三面記事にみる昭和庶民生活史 (大阪朝目新聞 昭和2年10月27日)

17歳の少年を父親が去勢
月守晋

 昭和2年、長崎県松浦郡で17歳の少年が父親から去勢されるという事件が起きている。去勢の理由を50歳の父親半造は、息子が「手に負えない変態性欲者で、いたるところで話にならない醜行を行っているため」だと説明した。

 しかし、少年の伯父から父親が告訴されて、事件は意外な展開をみせる。少年はこの平造の実子ではなく、実の父親は戸籍上は祖父となっている百太郎という人物。平造は百太郎の養子で、その実子として少年の名が戸籍には届けられているというややこしい関係。

 平造が前記少年の身持ちの悪さを理由に親族と協議の上、佐世保の病院で去勢手術を強行したのには、お定まりの遺産分与がからんでいた。祖父、百太郎は2ヵ月前に死んでいたのである。

 当時の法律では子孫を残せない“不具者”には相続権が認められない。それにしても、こんな手術を引き受けた病院はどれくらい握らされたのだろうか。

(地球人通信1997.4)