本つくる人の気持ち(地球人通信1996.10)

未来圏からの風

池置夏樹(作家) 写真・垂見健吾  パルコ出版 3200円


人間としての実在感

 この本が、いかに多くの人々の手によって育まれ、形を成してきたかは、著書のあとがきに詳しく触れられている。テレビ番組の企画としてスタートし、雑誌「SWITCH」の連載を経て、1冊の作品集にまとめられた本書には、さまざまな分野のプロフェッショナルたちの思いが込められている。

  その思いを言葉にして綴るとすれば、「我々はどこへ行こうとしているのか」という終わりのない疑問符。ひとりひとりのなかに潜む「答えを得るのではなく問い続けるための旅」だったように思う。著者である池澤夏樹氏と写真家の垂見健吾氏の身体と五感を通して、我々は多くの体験を得る。過去からの伝言を伝え続けるダライ・ラマやバリの人々との対話。DNAという基本因子としての人類を見つめ統ける科学者たちの言葉。

  現代の誰もが、感じずにはいられない深くて暗い空洞へ注ぎこまれていくような人間としての実在感が、この本には溢れている。
(パルコ出版・本尾久子)




原初生命体としての人間

野口三千三(東京芸術大学名誉教授。野口体操教室主宰)

岩波書店 同時代ライブラリー 1100円


感覚こそ力である

 からだをやさしくほぐし、力を抜く快感を味わう。繊細微妙な感覚を育てて心身の可能性をひらく野口体操。本書は、創始者・野口三千三氏が、自ら実感した「原初生命体の流動的な動き・まるごと一つの感覚」をもとに白在に展開する身心不二の人間論、運動・感覚・言葉論である。「生きている人間のからだは皮膚という生きた袋の中に体液がいっぱい入っていて、その中に骨や筋肉、内臓も浮かんでいる」「中身こそ自分である。からだの動きは中身の変化がその本質だ」など、従来の身体観を覆す独創的な発想に満ちている。

  81歳の今も元気で瑞々しく、情熱的に体操の授業を続ける著者は、巻末インタビューで「感覚こそ力である」と語り、「ものやことにあたって素朴・素直な姿勢で向かいあう」大切さを説く。常に新しく原初(おおもと)を探り、天地自然に直に習う「自然直伝」を貫いてきた人のたしかな言葉は、生きる喜びと力を与えてくれる。現代人の疎外された心とからだを健やかに取り戻すために必読の書。

(岩波書店・加賀屋祥子)



ゴリラの森に暮らす〜アフリカの豊かな自然と知思〜

山極寿一(理学博士。京都大学霊長類研究所助手)
NTT出版 1300円


ジャングルから地球を見つめる
 地球環境の問題を理詰めで語るのではなく、子どもから大人まで読んでもらえるような本、考えてもらえるような本ができないだろうか。これがはじめに著者と話したことだった。そのためには、実体験のエピソートを語ってもらうことが大事だと考えた。

  著者は、長年にわたり野生ゴリラの研究を続けている京都大学霊長類研究所の先生だ。赤道アフリカの原生林や、屋久島の自然林をフィールドワークの現場とする。本書は、動物や植物がバランスをとりながら生態系を維持している様子、また、そこに暮らす人々の生活を紹介。自然が破壊されれば自分たちの生活環境も揺らいでしまうことを知っている調和のとれた暮らし方が描かれている。

  環境問題については、政治や経済が無関係でないことの難しさについてもわかりやすく語る。本書を通じて、自然保護のこと、地球環境のことを少しでも考えてもらえれば…、それが今回の作品作りの一番の願いだった。ぜひ多くの人に読んでいただきたい。

(NTT出版・飯田晃子)




イルカが教えてくれたこと

小原田泰久(ジャーナリスト)
KKベストセラーズ 1400円


地球に好がれる生き方
  前著『イルカが人を癒す』は、書店に並んだ直後から読者の手紙が相次ぎ、その反響に驚かされた。それから二年、見えない氣の世界を精力的に取材し続ける著者の体験をもとに、気負わない語り口で書かれたのが本書である。自らの子どもの水中での誕生(水中出産)、イルカとの交流と解放、ホリスティック医学への新しい流れ、映画『地球交響曲』の広がりなど、新しい時代の価値観をわかりやすくみせてくれる。

  本書はイルカの話ではない。イルカを通して人が変わっていくものがたりだ。映画『地球交響曲』の龍村仁監督は、「生命はこんなにも多様で、こんなにも限りない可能性を秘めている。この本は狭い価値観に閉ざされていた私たちのこころを地球のこころへと拡げてくれる」と、感想を寄せてくださった。

  「イルカはさまざまな気づきを得るきっかけ。大事なのはそれをきっかけにして自分の役割に気づくこと」と、著者は語る。「地球に好かれ、地球が応援してくれる生き方」とは何か、この本は、そのヒントを与えてくれる。

(KKベストセラーズ・稲垣豊)