星くず
地球人誕生の瞬間


 「それは私の人生において、最高にハイの瞬間だったが、エゴが高揚するハイの瞬間ではなくて、エゴが消失するハイの瞬間だった。種というものをこれほど強烈に意識したのははじめてだった」(『宇宙からの帰還』立花隆著)

 これはアポロ9号の宇宙飛行士ラッセル・シュワイカート氏が、ほんの5分間、無音の宇宙空間を遊泳中、地球を眺めていたとき襲われた、劇的体験を語った言葉である。あの龍村仁監督の『地球交響曲第一番』でも、その体験を、感動的な言葉で語っている。

ラッセル・シュワイカート氏はマサチューセッツ工科大学を卒業、空軍のパイロットになる。そしてNASAの宇宙飛行土に選ばれるのだが、この経過を見る限り、いかにも若きアメリカ人エリートがたどりそうな道といった、ごく平凡な印象しか感じられない。

その彼が、アポロ九号に乗って地球を脱出、遠い宇宙空間から、小さくなった青い地球をふり返った瞬問、それまで営々と培ってきた個人主義や、西洋合理主義の精神を一挙に貫き通し、地球人意識に目覚めてしまったのである。


  まさに電撃的な悟りだが、シュワイカート氏はこの体験を「宇宙的覚醒」と呼んでいる。しかし、もちろん宇宙飛行を体験しなければ、地球人意識に目覚めることができないかというと、そういうことはない。

 龍村監督も、『地球のささやき』(創元社)の中で指摘されているように、「<私>という個体意識から<我々>という<地球意識>への脱皮は、そんなに難しいことではない」

その我々(地球の子どもたち)という記憶は、私たちすべての人間の中に眠っているだけなのだ。したがって、それをそれぞれが意識して目覚めさせれば良いのである。地球人への道は、気づきさえすればそこにある、というわけである。
(河音元/地球人通信1996.10)