自然のリズム時計


彼らのライフスタイルを、僕らはまねすることはできませんが、我々が学ぶべきことはありますか。


関野 一番、違いを感じるのは、太陽、月、自然への思いです。誇張ではなく、満月の夜は、普通の状態て本も読めるし、旅もできる。


 彼らは太陽の位置によって時間を知りますが、曇っていたり、雨が降っていると太陽が見えない。すると僕のところに時計を見に来るんです。時計を見て、今、太陽はこのへんだとわかる。彼らは、時計のことを「太陽」と呼んでいます。


 旅の途中で、街に戻らなくちゃいけない時があったんです。彼らには暦も時計もないので、僕は再会の約束をどうしたらいいかと考えました。


 
すると、彼らは「次の満月に会いいましょう」って。東京ではそういう約束をしたことないです(笑)。月や太陽を見るとか、森に依存した生活をしていると、やっぱりそこに精霊がいるとか、森の声が聴こえてくる気がする。僕は、合理的、科学的にものごとを考えることを、小さい時からトレーニングされてきたけれども、やっぱりそれでは説明できないものがあるんじゃないか、とああいうところに住んでいると考えるんですね。

 シャーマンに「山の神様、大地の神様の声が聴こえるだろう?」って言われて、一生懸命聴こうとするんですが、僕は聴こえないんです(笑)。聴こえたらいいな。彼らは本当に聴こえているんだと思うんです。


関野さんの場合、普通の旅と違って奥地に入りますでしょ。滞在も長いからそういうコミュニケーションもできるのではないですか。


関野 だけどやっぱり、成人になるまで、科学とか合理主義とか、そういう発想の仕方のトレーニングを受けているので、呪術師に占ってもらって、良いことを言われたりすると、ほっとしたりすることはありますが、一方で、そんなことやってもなと思ったり、それは違うんじゃないかなあって思って、揺れてくるんです。

また、そうじゃないと、帰って来れない(笑)。世界観というか、パラダイムが違うんですね。旅をしている時、関野さんの武器にしているものは何ですか。


関野 時間です。たっぷりとした時間。そうしないと彼らの中に入っていけないんです。ある一定期間、1週間とか1ヶ月のうちにと、何か成果を上げようとして行くとやっぱりダメなんです。信頼関係ができてはじめてつっこんだ話ができるし、写真を撮ることができる。それにはどうしても時間が必要なんです。

 よく、「おまえ時間があって好きな事やっていいな」と言われるんですが、その時間を僕は作り出している。みんな「忙しい、忙しい」って、「忙しいことがえらいんだ」と言う人が結構いますけど、能力以上のことをやるから忙しいんであって、「忙しい」っていったって、自分のことをやっているんですから(笑)。忙しくても別にえらくないですね。