三面記事にみる昭和庶民生活史 (大阪朝日新聞 昭和2年9月23日)

盗猫団ついに御用

月守晋


 昭和2年の夏、大阪市西区、南区一帯で、ひんぴんと飼い猫が盗まれる事件が起きた。当時の新聞表現によれば、「良家育ちの毛色の美しい猫」が集中的に狙われ、愛猫家たちに大恐慌をもたらしていた。


 9月21日、築港遊園地を巡回していた水上署の署員が、ベンチで昼寝をしている不審な若者を発見。取り調べると、枕にしていたトランクの中から10数匹の猫が見つかった。


 石川県生まれ。住所不定、24歳のこの若者が愛猫家を恐怖に陥れていた「盗猫団」の親で、少年や浮浪者を組織して「猫釣り」に励み、毎月百匹からの猫を「釣り上げ」て、京阪神各地の製革業者に売り飛ばしていたのである。若者はもと警察の野犬毒殺係。干し物を餌にした猫釣りの技術に長けていたというが、その釣り方については具体的な説明はなされていない。


 猫一匹の売値は野良猫が2〜3円で、毛色のいいのは5〜6円。ちなみに、昭和3年の東京の大工手間賃が1日3円10銭(『値段の風俗史』)ほどだった。

(地球人通信1996.10)