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チェルノブイリと地球

広河隆一(フォトジャーナリスト) 講談社 1800円

カメラで追い続けた人間の不条理


  この企画をはじめて検討した時のことです。会議室のテーブルを覆い尽くすように並べられた、何百枚もの写真に焼き付けられたウクライナとベラルーシの大地を俯瞰してみても、10年前の事故の傷跡は目につきません。目に飛び込んできたものは、緑深く空群青に澄み渡り、大地の息吹さえ感じられるダイナミックな大陸的風景でした。しかも、その点景として、大地にしっかり根を下ろしている人々の生活があり、チェルノブイリの悲劇は幕を閉じた、と・・・。


 しかし、事実は、深く巧妙に、1本1本の木の表皮の下に、空気の粒子と粒子の間に、人々の細胞の中に隠されていたのです。

 著者の広河氏は、事故以来10年の長きにわたり、この地を取材し続けてきました。おそらく、被爆量は日本人としては一番多いでしょう。そんなそぶりは少しも見せず、氏の説明はいつものように訥々と、そして理路整然と進行します。説明が終わった時、私はこみ上げてくる絶望感と怒りに呆然とし、しぱらくは議論する気にもなりませんでした。これは、同じく広河氏に『龍平の未来』を編集するにあたり、薬害エイズの実態を知った時も同じです。これほどの不条理がまだまだ時代には存在する、このことをいつも教えてくれるのが広河氏なのです。


地球がくれたエネルギー


  この本の中には、汚染されたジャガイモを孫のために送ろうとする老夫婦や、放射能で汚染された「車の墓」から部品を掘り起こして売る人、白血病や甲状腺ガンに苦しむ子どもたちなどが登場し、悲劇は弱者を襲うことを改めて知らせています。これは、「薬害エイズ」や「住専問題」で割を食う国民には、他人事ではありません。国内には現在でも多くの原発が稼働していますが、「もんじゅ」を例にとるまでもなく、かつて何度もその安全性が問われてきましたが、国や企業は、はたして我々に本当のことを知らせてきたでしょうか。

 この本の巻末には、「地球がくれたエネルギー」という章があります。この中では、住民の反対で閉鎖された原発のまえに設置された太陽光発電施設が、カリフォルニアの空から太陽の恵みを分け与えられ、もとの原発の発電量をまかなうまでになった、希望あふれる風景があります。日本では、今、真夏の1〜2週間の昼前後をのぞいて、これらのソーラーパネルは、チェルノブイリ以外の選択の可能性を、人類に示そうとしているような気がしてなりません。

(講談社 間渕隆)



「チェルノブイリと地球」は、子ども向きに、写真を中心にまとめています。同じく広河氏の10年目のレポート「チェルノブイリの真実」(講談社/2000円)もあわせてお読みください