森の生態系
アマゾンの自然破壊がいわれていますが、実際はどうなんでしょうか。先住民の生活も追いつめられているのでしょうか。
関野 アマゾンの焼き畑が、自然を破壊すると言う人がいましたが、冗談じゃないです。アマゾンの先住民のやっている焼き畑というのは、白然を破壊しないで効率よくやれる最善の方法だということが、最近、生態学者の研究によってもわかってきたんです。
ジャングルの写真を見ると、青々として、一見とても肥沃な土地に思われますが、実際には非常に貧しいやせた土地なんです。砂漠よりも悪い。砂漠の土地は、栄養はたっぷり含まれているのですが水分がないために荒れているわけです。アマゾンの場合は、もともと土壌に栄養分が少ないと言われています。
どうしてあんなに青々とした樹水が茂っているのですか。
関野 アマゾンの森の中に入ってみるとわかりますが、下の方には何もない。走り抜けられるほどスカスカなんです。高い樹木に日差しが遮られ、小さな木や草などがなかなか育たない。
それから、驚かされるのは、回りをグルッと見渡すと、同じ種類の植物がほとんどないことです。つまり、樹木が違うということは、必要な養分がそれぞれ異なるということです。根の生え方も違うはずです。少ない養分をそうやって分け合って生きている。
そこに日本とか欧米の企業が入って来て、ワッと樹木を切り倒して、バナナやパイナップルのプランテーションをつくってしまう。そういう一種だけを植える栽培方法だと、3年ぐらいまでは何とか収穫できますが、その後は砂漠てす。
先住民の人たちの方法というのは?
関野 木を全部伐採するようなことはしません。日陰になるところを残しておくんです。一部、木は残っていますから、根っこが水分を吸収してくれます。そのうえ、彼らは、バナナやとうもろこし、さつまいもなど、混ぜて植えるんです。森の生態系をまねしているんです。ある生態学の学者に言わせると、「彼らは生まれながらの生態学者」と言うことになるんです。
なおかつ、彼らは、3、4年同じ土地で栽培すると、他のところに移動します。森の養分は抜けきっていないので、森は再生できるんです。
いろいろな作物を一緒に植えるのは、リスクを避ける、どれかがダメでも、他のものが成育し、飢えを免れるから、と思っていました。
関野 それもあるかもしれません。先住民の住む南米の熱帯雨林では、飢えるということがないんです。彼らの活動の大半は食べることにエネルギーを使っているんですが、食べるということでけんかすることはない。そういう意味でも、彼らは経済至上主義ではないんです。
生態学者など、いろんな人が森へ入っていますが、一番森を知っているのは彼らなんだと思うんですね。それはなぜかといったら、いのちがかかっているからてす。森のこと、自然のこと、その怖さを一番よく知っているのは彼らです。自然によって大変な目にあっているわけです。だけれども自然は恵みでもあります。すべては森と川という自然から採ってくるんです。
今、この部屋を見渡してみると、服にしても機械にしてもにしても壁にしてもどれをとっても素材のわかるものはないですね。逆に彼らのところに行ってハンモックの上でボケーっとして見回してみると、素材のわからないものは一切ないんです。
自然に依存して暮らしているんですね。
関野 自然を利用するためには、自分たちの知識だけじゃなくて、親父とかおじいさん、おばあさんなど祖先から伝えられた知恵を利用して、そしてなおかつ自分たちの創意工夫を加え、何干年も生きてきた。スペイン人がやって来るまでは、ほとんど生活スタイルは変わっていなかった。それを壊してしまったら生きていけないです。
先住民は、その土地、自然環境に適応するなかで、長年かかってサバイバルに有効な文化や生活スタイルを編み出してきたのですね。

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