春に想う

吹き込む春風に顔を上げ、夏美は窓の外に目を向けた。

桜の花。咲く時を迎えたそれは、絢爛豪華に花開いて春の淡い青空を彩っている。

桜の木の側にはクラスメート達が楽しげに集まっていて、それを見て今日がクラスの花見の日であったことを思い出したものの、何だか降りていく気が起こらず、夏美はただ黙って桜の木と級友達を眺めていた。

桜に染まった風景、眼下の賑やかな花見の様子。
それを眺めていると、一番最近に行った花見のことが思い出された。
もう二度と彼らと花を眺めることもないのだと思うと、切なかった。

ふぅ、と溜息をついてまた級友達に目を移すと、そのなかの一人と目があった。
逸らすでもなく、ただ何となく眺める。
彼は…深崎籐矢は、どことなくあちらに残してきた彼に似ていた。
顔が似ている、とか言うわけでは無かったが、真面目なところ…たまに理屈っぽくも思えるその様子などが、なんとなくキールを思い出させて、懐かしかった。

ふぅ、ともう一度溜息をついて目を上げる。
再び目があった彼は、ちょっと迷ったようにしたあと、夏美に向かって軽く手招きをした。
彼らしくない、なんとなく可愛らしい仕草にちょっと笑って、夏美は身を翻し窓の側を離れた。声を張り上げて夏美を呼ぶ彼、というものも、おおよそ想像できないものではあったけれど。






桜を眺めながら騒ぐ級友達の中に。先程教室の窓辺に見つけた姿を見て、籐矢は少し表情を緩めた。
普段先頭に立って騒いでいた人物なだけに、見当たらないと不審に思って、常になく寂しげな姿をみると、少し気になった。
(なんで手招きなんてしたんだろう)
そう思うが、花見の場の隅にいる彼女を見たらほっとした。つまりはそういう事なのだろう。
ただ、誰とも言葉を交わすわけでもなく、隅でじっと桜の花を眺める彼女に近づき声を掛ける。

「橋本さん」

「……………」

「橋本さん、どうかしたのかい?」

「……ん? ああ……やっぱり桜だなぁって思って」

「…?そうだね」

「まったく……へーんなの」

一つ溜息をついて、くるりと振り向くと、怪訝そうな顔をした深崎籐矢が居た。
彼ににこりと笑って見せて
「さーてと、折角のお花見だし楽しまなきゃ損!だよね?まだ食べ物のこってるかなー」
と言うと、夏美は花見の席へと歩き出した。


SS


昔の話