ホリスティック医学って何ですか
医療は科学だけの領域ではありません

帯津良一(帯津三敬病院院長)

 「医学は科学である」と考えている人がいるようですが、はたして本当にそうでしょうか。私は医者として西洋医学に限界を感じ、ホリスティック医学への道を進んできました。このなかで確かなことは、「医療は科学だけの領域ではない」ということです。

  以前、あるテレビ局から電話をいただきました。その記者のかたは、「気功などの療法が効くということを科学的に実証しているのか」と、尋ねてきました。私はそんなデーターを取ってはいませんし、取る気もありません。たとえば、「いい気持ちだ」という感情を、数字で表すのは困難ですし、こういったデーターにはあらゆるファクターが入りますので、あまり意味のあるデーターにならないことが多いのです。

  電話をかけてきたかたが、ともかく見学させてほしいというので来てもらいました。数日後、やってきたのは若い男性記者でした。回診について回り、気功の道場やイメージ療法をひととおり見学した記者は、「ミニ番組で紹介したいので、ぜひ改めて取材させてほしい」と言いました。

  後日、カメラクルーをひきつれての1日がかりの取材となりました。記者は、取材を終えた後で、私にこう言いました。「医学は科学だけではないということが、だんだんわかってきました」と。 

  科学、科学といっても、気持ちがいい、うれしい、楽しい、という感情は人それぞれで、一律に計れるものではないでしょう。まして、自然治癒力に働きかける気功など、その「自然治癒力」自体が何であるかを、今の科学は解き明かしてはいません。いわば、いまだ科学が追いつかない世界をあいてにしているのですから、未熟な科学で実証するというのは、現段階では無理でしょう。

 あと何年かして、自然治癒力の実態が明らかになれば、数値で説明できる日が来るかもしれません。

 
 しかし、そのときまでは、まだよくわからないものを相手にしているのだと考えて、あまり科学、科学とは言わないことです。取材の記者のかたは、自分の目で確かめて、医学は科学だけではないことに気づいてくれました。パッと発想を変えられる柔軟さを、私は好ましく思います。

 
 今、医学が大きな転換期に来ていることは、多くの人が指摘するところです。ホリスティックなアプローチによる医学が主流となる日も近いでしょう。私たち医者は、その時代の流れを謙虚に受け止め、これまでの医学に固執することなく、医者としての原点に立ち返らなければならないと思います。

(地球人通信1996.10)



【書籍紹介】 たま出版・細畠保彦

手塚治虫の愛と癒しの書
 帯津良一 著
たま出版 1400円


  ある日、帯津三敬病院の院長室に、手塚治虫作品の『火の鳥』、『ブラック・ジャック』をドカッと持ち込んだ。手塚作品にうたわれている生命感やホリスティック医学思想が、帯津先生のいう「生命場」の考えに重なると思ったからだ。


  生命やホリスティック医学が、広く社会に受け入れられつつある現在、手塚作品を改めて読み直して驚いたのは、むしろ現在の目から見て新しいことだった。

帯津先生の「生命場」の考えをキーにした手塚作品の新しい読み方。本書を読んだ患者さんの評判もいいようだ。闘病中の人だけでなく、健康な人にもぜひ読んでいただきたい。