大いなる自然の生命

雪が溶けて、黒土をもたげるように顔を出すふきのとうを

  そっと採ってきて料理して食べる

    ああ、春だなぁって体の奥から嬉しさを感じます



 第2回地球人フォーラム(地球人通信実行委員会主催/3月22日(土))では、、佐藤初女さんを迎えて映画『地球交響曲(ガイアシンフォ一)第二番』の上映会(厚木市文化会館大ホール)を開催する。初女さんとはどういう人なのか、彼女の魅力は? 岩木山(青山県)の中腹にある施設「森のイスキア」に佐藤初女さんを訪ね、その実像に迫ってみた。

小原田泰久



佐藤初女(さとうはつめ)さん
1921年青森県生まれ。19歳から3年間小学校の教員を務め、24歳で結婚。以来、ガールスカウト運動に携わる。弘前学院短大家政科で染色の非常動講師を15年続け、その一方で老人ホームを訪問したり、自宅を開放して心を病んだ人々を受け入れるなど、ボランティア活動によって多くの人の支えとなる。初女さんを慕う人々の協力で、1992年、岩木山の麓に憩いと安らぎの場「森のイスキア」が建てられた。大自然の中に、心病める人の憩いの場をつくりたいという願いを実現させる。映画『地球交誓曲第二番』で紹介され注目される。国際ソロプチスト女性ボランティア賞、第3回ミキ女性大賞、第48回東奥賞受賞。

※「家」とかホームのような囲われた感じのしない開けたものにしたいと「森のイスキア」という名前に。イタリア・イスキア島の、絶望や課題を抱えた人がこの島へ来て癒され、社会奉仕がしたいと思うようになって帰ってくるという伝説のある島の名前からつけられた。



 『地球交響曲』という映画が評判になっている。今なお、全国各地で一番と二番が上映されているが、自主上映という形で100万人を超える人がこの映画を見ている。“自然”と深くつきあっている人たちを紹介したドキュメンタリー映画。決して派手なテーマではないにもかかわらす、人から人へと伝わり、「地球交響曲、見た?」という言葉があちこちで交わされている。

自分の感覚に従う

  佐藤初女さんは、子どもの頃、結核にかかり、1日に何度も食べた物を戻し、体はどんどん衰弱していった。そんな状態のなかで、彼女はとても子どもとは思えない決意をするのである。 「わが身、試さん」

  病気を怖がっていても仕方ない。自分の体なんだから。白分で治そうという心強い決意だったのだろう。その思いを抱いた日を境に、彼女は薬をやめて、おいしいものを食べるように心がけた。おいしいと言っても、いわゆるグルメというものではない。山菜を自分で採ってきて、白分の好きな味付けにして食べるのである。おいしいという感覚を通じて自然のエネルギーを体にたっぷりと取り入れたのである。彼女は、めきめきと、元気を取り戻した。

  この映画の第二番に登場し、物語の縦糸的な役割として映画をきりりと引き締め、同時に見る人をほんわりと温かな気持ちにさせてくれるのが初女さんと森のイスキアなのである。「私は『面倒臭い』という言葉が大嫌いなんです」と、彼女は映画のなかで語る。

  そして、何時間もかけてくるみをすり鉢とすりこぎを使って砕く姿を見せてくれる。漬かり具合によって、一晩に何回も漬物石を取り替える。梅干しを一個ずついとおしげにお日様の下へ並べる。それは、初女さんがくるみや白菜や梅干しと語り合っているかのような光景である。

  実際、彼女は語り合っているのである。「すべてのものに命はあります。その声を聞くことがとても大切です」 彼女の哲学である。初女さんは、子どもの頃、その体験から食べ物の重要性を痛感することになる。それも、おいしいものを食べれば元気になれるという単純すぎる理屈を素直に実践し続けてきた。「私は何でも食べますよ。あれは食べてはいけない、これは体に悪いというようなことは言いません。そのとき食べたいと欲しているものを体は求めているんだと思います。その体の声に素直に耳を傾けた方がいいんじゃないでしょうか」

  静かな口調である。それでいて強烈なエネルギーが伝わってくる。心のアカがボロボロと取れ落ちてくるような思いがする。“体の声”と初女さんはいう。体は、いつもその状態を私たちに訴えているのである。

  ちょっと食べ過ぎていませんか。少し休んだらどうですか。これくらいの熱なら大丈夫ですよ。その都度、体は声を発しているのである。その声に耳を傾けようとせず、暴飲暴食をしたり、仕事に忙殺されることのいかに多いか。その結果として、病気で倒れたり、精神的に不安定な状態になってしまう。

  「妊娠したときにね、一日に何度も喀血をし、体はどんどん衰弱している。このままだと母子ともに危険だから産むのはあきらめなさい、と言われました。4人のお医者さんに診てもらいましたが、みんな同じ判断でした。でも、大丈夫って感じたので産んだのです」

  何よりも白分を信じ、体の声に従った結果が医学的な常識をくつがえしたのである。すくに手術しないと危ないと言われたこともあったという。そのときも、体の声に従って手術をしなかった。それでも、元気にこうやって長生きしていますよ、と初女さんは笑う。