ホリスティック医学って何ですか
部分同士の、目には見えないつながりこそ大切です
帯津良一(帯津三敬病院院長)

  「ホリスティック医学って何ですか?」
これはよく聞かれる質問のうちのひとつです。いまだに英語で呼ばれていますが、日本語に訳するとすれば「全人的」とか「全体的」という意味です。最近ではホリスティックという言葉を使っても、そのまま受け入れてくれることが多くなりましたが、まだ広く一般的な言葉とはいえないでしょう。

 私が埼玉県川越市に「がんに対するホリスティックな医療」を行う病院を設立したのは1982年のことです。それまでの私は、長年の間、食道がんの外科医としてがんの治療に取り組んできました。しかし、ある時ふと、「がんの治療成績が西洋医学の進歩につりあっていないのでは?」という疑問を抱きました。1970年代も終わりの頃です。

 1970年代後半以降のがんの診断技術や治療に関する進歩というのは、それだけを見てみれば目覚しいものがあります。しかし、それらが治療成績には反映されていないのです。統計処理というのはいろいろなファクターが入りますので、いくぶんあてにならないところがあります。例えば、5年生存率というのもそのひとつです。仮に5年と1日で亡くなった方がいたとすれば、それは統計的に見ると、生存者に含まれるのです。

  その統計処理された5年生存率を、1990年から過去20年に遡って調べてみました。すると、医学はものすごい勢いで進歩しているのに、がんの治療成績はそれに見合うほど上がっていなかったのです。その時、私は、これは西洋医学のもっている宿命と限界ではなかろうかと感じたのです。これは、私が病院を設立するきっかけのひとつでもあります。

  西洋医学は臓器の部分を見ることにかけては、他のどの医学にも負けないものをもっています。ただ、あまりにも人間を臓器ごとの部分に分解してしまったために、人間をまるごとひとつの単位として考えることをおろそかにしてしまった感が否めません。部分部分に人間を切り離して考えてしまうと、部分同士の目には見えないつながりを、ずたずたに切ってしまうことになります。

  そのつながりこそが大切なのです。これからの医学は、つながりをまるごと一緒にみる医学でなければなりません。ホリスティック医学とはまさにそういうものです。

  このコラムを担当するにあたり、ホリスティック医学についての理解を少しでも深めてくださればと思います。

(地球人通信1996.7)