「不知火先輩!」

「おう、どうした七海」

生徒会室の前で呼びとめられて振り向くと、先日入学してきた七海哉太の姿があった。
すたすたすたと歩み寄ってくると、

「あの、これ」

と、薄い紙に包まれたものを差し出した。
長い事、話す事もなかったので、確信は持てないが、いちいち動きが固いような気がする。

「ん?なんだ」

怪訝な顔をして受け取る。
丁度片手に載るくらいの、小さな包みだった。

「錫也が作ったクッキーっす。あいつ料理とかすっげー上手で、それむっちゃ美味いんで、よかったら」

「東月が?あいつ…いや…」

東月はこのクッキーが、自分の所に来るのを知っているのかと確認しそうになったが、やめておいた。
おそらく、知らないだろう。
錫也が自分のために何かをしてくれるとは考えられない。入学式で顔を合わせた際に、自分が赦されることは事はないのだと、そう感じた。
それは、哉太も同じ筈なのだが。

「…ありがとな。哉太」

笑って、会わないうちに、自分と同じくらいの高さになった頭に、ぽんと一瞬手を置く。

「いえ。…あの、誕生日おめでとうございます」

「ああ、覚えていてくれたのか。…本当に、ありがとな」

なぜ、自分にこれを。と一瞬思い、思い当たってまさかと思い、
少し赤い顔で自分に贈られた、まさかと思った祝福の言葉に、胸が熱くなる。

それから、また少しだけ言葉を交わして、別れ際、
生徒会室の扉を開いて、自分の胸をチクリと刺す棘を感じながら、告げる。

「でもな、次から東月の菓子はやめといてやってくれ。何というか…悪いだろ」

自分の言葉に少し顔を歪める七海を見て、そんな顔をさせてしまった罪悪感に自嘲の笑みを浮かべながら扉を閉めた。

どさりといつもの椅子に腰掛けて、包みを開いてクッキーをひとつ口に放り込む。
嬉しさと、胸の痛みとを感じながら、よくよく齧って味わってから飲み込んだ。


>>2:お誕生日準備中

SS