シャーマンの力

そういう事柄を話し合ったり、決めたりする長老会議のような機関ってあるんですか。


関野 それが祭りなんです。彼らにとっては祭りは最も大切な催しといえます。同盟関係にある村の人々を全員招待するんです。その時、穴のあいた植物の茎を使って幻覚剤の粉末を相手の鼻の中に吹き込む。それをかわりばんこに繰り返すと、森の声や、山の声が聴こえるようになるんです。聖霊と話すこともできる。


 彼らは病気や死を最も恐れています。病気や死は、敵のシャーマンが送って寄越した悪霊によって引き起こされると信じているんです。そこで、こちらのシャーマンは、幻覚剤を吸って精霊たちを見る。もちろん、悪霊も見えるようになるので、そこで追い払うことができるというわけです。

ご覧になっていて、実際、治るようでしたか。


関野 ケースバイケースなんです。マラリアが流行っている時のことです。マラリアは3日熱といって48時間たつと、2、3時間は悪寒がして、次の2、3時間は汗が出るぐらい熱が上がる。トータルで5時間くらい続いて、そのあとは今までどうしたんだろうと思うくらい普通の状態に戻るんですね。それからまた8時間後には同じ状態がやってくる。シャーマンが4、5時間一生懸命祈っていると、症状が一時治ります。だからインチキとかいうのではなくて、それによってシャーマンの威厳が高まるわけです。


 心療内科的な病気の場合、シャーマンが祈ると気持ちが安まって、病気が回復する場合があります。頭が痛いという人に、強力な頭痛薬だといってビタミン剤を与えても頭痛が治まることはよくある例です。アンデスのシャーマンも同じです。


薬草などは使うのですか。


関野 アマゾンではあまり使っていませんでしたが、アンデスの方は民間薬が主体でよく使っていました。

関野さんご専門の西洋医療を、彼らはどう思っているんですか。


関野 皆、西洋医の病院には行きたがらないですね。言葉が通じない、金がかかる、医師が傲慢でインディオを見下した感じで、金ないんだろうという態度をとる者が多い。ですから、伝統医療の医師の方が親しみがわくんです。


関野さんご自身は、伝統医療の治療を受けたはありますか。


関野 ありません。即効性に関していえば、日本から持ってきた薬の方が効きます。抗生物質はてっとり早く効きますから。彼らもそれは知っていて、頭が痛い時や、細菌性の病気の場合には、薬がないかと言ってやって来るんです。

すると、関野さんはそこでたちまち偉大なシャーマン?


関野 違うんです。シャーマンの方がはるかに偉い。彼らは、西洋医学の化学薬品の効果はちゃんとと知っているんです。ですから治してあたりまえ。治らないと、「なんだ、この〜」といった感じになるんです。