村の秩序


先住民の集落ですが、村長とか、シャーマン(呪術師)とか、統率するリーダーはいるんですか。

関野 村長というのはやはりいます。ただ、リーダーには条件があって、1つは武力に秀でていて強いこと。2つ目が呪術ができること。3つ目が経済力。狩りとか、作物をつくるのがうまいかどうか。

  この3つの条件を兼ね備える人がリーダーになれるんですが、いずれの条件も備えた者というのはなかなかいません。ですから、現実には、病気が流行っている時は、呪術に秀でた者が。戦争状態の時は、力の強い者が。平和な時には経済力のある人が、力をもってリーダーシップを取るといった感じです。


人格は条件に入らないんですか。


関野 それよりも、いざというとき、先頭に立って、弱い者を守ってくれるか、その実力があるかどうかが1番の評価の対象になっているようです。戦争となると、攻めて来た敵は若い女性に狙いを定め、奪い去る。誘拐すると、敵方の全員の男性に乱暴される。ですから守ってくれる強い男が、彼らの中では期待される男性像です。刀で殴られても、棒で追いかけられても、強い男性が人気なんです。


集落での争い、トラブルはどうやって納めるのですか。


関野 ヤノマミ族は、けんかなどはある程度やらせています。かわりばんこに一回ずつ、木の棒で殴り合う。血が出たり、骨を折ったりもするんですが、どちらかが動けなくなったり、戦意を失ったりすると終わりになります。感情を爆発させ、肉体をぶっつけ合って、自然、納得するところで納まる。普段でも、感情を表にさらけ出す性格をもっているようです。南米では他にいないと思います。


 他の部族はもっとシャイです。例えば、マチゲンガ族は、僕の着替えのシャツがほしいと思っても、直接には言い出せない。弟がやってきて、「兄貴、シャツないんだよね、かわいそうなんだよ。おまえたくさんシャツもっているんだろ?」という言い方をするんです。久しぶりに再会しても、ニコリともしません。時間がたって夜になったあたりから打ち解けてくる。


 ヤノマミ族だったら、シャツを引っ張って、「どうして俺にくれないの?」と来る。再会した時でも、体をジャンプさせて、大声をあげて騒ぎます。これが挨拶がわりで、同盟を結んだ仲間だという記しなんです。ただ、どちらの先住民も、こころの動きはそれほど変わらないと思います。感情の表現の違いだと思います。


周囲に敵が多いとか、いないといった社会環境の違いみたいなことが影響しているのでしょうか。


関野 
確かにそれはあるかもしれません。マチゲンガ族は、周囲に敵となる集落はいませんし、ヤノマミ族は、100人単位の集落が、100ヶ所ぐらいに散らばっていて、よく戦争をしています。ある村と村は同盟を結んで交易したり、祭りに招待し合ったりして、他のグループからの攻撃に備えています。


 ある時、こんなことがありました。一人の女性をめぐって、2人の男が反目しあうというトラブルがあり、それが原因で、一人の男とその家族が村から出て行ったんです。歩いて1時間ぐらいのところです。その家族と仲の良い他の家族も何世帯か、一緒に出て行ったんです。仲が悪いのは反目し合った2家族で、村人同士は仲良くやっています。歩いて1時間と近いので、よく行き来しているんです。村が分裂するほどのトラブルになると、片方のグループは、ずっと遠くへ引っ越してしまうんです。


犠牲を小さくし、村の秩序を保とうという知恵なんでしょうね。


関野
 ええ。村と村の社会関係は、皆とても大切にしています。例えば、ある村ではハンモックを作り、ある村では籠をつくる。分業体制を作って、交易を行い、同盟関係を強固なものにしています。全部ひとつの村で自給自足をしてしまうと、その村の中だけで済んでしまい、他の村と交流をする必要がなくなります。そうなると部族間のあつれきが増えるので、他の村との友好関係を保つためにわざわざ、そういうことをするんです。