面白荘だより(8) 文=土岐浩之

  
マイビーチのきらめく夏の朝        流れ着いた貝殻?                   ゴーヤの梅肉白和え


            タコはカニが大好物

               カニはタコが好き

                 ぐうたら漁師はどっちも好き

                    やがてゴーヤの季節



 夏が近づくと海の色が変わる。光が変わる。刻一刻と表情を変える海、季節ごとにも
顔を変える。朝。キラキラと海面が輝いていると、ああ、きょうも暑くなりそうだ、と思う。
同時にその輝きは楽しさの予感でもある。潮もいい、風もない。舟を出そう。
ぐうたら漁師は、にわかに張り切って支度を始める。釣れようと釣れまいと気にすることはない。
透き通る海を眺めながら、海上散歩をするだけで心が晴れるのだ。海に出れば、何かと出会う
かも知れない。こうして、きょうも楽しい一日が始まる。こんな暮らしぶりを、悪友のO君は
『知的・快活・貧乏』の生活だと評した。

       ★カニでタコを捕る

最高の天気だ。
といっても、こういう日は日中は暑くて釣りにならない。早朝に釣ってすぐに帰るに限る。
ぐうたら漁師は久しぶりに笹舟を漕ぎ出した。
けれどもなぜか竿を持っていない。持っているのはバケツだけだ。

竿を持たなくても珍しくはないが、舟を真一文字に進めているところを見ると、目的があるのだ。
目的は、きのう沈めておいたカニ篭を回収することだ。

ゴムボートを出して竿を垂れている気の早い釣り人が居た。
まだキスには早いのに。
案の定何も釣れないと見えてじきに帰ってきた。

小さな目印を見つけて綱を引く。篭には餌の小ガニを入れておいた。
カニはタコの大好物。カニといっても、昨年捕った冷凍の蟹だ。
最近のタコは進んでいるから冷凍食品でも食べるのだろう。

水深わずか7,8メートル。
見えてきた。何か入っている。
おっ、タコだ。なんかデカいみたいだな。

ザバ〜ッと、篭を船に引き上げたら、何とタコが2匹入っていた。
やっぱりな、冷凍食品でもお好きらしい。

ぐうたら漁師は、きょうはカニ篭を引き上げる以外何もしならしい。
次にまた篭をつけるのかと見ていたが、どうやら餌も持ってきていないらしい。
やっぱりぐうたらだ。

そのまま家に帰ってしまった。

おそらく、これから1匹を、マジメな友人こと山幸彦さんの家に持って行くに違いない。
それで、また野菜を山ほどもらってくるのだ。まったくエビ鯛もいいところだ。
調子いいったらありゃあしない。

この餌となるカニを捕まえるのは面白い。
夏の終わりごろ、砂浜を歩いていると、足音を聞きつけて慌てて砂に潜るヤツがいる。
砂煙を目印にそ〜っと近づき、わずかに盛り上がった砂地を、素足で踏みつける。
足の裏でムズムズと動くのが分かる。くすぐったい。

手のひらを自分の足裏に潜らせて、そのムズムズを下から捕まえる。
地元ではコブシガニとか呼ぶ。ムクムクと砂煙を上げて潜るのでムクムクガニとも呼ぶ小さなカニだ。
体長はふつう縦4センチ、幅3,5センチほど。大きいものでもその倍ぐらい。

灰色がかった黄色で、大きくなるともう少しベージュに近い色になる。
そのころ浜辺に近づいてくるのは産卵のためらしく、お腹に鮮やかなオレンジ色の
卵を抱いているのもいる。甲羅の両端に鋭い突起があり、その形や色が似ているので
わたしは、ピカチュウガニと呼んでいる。

これは、包丁の背でぽんと割って、みそ汁に入れるといい出汁が出る。
けれども、わたしは冷凍しておいて、タコの餌にするのだ。

このカニ篭は面白い。タコやイカを餌にするとカニがかかる。
カニを餌にするとタコがかかる。
イカの餌では、ときに大きなハモがかかることもある。海の中の食物連鎖は不思議だ。

       ★貝殻のソネット

 Jさんへ。

浜辺を歩いていて、こんな貝殻を出会うことがあります。きれいでしょう?
大きさは、小さい方が幅9センチぐらい、大きい方は18センチぐらいあります。

 この貝殻は、どうやら、本当は貝殻ではなく、
 カイダコ(学名=アオイガイ)の殻らしいのです。

 『海辺の生きもの』(山と渓谷社刊・奥谷喬/編著)によると、カイダコは
 世界の温熱帯に棲み、一生を浮遊して暮らす不思議なタコ。
 殻をつくるのは雌で、扇状に広がった殻は腕の一部らしく、その中で
 卵を育てたりするようです。

  こうして殻が海岸に打ち上げられたということは、カイダコも
 どこかで一生を終えたのでしょう。

 去年のいまごろ、海岸を散歩していたら、この貝殻を拾いました。
 あまりに美しく、あまりに儚く、自然にこんなソネットが浮かびました。
 
 Jさんへ送るのは、少し恥ずかしいけれど、まあ、ご笑覧下さい。

  貝 殻  SONNET

 君は何処から来たの?
 穏やかな 南の島の 珊瑚礁
 純白の砂 エメラルドの海に育まれ
 君は大きくなった

 ゆらゆらと 波に漂い あてもなく
 さまよい出た
 砂に足跡も残すことなく
 ただ さまようばかりの一生

 君は何処へ行くの?
 寒い 北の海の 誰もいない渚
 鳴き砂が 風に吹かれ
 君はひとり 一生を終えた

 君は何処へ行ったの?
 砂に足跡も残すことなく
 君は人生を終えた
 ぬけ殻だけが ぽつり 残った
 
つたない詩だけれど、わたしに、こんなものを作らせてしまうほどマイビーチは美しい。

海は人を詩人にする・・・誰が言った言葉だったか? 多分わたしに違いない。
何より、こうしてたまに詩なんぞを創るのはボケ防止にはもってこいだ。

午後からまたキスを釣りに行った。夕食の分にキスを10匹程度。
あと小鯛が少し。小鯛はまだ、ホントに生まれたて。親指ほどしかない。
逃がしてやりたいが、釣り上げてしまうとすぐ死ぬから、食べてあげるのが一番。
やはり南蛮漬けにする。

この鯛が真夏になると手のひらぐらいになる。
秋にはもう少し大きくなって刺身や塩焼きサイズになる。

浜辺にはバーベキューセットを持ち込んでいる家族連れや、
お弁当持参でピクニックに来ている親子連れもいる。

ボートを引き上げようとすると、手伝いましょう・・・と言ってくれる。
『釣れました?』
『いいや、あんまり釣れないね』

『おじちゃん、お魚釣れた?』と、4つぐらいの女の子。
『ん? そこにあるから見てご覧』
『ワー、生きてる〜。お母さんホラ、お魚泳いでるよ』

母親もバケツの中をのぞいている。
『ボートだア』と寄ってきたのは6、7歳の男の子。

『ぼく、ボート乗るかい? 乗るんならお父さんに漕いで貰えよ。
 乗りますか? 乗るならオールもあるし・・・』
『いやあ、きょうはいいです』

『お父さん、今度釣りしに来ようね』
『うん、そうだね』

いい親子だ。

       ★ゴーヤの季節

 このところ、やや太り気味だ。やたら食欲がある。毎年夏になると食欲が増す方だが、
それにしても今年はどこかいつもと違う。どうも、煙草をやめたのが原因らしい。

何を見ても食べたくなる。腹が減って仕方がない。間食はしない方だが、1日に10個以上は
飴をしゃぶる。そのせいか、体重が少しずつ増えている。身長(175センチ)からいって、
まだ肥満度マイナスだが、75kgを超えないように気を付けよう。

また、食べものの話。

ワカメを採るとき、めかぶは出来るだけ残すようにしているのだけれど、
手で引っ張ったら、つい根こそぎ採ってしまうことがある。

茎ワカメやめかぶはこりこりと歯ごたえがあって美味しい。
酢じょうゆ漬けにしておくと保存も利く。

ワカメは茹でると、さっと緑色になるが、めかぶは、さらに明るい緑に変色する。
黄緑色に近いぐらいだ。どうしてだろう?葉緑素より別のモノが多いのかも知れない。
この鮮やかな黄緑を生かした料理を考えよう。

酢に漬けるとせっかくの明るい緑が黒ずんだ茶色になってしまう。
味はいいが、これではせっかくの美しさが台無しだ。
真っ黒な器に、鮮やかな黄緑色のめかぶを盛りつける。きれいだ。

考えてみれば日本人ほど食べ物の色にこだわる人種も少ない。
目で食べる人種。
イタリアの赤と緑、インドのカレー色も食欲をそそる色だが、日本人は
さまざまな色にこだわり、食材の色を生かそうとして器まで選ぶ。

ゴーヤの季節が近づいた。ゴーヤの緑色もきれいだ。
かつては沖縄の料理だったゴーヤチャンプルーが、いまでは全国区になったように、
ゴーヤもかなり広く食べられるようになった。

あの爽やかな苦みがいい。

<クッキング編>

きょうは、ゴーヤをヤマトンチュウ(大和人)風にアレンジしたオリジナル料理を紹介しよう。

★ゴーヤの梅肉白和え★

 1)ゴーヤは大きいものなら1本、小振りのものなら2本を3ミリ厚ほどの薄切りにし、
   軽く塩ゆでして水にさらす。(ゆで過ぎると食感がなくなるので注意!)
 2)梅干しの種を抜き、梅肉をていねいに刻んでおく。
 3)豆腐3/2丁、または1丁を軽く水切りしておく。
 4)1,2,3をボールに入れ、削り節1パックと、めんつゆ(濃縮2倍)を加えて混ぜ合わせる。
 5)最後に半ずりのごまを混ぜれば出来上がり。

夏向きでさっぱりとして、ゴーヤ好きにはたまらない一品。酒の肴にも最適だ。
豆腐の白とゴーヤの緑が爽やかで、白っぽい器でも黒い器でもよく似合う。
できれば色絵の器は避けたい。

秋になると、畑に残った苦瓜が、裂けて、熟した紅色の果肉をさらしている。
苦瓜の最後は無残な感じがする。

学名はツルレイシ。沖縄ではゴーヤと呼んだりレイシと呼んだりするようだ。
東北地方は知らないが、最近は関東辺りまでよく食べられるようになった。

イボ状の突起がいかにも東南アジアの食べ物だなア、という気にさせる。
沖縄の代表的なゴーヤ料理と言えばゴーヤ・チャンプルーだろう。
チャンプルーとは、かき混ぜるという意味だと聞いた。

ちなみに沖縄の文化は『かき混ぜ文化』だとも聞いた。
言われて見ればそんな気がしないでもない。

以上、『知・快・貧TV』(知的快活貧乏の略)より<きょうのお料理>でした。

トシを取ると小食になるが、なかなか小食にならなくて困っている。
きのうも、7品のおかずを作って、全部平らげた。
これじゃあ、太るのも無理はない。何とかせにゃあなるまいて。

ぐうたら漁師、肥満直前。

(2003.6)