日光白根山五色山から日光白根山 眼下は五色沼
奥日光に鎮座する白根山は白峰三山や草津にある同名の山と区別するために地域名を冠して日光白根山と呼ばれることが多い。ここは「シラネアオイの咲く山」「関東以北で最も高い山」として有名だが、かつては信仰の山でもあった(いまでもそうかもしれない)。群馬県の丸山からのコースには不動尊、六地蔵、賽ノ磧、地の池地獄、大日如来等の名称が残っている。上州側では荒山と呼ばれ、恐れ畏み登拝されたという。冬場に日光方面を望んだときにひときわ高く真白く輝くドーム状の姿は「人里を隔絶した神聖な峻厳さ」を備え、「下界をはるかに超越し、雪を頂いた険しい山容」そのままであり、人によってはカイラス山の名前を思い起こす方もあろう。侵食が激しく進んだ山体がガスを後光のようにまとう姿は神域と言うにふさわしいものだ。
朝の8時過ぎ、落ち着いた日光湯本の町なかを出発する。東に面する湯本スキー場のゲレンデの上端部から南方に向かって白根沢沿いに木の根が露出した道の急登が始まる。外山との鞍部に到達すると道は緩やかになり、天狗平からは奥白根が見え始める。前白根からは「魔が潜む」と言われた五色沼を足下にした怪異な風貌の奥白根が眺められる。
前白根から奥白根側に下ってすぐの窪地からコブをひとつふたつ越えて避難小屋を通り過ぎ、お花畑の小さな草原を左に見ながら山体に取り付くことになる。ここからがまた急登である。私が到着したときの山頂はガスのなかで、複雑な山頂地形のためどこが最高点なのかすぐにはわからないくらいだった。
ガスが晴れる見通しが立たないので眺望を諦めてもと来た道を下山にかかる。砂走りの斜面を下りジグザグの山道に達したところで、ガスが晴れた。この山は人を感激させるタイミングを心得ているらしい。男体山から女峰山に連なる山並、女峰の向こうには高原山。さらに中禅寺湖、戦場ヶ原、太郎山、鬼怒沼、燧ヶ岳、至仏山、笠ヶ岳、平ヶ岳が、目を転じれば鋸尾根からマッコウクジラのような姿の皇海山まで見える。文字通り大パノラマだ。足元に青く輝く五色沼周辺は強烈な夏の光を浴びて南国のリゾート地のように見える。
眺望を堪能した後、避難小屋から五色沼を経て五色岳に登り、中っ曽根コースを下って湯元に戻った。この下りは白根沢コースを下るより格段に楽と思える。下り着いた湯本の町は、朝同様に静かなたたずまいだった。
1995/8/4

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