「あ〜いい天気だなぁ〜」

なんて、ちょっと気の抜けたことを言いながら、大きく伸びをする。
今日もきのうと同じように、よく晴れていて、アルク川からふいてくる風は、やっぱりすこしだけ、アルサックの花の匂いがして、なんだか嬉しくなる。
辺りを見てみると、昨日あった仕切りは全部なくなっていて、昨日の大花見会場から、すっかり春の河原って感じになっていた。
それでも、やっぱりアルサックを見に来たのか、ちらほらと人の姿があった。
その中に、意外な人を見つけて、あたしはちょっとびっくりした。


「キール!!」

声を掛けると、おどろいたようにこっちを見た。
あたしが駆け出すと、立ち止まって待っていてくれた。


「…大声で呼ぶのはやめてくれないか?」

ちょっとだけ、いやそうな顔をして、キールはあたしにそう言った。


「あ、ごめんごめん。
外でキールを見かけたのって初めてだったから、ビックリしちゃって。
今日はどうしたの?こんなところで…」

そう聞いてみると、少し照れくさそうに顔をそらして、


「ああ、昨日はあまりきちんと花を見ることができなかったから……」

と、ちょっと言いにくそうに答えてくれた。


「ぷっ…くくく…あははははははははは」

ちょっとキールには悪かったかなって、あとで思ったけど、
(ひょっとしてキール、本気で真剣に花見て楽しもうと思ってたの?????)
って思ったら、思わず笑ってしまった。


「…なにか、おかしな事を言ったかい?」

ちょっと不機嫌そうなキールの声。
これ以上は、本気でわるいなと思って、無理矢理に笑いをひっこめた。


「ううん、ごめんごめん。
そういえば、あたしもまだ、アルサックはきちんと見ていないんだよね。
おとといは、遠くから見ただけだったし、
昨日はそれどころじゃなかったもんね」

そう言って上を見上げると、アルサックの花。
そしてすぐそこにも、一枝あって、そっと枝をつかんで、よくよく観察してみる。


「……やっぱり、桜とは違うんだね」

「…………サクラ?」

アルサックと向き合ってるあたしの背中から、不思議そうなキールの声。


「うん、あたしの世界の花。やっぱり春に咲いてね、
アルサックとよく似ててね、本当に、綺麗なんだよ
……でも、やっぱり違うね」

そう、やっぱり桜とアルサックはよく似ているけれど、花の形とか木とか…いろんなところが、ちょっとだけ違っていた。何よりも桜はこんなに強くて甘いいい匂いはしなかったよね……


「……ナツミ?」

あたしの背中に、またキールの声。
はっとして振り返る。少し長い間だまりこんでしまっていたみたいだ。


「どうかしたのかい?」

「ううん、なんでもない。ごめんね」

そう答えて、ちょっと笑った。


「それじゃあ、僕はもう帰るよ」

そう言ってキールはすたすたと、南スラムの方に歩き出す。もうとっくに夕方になっていて、かなりまぶしかった。


「あ、あたしも帰る。急がないと、もうリプレご飯作ってるかも」

「そうだな」

ちょっと小走りでキールに追いつくと、夕日がまぶしいのか、それとも不機嫌なのか、よくわからないような表情ををしていた。
それがなんだかおかしくて、また少し笑った。



SS

春に想う
後日談?です。