曾我丘陵曾我の里と曾我丘陵南東端の高山を望む

三月上旬の曽我丘陵、例年以上に寒さの続いた冬だから梅の花もまだ咲き残っているかと来てみたら、残るどころか満開だった。このときは昼過ぎに家を出たので、国府津駅から歩き出して丘陵最高点の不動山に至る前に日がだいぶ傾き、メインの山稜を追うのはやめにして六本松跡というところから里に下った。


その半月後、好天の予報に誘われて再び訪れてみた。国府津駅を出て右手へ、国道までは出ず、線路脇の細い舗装路を小田原方面へ。右手の東海道線をトンネルでくぐり抜け、御殿場線の踏切を渡ると、四つ辻になっており、国府津ハイキングコースを案内する標識が立っている。ここはまっすぐ、六本松跡をめざして坂を上がる。左手が眺めよく、朱色の柱が目につく菅原神社を下に、背後に広がる小田原市街を見渡し、彼方にそびえ立つ箱根連山に感嘆し、右手奥にまだ白いままの富士に満足する。
菅原神社の向こう、小田原市街の上に箱根連山
小田原市街の上に箱根連山
手前は菅原神社

春の花と無人販売
道筋の両側で目に付くのは蜜柑の木々だ。収穫時期はとうに過ぎたようで、木に付いたまま萎むに任せられているのも珍しくない。枝の向こうには西丹沢の山々も窺える。右手の眺望が開けると相模灘が穏やかな波を打っている。彼方に浮かぶのは伊豆大島、左手の奥には横浜方面が遠望できる。歩いている尾根は意外と痩せているところがあって、左右の眺望が交互に開けて飽きさせない。
相模灘を望む
相模灘を望む
矢倉岳を従える富士山
矢倉岳を従える富士山
山中はハイキングコースの案内板が要所要所にあって迷うことはない。細い尾根筋から山上の立派な舗装路に出ると待ち受けているのは丹沢大山と表尾根だ。丸みのある溶岩円頂丘と鈍角の外輪山ばかりが多数を占める箱根の山々に比べると、東丹沢は鋭角的に見える。大山の三角錐がひときわ鋭く感じるほどだ。コブのような二ノ塔、三ノ塔でさえ、表尾根の険しさの上に顔を出しているせいか荒々しく思える。
丹沢大山と表尾根
蜜柑畑の彼方に丹沢大山と表尾根
  二ノ塔、三ノ塔、塔ノ岳が明瞭
行路のそこここに梅林があって甘い香りが漂ってくる。花が無くても彼方の山並みを見渡す眺望は満足行くもので、申し分ないハイキングコースと言える。ただし足下は延々と簡易舗装路なので底の堅い山靴だと足裏がすぐ痛くなるはずだ。真夏は真夏で照り返しが強烈だろう。
曽我の梅
曽我の梅
五国峠農道記念碑なる石碑を過ぎ、何度目かの蜜柑畑を見るようになると、「風外窟」なるものがある案内が立っている。左に下って500メートルだそうだ。それくらいの距離なら、と寄り道してみる。予想より長く歩き、予想より下りもすると、ケヤキらしき巨木が横倒しになっている谷のどん詰まりに着く。その一角にある風外窟は、横穴古墳群で、近世には禅僧が住まいとしたところだという。全部で7つあるという横穴は、横になるには快適そうなものや、居間として使えそうな広いものやらあって、じつは古墳だということを思うにつれ、よくこんなところに住んでいたなと神妙な気分になる。
風外窟の横穴群
風外窟の横穴群
ここから縦走路に出る近道があり、案内も立っている。興味を惹かれて入っていってみると、荒れた細道で、倒木を潜りもすれば、ぬかるんだ足下を行きもする。歯ごたえ充分だ。運動靴がみるみるうちに泥だらけになっていく。ひょっこり飛び出した果樹園を右に行くと、縦走路に出た。低山といえど距離は短くとも高山同様の難度を見せることがあるとあらためて感じた道のりだった。


さてまた簡易舗装路を追う。いまふたたび箱根連山を眺めつつ、白梅の林を見送って着くのが六本松跡。いまは名称と異なり松の木はない。ここは立体交差を含めて十字路の峠で、陸橋を潜って下れば下曽我駅だ。曽我丘陵へのハイキングガイドは、その下曽我駅からこの六本松まで上がってくるよう書いているのが多いが、途中に宗我神社を初めとした見所が多いものの、登り自体は幅広の舗装路が延々続き、しかも最後は急坂と来ているのであまり勧められない。同じ舗装路を行くにしても、国府津から辿ってきた方が多少は山里の雰囲気が味わえてよい。なお、ここ六本松跡にある方向指示盤には稜線縦走路を示す文言はないので、予めガイドブックなりで調査しておいたほうが迷わずに済む。
初回は六本松跡で3時になってしまい、縦走は諦めて下った。本日はまだ明るいので陸橋を渡って尾根筋の道筋に入る。ふたたび相模灘や大山を遠望しつつ行くと、十字路となり、進むべき正面に続くのは山道となる。眺めはなくなるが土の道なのはうれしい。右手の梅林の脇を抜け、いったん下って登り返すと左手にかなり明瞭な山道が分岐していく。不動山の山頂へと続くもので、ゆるやかに屈曲しつつ穏やかに高度を上げていく。表面に歩行の妨げとなるものがほとんど無く、周囲は落ち着いた森が続き、とても歩きやすい。延々と舗装路を歩いてきた身にとっては至福のひとときといってもよい道のりだ。ようやく山歩きをしている気になった。そうして到着する不動山は標識が立つだけで眺望のない山頂だが、かえって山らしくて心地よい。
曾我丘陵の最高点、不動山山頂
曾我丘陵の最高点、不動山山頂
山頂からは急な道のりを数分でもとの道筋に合流する。林道をまたぐと踏み跡だったのが幅広になり、轍の跡も目立つようになる。しまいには味気ない巨大アンテナ設備まで出てくる。やれやれと思っていると、右手に冬枯れの木立を透かして何度目かの丹沢表尾根が望まれる。気を取り直させてくれる眺めだ。ちょっと暗い十字路に出る。まっすぐ行けば浅間山だが、先ほどのアンテナ施設のあった場所が浅間山だと勘違いしてしまって左手へ下りだしてしまった。
曾我丘陵は断層の上に高まるせいか、低いわりには里への傾斜が急な部分がある。山腹を巡る車道を辿って見晴らしのよい場所に出ると、曽我の里が眼下に広がる。日が回って暖かそうに見えるが、夕方近くなので風は冷たい。でもそこここの白梅は散りだしている。春の盛りはもうすぐだ。山にも里にもいろいろな花が咲くことだろう。


行きそびれた浅間山は、ガイドによるとアンテナやらなにやら人工設備の多い味気ない場所のようなので、行かなくてもそう残念ではなかったが、まるで興味がないわけではない。国府津ハイキングコースは足慣らしによく、曽我の里は見てまわるところがたくさんあるので、また行ったときに訪れようと思う。
夕照を浴びる宗我神社
夕照を浴びる下曽我の宗我神社
2012/3/25

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