。

こんな、如何見ても「ははは、こーいつぅvvv」(つん)並なバカップルに割って入ろうなどという気を爪の先ほども持たない仲間たちは誰も目を合わそうとしなかった。
たった一人を除いて。
その一人とて別に割って入る気はなく偶々目が合っただけだったのだろうが。

藤矢はたった一人、目の合った仲間を呼ばわった。

「モナティ〜!!」

その声に応えて、ぽてぽてとレビットの少女が駆け寄ってくる。

「マスター、なんですの??」

たったそれだけの言葉の間にも、なんどもくしゃみをしている。

「うん、モナティ、寒いだろ?こっち入りなよ、あったかいから」

そう言って藤矢は、二人の間にモナティを招き入れた。
それと同時に首筋にあった手のひらが離れる。

「あ、ほんとう〜。あったかいですの〜」

「暖かいよねぇ。藤矢ばっかりこんないい思いしてたのよぉ。ずるいよねえ?」

カシスは恨めしそうな声でモナティに声を掛ける。
が、モナティは何処までも素直な答えを返した。

「でも、マスターは優しいから入れてくれたですの〜」

嬉しそうに言うモナティが「はい」と両手を二人に向けた。

「「??」」

「手を繋ぐんですの〜。その方がもっと暖かくなるんですの〜」

にこにこと邪気のない顔で言われた二人は思わず出された手を握る。
そして二人顔を見合わせ……どちらともなく微笑み合う。

そんな三人の姿は何処までも微笑ましい親子のようであった。

 

 

 

 

 

 

「おい」

「……何だ……?」

「カシスのあの格好が寒いって言うんなら俺たちはどうなんだよっ」

前方で繰り広げられるほのぼの親子なアットホーム風景を見ながら文句を言うガゼル。
彼よりも更に寒い格好をしたエドスは永遠の眠りと葛藤しながら、言葉を返した。

「……そう、は言ってもなぁ……あのマン……トにワシらは入りきらな…………」

「うわぁぁっ、エドス、歩きながら寝るなぁッ!寝たら死ぬぞっ!!」

果たして彼らが、無事暖かいアジトへ辿り付いたのかどうかは……白一色に染まった雪山だけが知っている……。

 

 

 

<THE END>





友人の、楠旭くま子さんから、頂きました。
雪山話の、籐矢、カシス版です。
アリガタや(合掌)


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